休憩時間も終わり、俺は次の戦いに向けて準備をしていた。
次の対戦相手であるギハルトさんという男は、獣人デールの兄貴分であるらしく、その力はデールよりも高いと思われる。
が、桜たちに応援して貰い、俺の力は今までよりも高まっている。
負ける理由は何一つないだろう。
勝つ。
俺は気合も十分という所で、試合会場へと向かいギハルトさんと向き合った。
年頃はレオさんよりも若そうではあるが、確かにデールよりは年上の様に見える。
「来たか」
「えぇ。お待たせしましたか?」
「いや、まだ姫様からの開始の合図は来てないからな。何も問題は無いだろう」
「それは良かった」
デールの時とは違い、互いに殺気をぶつけ合う様な事も、言葉をぶつけ合う様な事もしない。
ただ静かに、友好的とすら見える会話をするだけだ。
これから存分にやり合うのだから、無理に言葉をぶつけ合う必要はないという事だろう。
まぁ、それはそうだな。
「そういえば」
「うん?」
「俺は武器を使うのですが、ギハルトさんは使わないのですか?」
「あぁ、まぁ……使っても良いんだがな。途中で壊れても面倒だし、無駄だからな。戦場でも無ければ使わねぇよ」
「壊れる……?」
「そう。俺らの力が強すぎてな。武器が持たねぇんだよ。だから少しでも手数を稼ぎたい戦争とかでもねぇ限り、素手でやるんだ。俺たちは」
「なるほど。そういえば、城での戦いでも素手で魔物を殴ってましたね。アレは大丈夫だったんですか?」
「あぁ。まぁ確かに多少は固かったが、まぁそれだけだ。大した事はねぇよ。だから……」
「……」
「お前の武器も折っちまったら悪いな。許してくれ」
「えぇ。そうなった場合は仕方ないですよ。俺が弱かった。ただそれだけの話です」
「そうか。そりゃ助かる。じゃあ遠慮なくやらせて貰おうか」
ギハルトさんはグッと拳を握りしめて、俺を静かに見据えた。
俺も神刀へと手をかけて意識を集中する。
「そういえば、お前の得意技は抜きながら斬る奴だったか」
「えぇ。神速の抜刀術です。速度を乗せている分、威力も高いですよ」
「なるほどな。そりゃ警戒するか」
ギハルトさんは冷静に俺から距離を取ると、開始の合図を待った。
そして、少ししてから審判より開始の合図が聞こえ、俺たちは一気に戦闘状態へと移行するのだった。
だが、まだ互いに動きはない。
俺は居合の型をしたまま動かないし、ギハルトさんもこっちの様子を伺っているだけで動く気配がない。
静寂が会場を包んでいた。
「……来ないんですか?」
「あぁ。デールとの戦いで見たが……お前の一閃。俺じゃ見切れねぇ。攻撃範囲に入ったら一撃を受ける事になる。それはあんまり良くないんでね」
「冷静ですね」
「そりゃ試合だからな。戦争じゃあ、こう悠長にはしてねぇよ。だが、まぁ試合だからこそ。お前と正面から戦わないといけないワケだが……」
「確かに。複数人が居るならば、時間差で攻撃すれば斬った後の隙を突けますからね」
「おいおい。自分で弱点を話して良いのか?」
「既にご存じでしょう? だから、ギハルトさんは受けても問題ない一撃を……探している」
ジリジリと動いているギハルトさんを見ながら俺はその行動の意味を口にした。
ギハルトさんもバレる事は承知の上だったのか、ニヤリと笑ってその通りだと口にする。
そう。話は酷くシンプルだ。
俺が放つ一撃は、全てをその一撃に込めている分、次の攻撃へ移るまでに時間が掛かる。
だから、そこをギハルトさんは突きたいのだが、最初の一撃で致命傷となれば攻撃など出来ないから、俺の攻撃が致命傷とならない様な攻撃方法を探っているのだろう。
「石でも投げれば攻撃は出来ますけど」
「バカを言うな。姫様の前でそんな無様な戦いが出来るものか。ここは戦場じゃない。試合なんだ」
「確かに」
「俺たち獣人は誇りを持って生きている種族だ。勝てば何でもいいというワケにはいかない。まぁ、戦場じゃあ姫様に勝利を捧げる事が最優先であるが、今は俺個人として戦っているんだ」
「それは失礼しました」
「いや……構わん。どの道、その程度で勝てるとも思ってないしな……お前は中々にタフそうだ」
「褒めていただき、ありがとうございます」
「へっ、そうかい。こっちとしては困ったもんだがな……しかし、このままってワケにもいかねぇか。姫様も退屈だろうしな」
ギハルトさんは小さく息を吐いてから拳をギュッと強く握りしめて、両足で地面を踏み砕いてから俺に向かって拳を突き出した。
遠く離れた場所でそんな事をしても何もないと思うが……。
「っ!」
「そこだ!」
俺はギハルトさんの拳が生み出した風によって体が揺れてしまい、体勢を崩してしまう。
それを隙とみたギハルトさんが、一瞬消えたかと思う様な速度で俺に向かって突っ込んできた。
拳を振り上げている事から考えれば、それを俺に叩きつけるつもりなのだろう。
俺は咄嗟に神刀を走らせて、刃を振り抜いた。
「居合……! 一閃!!」
「ジャイアント……インパクト!」
俺の抜いた神刀とギハルトさんの巨大化した獣の拳がぶつかり合う。
その衝撃で周囲に猛烈な風が生まれるが、俺たちは気にしない。
いや、気にしている余裕が無い。
「……くっ」
「居合! 破れたり! 俺の拳で砕けない武器というのも、驚きだがな! この状態ではお前に打つ手はない!」
ギハルトさんは右手を俺の神刀と打ち合わせながら、左手を俺に向けて放つ。
俺とぶつかり合い、力が拮抗している状態というのはギハルトさんにとってチャンスであった。
が、それと同時に俺にとっても大きなチャンスであったのだ。
俺は左手を俺に向けて放つ関係上、僅かに力が緩んだ右手から神刀を抜き、そのまま右手の一撃を受け流した。
「なに!?」
「両手に、同時に力を入れられる者など居ませんよ。欲張りましたね」
「だが、まだ……!」
右手の攻撃を受け流した事で背中に一撃を浴びせてから俺はギハルトさんから距離を取る。
だが、ギハルトさんが受けた傷は浅かった様で、まだまだ問題なく動ける様であった。
俺はといえば、先ほどの攻防で息は上がっており、体力も精神力も大きく削られていた。
種族の差という奴だろうか。
俺は人間で、ギハルトさんは獣人。
その差が大きく俺たちの間に存在していた。
このまま戦っても、じり貧だ。何か作戦を考えなきゃな。
と、神刀を持ちながら呼吸を整えて、俺は考えるのだった。
「……もう居合は止めたのか?」
「えぇ。このまま続けても負けるだけですから」
「そうか。だが……何故かな。先ほどよりも強く感じるな。そっちが本来の戦い方か?」
「よく分かりますね」
「分かるさ。今の方が自然体だからな。慣れている様に見える」
「……なるほど」
見えている人にはよく見えているのだなと思いながら、俺は落ち着いて来た呼吸と共に、神刀を正面に構え、ギハルトさんを見据えた。
先ほどまでの攻防で、少しだがギハルトさんの癖が見えた様な気がする。
まぁ、そう思わされているだけで罠の可能性もあるが……虎穴に入らずんば虎子を得ずっていう言葉もあるし。
踏み込んでみるしかないだろう。
「……では、行きますよ」
「ほぅ。今度はお前から攻めて来るか」
「えぇ。待っていても、良い事はありませんからね」
俺は神刀を構えたままジリジリとギハルトさんへと向かい、ギハルトさんの踏み込んでくる速さを考えながら距離を詰める。
そして、ある地点を超えた事で俺は一気に踏み込んでギハルトさんへと向かった。
「っ!」
「来るか!」
ギハルトさんもまた、俺に向かって拳を突き出し、俺はそれをギリギリでかわしながら神刀を振り下ろすのだった。