ユウキちゃん達と楽しい話をして、ユウキちゃん……というか勇者という存在がどういう存在かよく分かった。
要するに戦闘の為の存在というよりも、世界が壊れるのを何とか止める為の保護装置みたいな物なのだろう。
そうなると、大会みたいな形式では遊べないだろうし、修行とかも少し難しい様な気がした。
まぁ、別に修行なんかしなくても、人類の危機となれば強さを発揮できるのだからそれで良いと言えば良いと思うのだが。
ふと気になる事はある。
それはユウキちゃんの強さがあくまでルールの中に存在する強さでしかないという点だ。
例えば、相手がそのルールを悪用出来る状態となったら、ユウキちゃんは力を発揮できないまま戦う事になる。
そうなれば相当に苦戦する事になるだろう。
それが気になると言えば、かなり気になった。
「はい。ユウキちゃん、焼けたよ」
「わー! たべる! たべる!」
俺はニコニコと両手に串を持ちながら新しい串を俺から受け取ろうとしているユウキちゃんを見て、微笑んだ。
実に可愛らしい事だ。
この可愛らしいユウキちゃんが、悪辣な連中の罠に引っかかったりしたらと考えると嫌な気持ちになる。
俺が守らなければいけないか……!
と、俺はモグモグ串に刺さった肉を頬張っている子供らしいユウキちゃんを見ながら決意するのだった。
「お兄ちゃんさ」
「うん? どうした? 桜」
「また、『お兄ちゃん』発動してるでしょ」
「よく分かったな」
「はぁ……まぁ、私はお兄ちゃんの妹一号ですからね。そりゃ分かりますとも」
「流石は桜だ」
「あんまり嬉しくない誉め言葉だなぁ」
と桜は苦笑しながら、ため息を吐く。
が、本気で嫌がっている訳では無いため、俺はあまり気にせずにそうかと呟いた
「でも、こんな事言っちゃうけど、私はそこまでお兄ちゃんが『お兄ちゃん』やってるのは嫌いじゃないんだよね」
「そうなのか? いや、こういうと桜が嫌がっていると知ってるのにやり続ける嫌なお兄ちゃんみたいだけど」
「大丈夫。分かってるから。そんなに気にしないでよ」
「あぁ……。俺はいつも桜の優しさに助けられているよ。ありがたい話だ」
「はいはい。お兄ちゃんは甘えん坊さんだね。私は出来た妹だよ」
やれやれ。と言いながら桜は肩を竦めた。
そして、桜が作っていた野菜のスープをカップに入れて手渡してくれた。
俺はそのお礼に、ちょうどよく焼けたお肉を皿の上に綺麗に並べ、桜に手渡す。
「あら。美味しいそう」
「だろう? 特に美味しい所を用意したんだ。色々と手伝って貰ってるからね。ここまでアリア様と来てくれたっていうのもあるしさ」
「えっ!? 美味しいところ!? 良いなぁー! 僕も食べたいなぁ」
「コラ! ユウキ! 少しは遠慮するという事を覚えなさい!」
「あいたー! ミク!? なんでぶつのぉ!?」
「当たり前です! ちょっとそこに座りなさい!」
「もう座ってるけど」
「っ! 姿勢を正せって言ってるんです! はい!」
「う、うぅ……たのしいご飯の時間だったのにぃ」
ユウキちゃんは、イヤイヤという顔をしながら姿勢を正し、背筋を伸ばしながら座った。
そして、そんなユウキちゃんの正面にミクちゃんは座りながら、人差し指を立てて、お説教を始める。
「良いですか!? ユウキ。勇者というのは特権を持つ者の名前ではありません。人類の為に戦う勇気ある者の名前なんです。それを貴女は、まるで選ばれた人間の様に振舞う為の名前としてしまっている。貴女よりも前に、世界を守る為、戦った勇者様方に対して申し訳ないとは思わなかいのですか!?」
「でも、でもだって……」
「でもも、だってもありません。特にリョウさんは現在、未だ残る問題を解決する為に試合へ参加されており、サクラさんはそんなリョウさんを支える為に頑張っているんです。それを何ですか! 貴女は何もしていないというのに、お二人に負担ばかりかけて!」
「はぁーい。ごめんなさぁーい」
「私に謝ってどうするんですか! ご迷惑をおかけしているのはお二人に、でしょう!?」
ミクちゃんの怒りに、ユウキちゃんは唇を尖らせながら、俺達に向き直る。
そして不満です。という気持ちを全身で示しながら俺達に謝罪をするのだった。
まぁ、俺も桜も別に小さな子がする悪戯や我儘など何も気にならない為、別に良いよ。気にしてないよ。と返す。
ミクちゃんはユウキちゃんの行動に酷く不満そうであったが、俺と桜が許してしまった為、それ以上何も言えないのであった。
それから。
俺は、皆に肉を配り終えてから、最後に焼き始めた肉を食べ、ゆったりとした時間を過ごす。
ヤマトへ行った事や、リメディア王国での出来事などを桜やミクちゃんに語って伝えていた。
のだが。
アクビをして、眠そうにしていたユウキちゃんがフラフラと俺の方に寄ってきて、俺の足を膝枕にして眠り始めたのだ。
既にココちゃんが俺に抱っこされながら眠っていた為、俺は本格的に動けなくなってしまう。
「あらら。もう結構遅い時間だからね。ユウキちゃんも眠かったのかな」
「ユウキ。ユウキ。寝るならテントの方で寝なさい。そこじゃリョウさんも困ってしまうでしょう?」
「うぅーん。もうちょっとだけ」
「まったくもう!」
ミクちゃんは怒りながら立ち上がろうとしたが、俺はそんなミクちゃんを制して、ユウキちゃんの背中を撫でる。
何だかんだと言っても、こんなに小さな体で世界を背負っているのだ。
こういう時くらい一人の大人として甘やかしてやりたいと思う。
「まぁまぁ。良いから」
「……リョウさん」
「こうやって安らいでいる子を見るのもさ。俺の癒しなんだよ。疲れが取れる」
「まったく。本当にもう……しょうがない人ですねぇ」
「ミクちゃんも、甘えたいなら良いんだよ?」
「私は大人なので! 甘える様な事はしません」
「別に大人でも甘えるけどね。俺もたまに甘えるし」
「え」
酷く驚いている様なミクちゃんに、俺は笑いながら桜へと視線を向けてミクちゃんに言葉を続ける。
「大人っていうのはさ。子供をいつも甘やかしているから。たまには甘えたくなるんだよ。な。桜」
「そうだねぇ。お兄ちゃんは私にすぐ甘えてくるんだよねー。疲れてるとさ」
「と、まぁ。こういう事だね」
兄と妹。
完璧なコンビネーションにより、ミクちゃんに謎の理屈を見せる事に成功した。
素晴らしい。
こういう所は流石の桜だと思う。
俺は安心と信頼の桜にハイタッチをして、喜びを分かち合あった。
実に楽しい時間である。
「はぁ……まったく。リョウさんもサクラさんも優しいですね」
「駄目だよ。ミク。もっと早く気づかないと」
「そうそう。私たちが当たり前の様にセオストで暮らせてるのは、お二人の好意があってこそ。なんだよ。ミクちゃん」
「そうですね……本当に。私なんてかなり長くお世話になっているのに」
「まー。おチビさんは甘えているのが当たり前だと思ってるからねー」
「む! それはジーナさんも同じでしょう!」
「私? 私は違うよ。だって、リョウ君にお願いされて、家を護ってたりとか。ココちゃんやサクラちゃんが変な奴に襲われた時も、影から撃退してたモーン」
「え!」
「だーかーら。何もしてなかったのは、おチビさんだけなんだなぁー。モモちゃんはココちゃんのお手伝いをしてたしー。リンちゃんはみんなが怪我した時に治してたしねー」
「う! うぅ……!」
ジーナちゃんに追い詰められたミクちゃんはガクリと膝をついてしまった。
そして、俺と桜を見ながら申し訳ないという様な顔をする。
「そんなに気にしなくてもさ。俺も桜もミクちゃんには助かってるよ」
「そ、そうですか?」
「うん。私たちは知らない事も多いしね。世界の常識はやっぱりミクちゃんが一番詳しいし」
「あ……あぁ、ありがとう、ございます」
ミクちゃんは救われた様な顔で俺達を見上げ。
モモちゃんに、「ホラ、優しいでしょ?」と言われて何度も頷いているのだった。
いや、そこまで持ち上げられる様な物でも無いのだけれども。