陽が落ちてからも、桜たちとそれなりに長い時間ワイワイと騒ぎ。
ココちゃん、ユウキちゃん、ミクちゃん、リンちゃんの順番で寝てしまってから、俺たちは眠る事にした。
とは言っても、テントに皆を寝かせた後、俺はまだ眠くない為、少し外で星を見上げているワケだが。
「お兄ちゃん」
「ん? 桜か。寝なくても良いのか?」
「うん。私は大丈夫。というかー。お兄ちゃんは寝なくても良いの?」
「眠くなったらすぐに寝るさ」
俺は桜に笑いながら言葉を返した。
そして桜は俺の隣に座り、俺に寄り掛かってホッと息を吐いた。
「今日は甘えん坊さんだな。桜」
「まぁね。そういう日があっても良いんじゃないかな」
「そりゃ。俺も桜が甘えてくれるのは嬉しいからな。いくらでも甘えて欲しいけどさ。桜はあんまり甘えたがらないだろ?」
「私は頼りになる妹を目指してるからね。あんまり甘えてると、お兄ちゃんが私に甘えられないじゃない?」
「桜は本当に優しい子だなぁ。お兄ちゃんは桜のお兄ちゃんで良かったと思うよ」
「ふふん。もっと喜ぶがよいぞー」
桜は甘える様に、俺に先ほどよりももたれかかって、ふふっ。と楽しそうに笑う。
そんな桜を見ていると、俺も何だか楽しくなってしまうのだった。
そして、少しの懐かしさも感じる。
「こうしていると、前の世界の事を思い出すな」
「そうだね。二人で星とか見てね」
「よくやったなぁ。二階の部屋を天体観測部屋にしてな。見上げてたなぁ」
「懐かしいね……」
「あぁ。でも、こっちも同じ様に星はあるから、こっちでも星は見えるぞ」
「それはそうだけど。お月様は二つありませんでしたよ。お兄ちゃん」
「確かに」
「それに、星座も色々違うしさ」
「流石は桜。詳しいな」
「まぁね」
フフンと楽しそうに笑う桜に、俺は桜の頭を撫でる事で応え。
桜も嬉しそうに深く俺に寄り掛かり……。
「わわっ」
「危ない……!」
勢いのまま倒れてしまうのだった。
地面に完全に倒れた俺の体の上で、桜は目をパチクリとさせながら周囲をキョロキョロと見やる。
その姿はまるで子供の頃に戻った様で、可愛らしい物であったが、危ない事は危ないので、しっかりとお説教はするのだった。
「桜。危ないから気を付けなきゃ駄目だぞ」
「はーい」
「よろしい」
俺は俺の上に寝転びながらクスクスと笑う桜に笑いかけて、空を見上げた。
そんな俺に合わせてか、桜もゴロンと転がり俺と並んで空を見上げる。
「セオストの家にもさ」
「うん」
「天体観測の部屋を作ろうか」
「また工事する? でも、屋上はココちゃんの場所だよ」
「うん。だから……屋上の横に追加出来ないか聞いてみよう」
「そんな無茶な工事出来るのかな」
「出来なかったら庭に作れば良いよ。家の中から移動できる様にして。そこでゆっくりと星を楽しめば良いさ」
「……ならさ」
「うん?」
「ならいっそ。今の家じゃない別の家でも買う?」
「別の家?」
桜から投げられた話に、俺は首だけ桜の方へ向けて疑問を投げた。
今まで考えた事も無かったが、どこからそういう話が生まれたのだろうかと。
「実はさ、お兄ちゃんが居ない時にジーナちゃんと話をしてて」
「うん」
「セオスト以外にも拠点を作った方が良いんじゃないかーって話になったんだ」
「なるほど……それなら、セオストで何かあった時に、別の家に逃げられるね」
「うん。そう。それでさ。どうかなって」
「俺は良いけど……管理は大変そうだね。別の国だと遠いしさ。行くのも大変だし。管理する人を雇う?」
「ふふふ。それにはとびっきりの解決方法があるんですよ」
「ほう。それは何かな。桜君」
「ジーナちゃんの魔法で、何と簡単に移動できる装置が作れるって」
「それは凄いね」
俺はジーナちゃんの魔法の凄さを改めて実感しながら、ふむ、と考える。
現状、セオストの家の改築は色々と難しい状況になってしまったし。
しかし、人も増えているし、やりたい事も増えている。
この状況では確かに家を増やす方が現実的な様な気もしてきた。
「でも、家が増えたら桜たちも大変じゃない? 俺は殆ど家に帰れないしさ」
「そこは任せてよ。勿論、私一人じゃ一気に増えたら難しいけどさ。手伝ってくれる人が居れば何とかなるよ」
「ふむ」
「それにさ。モモちゃん達が居ると色々嬉しいんだけど、モモちゃん達もそろそろセオストから旅立たないといけないっていうし。モモちゃんたちがよく行く場所に拠点があったら、そっちからこっちにすぐ戻ってこれるじゃない?」
「確かにね。モモちゃん達とも仲良くなったし。そういう家があったら便利かもね」
と、そこまで話して気になることが一つ。
「ちなみにそれって、モモちゃん達には話したの?」
「うん。二人とも良いね。って言ってたよ」
「なるほど……ん? 二人?」
「聞いたのはモモちゃんとリンちゃん。ミクちゃんは……まぁ、色々と面倒そうだから、まだ話して無い」
「確かに……ミクちゃんはルールとかに厳しいからね。俺たちが密入国を繰り返していると聞いたら怒りそうだ」
「ね」
「じゃあ、まぁ。ミクちゃんの説得は俺がやろう」
「良いの?」
「当然。俺は桜のお兄ちゃんだからな。こういう交渉は俺の役目だろ?」
「ふふ。流石はお兄ちゃん。面倒な所は率先して拾ってくれるね」
「まぁね」
俺は大きく頷き、次の話に移動してゆく。
「となると、ひとまずモモちゃんとリンちゃんが移動する国に拠点を作らないといけないね」
「うん。でも、あんまり長居する訳じゃないから、小さな家でも良いんじゃないかって」
「なるほど。となると、長居する可能性のある場所に拠点を作れば、俺もちょくちょく家に帰れるのか」
「例えば?」
「今可能性としてあるのはスタンロイツ帝国かなぁ。皇帝陛下とは結構親しいし。ジーナちゃんの魔法も知ってるからね。許可を出してくれそうだ」
「スタンロイツ帝国ねー」
「後は……」
「シーメル王国も、おススメですよ。王都はちょうど再建している最中ですし。一番良い場所も空いてますしね」
ふと、俺でも桜でも無い声が響き、俺は体を起こして、その声がした方へと顔を向けた。
暗闇の中で護衛のレオさんと一緒に立っていたその人は……。
「「アリア様!」」
「こんばんは。リョウさん。サクラさん」
「え、えぇ。こんばんは」
「とても面白いお話をされていたので、思わず会話に入ってしまいました」
ニコニコと微笑みながらアリア様はその様な事を仰って。
さらに言葉を続ける。
「シーメル王国に拠点があれば、臨時騎士という様な形でリョウさんを雇う事が出来ますから、私としてはお願いしたい所ですね」
「いや……でも、普段は冒険者をやってますし」
「大丈夫ですよ。常駐ではありませんし。何か事件が合った時だけお願いする形ですから」
「うーん」
「シーメル王国に家があれば、遠いという問題や、国境を超える際の問題も、起こらないでしょう?」
ニコニコと微笑むアリア様に、俺は反論する言葉が何も浮かばず、桜をチラリと見やった。
桜は両手を上げて降参のポーズである。
ならば、と俺は一応抵抗する為に口を開いた。
「それはありがたい申し出なんですが、俺もあまり貯金が無い状態でして」
「あら。そうなのですか? ではシーメル王国よりお貸しいたしましょう。無論、利子などはありません。リョウ様が騎士として活動していればすぐに返せますし。問題ありませんね」
「しかし……密入国は問題なのでは?」
「確かにそうですね。ですが……国を救った英雄が、すぐに救援出来る状況の方が安心出来ますからね」
「……」
「ふふ」
俺はアリア様に言葉を尽くして、何とか案を取り下げて貰おうと頑張ったが……アリア様に勝てる筈もなく。
大人しくシーメル王国に家を作る事になったのである。
だが、騎士の件はまだ保留にすることが出来た。
精一杯の抵抗である。