桜やアリア様、そしてジーナちゃんとの話も終わり、俺は寝る前にココちゃん達の様子だけ見て眠ろうとしたのだが……。
ココちゃんが寝ているテントの中を覗いて、寝顔を見ようとした時、ココちゃんの隣で眠っていたユウキちゃんに腕を掴まれてしまう。
しかもそのまま抱きつく様な勢いで腕を伸ばしてきた為、俺はあっという間にユウキちゃんに捕まってしまうのだった。
「……むにゃむにゃ」
「ユウキちゃーん。俺ももう寝るから。手を離してくれると嬉しいんだけど」
「ヤダ」
「嫌かぁ……」
「うん」
起きているのではなかろうかと思うくらいハッキリと言葉を重ねるユウキちゃんを見やるが、ユウキちゃんは残念ながら寝息を立てながらスヤスヤと眠っている。
が、そんな状態であっても拘束から逃れる事は難しく、俺は仕方ないかとテントの端で眠る事にするのだった。
「……ぐぅ」
そして、夜も明けて朝になり。
俺はツンツンと頬を小さな何かで突かれる感触に目を覚ました。
ゆっくりと目を開けてみれば、そこにはココちゃんが居て。
酷く不思議そうな顔で俺を見ている。
「おにいちゃん?」
「あぁ、ココちゃん。おはよう」
「どうして、おにいちゃん、ここで寝てるの?」
「いやー。まぁ、ユウキちゃんが手を離してくれなくてね」
と俺は言いながら左腕を指さしながら笑う。
しかし、ココちゃんはどこか不満げで、俺と未だ抱き着いているユウキちゃんを見ていた。
「一緒に寝るのは駄目だよ。って言ってたのに」
「いや、まぁ。今も変わらず良くない事は良くないと思うよ」
「駄目って言ってたのに」
「これは、仕方なかったんだよ。ほら、ユウキちゃんが抱き着いてて離れないし」
「抱き着いてたら、良いんだ」
「そういう訳じゃないんだけど」
俺は言い訳を並べていたが、ココちゃんは不満を示す様に頬を膨らませながら言葉を繰り返す。
「抱き着いてたら良いんだ」
「そういう訳じゃ……」
「抱き着いてたら良いんだ!」
怒りがどんどん増えてゆくココちゃんに、俺は白旗を上げた。
これは全面的に俺が悪いと。
「俺が悪かったです。ココちゃんとの約束があったのにね」
「うん」
「お詫びってわけじゃないけど、どこかでココちゃんのお願いを聞くよ」
「じゃあ、今日の夜、一緒に寝て、ほしい」
「分かったよ。じゃあ、今日の夜だね」
「うん!」
先ほどまでの怒りはどうしたのか。
ココちゃんは満面の笑みで頷いて、俺に飛び込んできた。
そんなココちゃんを右手で受け止めて、俺ははぁとため息を吐いた。
子供の健全な成育には、早めに一人で色々な事が出来る様になることだと、前の世界で知った。
だから、ココちゃんにもなるべく一人で生活できる様にと色々やっていたのだが、まだまだ甘えたい頃なのかもしれないな、と。
という訳で、ココちゃんとの約束もしつつ、俺はユウキちゃんを起こしながら何気ない顔で朝食の場に向かった。
だが……。
「おはよう。お兄ちゃん。昨日は新しい妹ちゃんと楽しく寝てたみたいだね」
「桜? 何の話かな?」
「あれー。私が気づいてないとでも思っているのかな。このお兄ちゃんは」
「……」
「朝、ココちゃんを起こしに行ったらさ。あらビックリ! そこには居る筈のないお兄ちゃんが新しい妹ちゃんを抱きしめて寝ているではありませんか! ビックリだね!」
桜が鍋を混ぜながら放った言葉に、モモちゃんやリンちゃんがクスクスと笑っていた。
どうやら皆さんご存じの様で。
まぁみんな、寝るのも早いが起きるのも早いからな。
そこで目撃したんだろう。
バレているのならば、今更言い訳はするまい。
「お言葉の通り、昨日の夜はココちゃんやユウキちゃんが寝ている場所で寝てたよ」
「うん」
「ただ、別に寝ようと思ってそこで寝たわけじゃなくてね。ユウキちゃんが放してくれなくて、仕方なく、あのテントで寝たわけだよ」
「そんな。ココちゃんが寝てるテントでイヤイヤ寝たみたいな言い方」
「いや! それは本当に誤解だからね!? 健全な成育の為には早めの独り立ちが良いって聞いたから!」
「はいはい。分かってるから。そんなに大きな声出さないでよ」
「ご、ごめん」
「ま。寝てる姿見てたら何となくは察したからさ。中々甘えん坊な子みたいだし」
「サクラちゃんの言う通り、ユウキは私達の中で一番子供だからねー」
「む? なんか、僕の話してる?」
実はずっとユウキちゃんの話をしていたのだが、我関せずで、朝ごはんをモグモグと食べていたユウキちゃんがこちらに興味を持ってフォークを口に入れたまま顔を向けた。
その仕草に、これまで黙っていたミクちゃんが昨日と同じ様に口を挟む。
「ユウキ。行儀が悪いから、フォークを口に咥えたまま話すのは止めなさい」
「ふぁーい」
「まったく」
「んぐ。それで? なんか僕の話してた?」
「えぇ。してたわよ。ユウキはまだまだお子ちゃまだって話」
「む。子供じゃないよ! 僕はもう立派なオトナだよ!」
どうだとばかりに胸を張るユウキちゃんは大変可愛らしい子供であったが、俺は口を挟まず状況を静観する。
イタズラ好きの子の様な顔で笑うモモちゃんと、自信満々という姿で笑うユウキちゃんをだ。
「でも、昨日の夜はリョウさんに抱き着いて寝てたんでしょ?」
「そ、それは! お兄さんが寂しそうだったから、仕方なく! 一緒に寝てあげたんだよ!」
「と、言ってますが? リョウさんは?」
「ここで俺に話を振るの?」
「リョウさんなら良いかなーって」
クスクスと笑うモモちゃんに、俺はため息を吐きながらどう答えた物かと考える。
が、まぁ嘘を言ってもしょうがないし。とりあえずは昨日の夜に起こった事を話す事にした。
「昨日の夜はココちゃんが寝たかどうか確認に行って、そこでユウキちゃんに捕まって、そのまま寝たね」
「ほら。だって」
「嘘だー! 僕がそんな事する訳ないモン!」
「でも、私達がユウキの寝てたテントに行った時、ガシッて感じでリョウさんに捕まってたけど」
「それは! 多分、分かんないけど! お兄さんが僕を抱っこしてたから掴んだだけだよ! だって、夜起きた時、お兄さんが僕の事抱きしめてたもん! ね!? お兄さん! そうだよね!? ね!? 僕が悪いんじゃないよね!?」
「……まぁ、そうだね。俺が悪かったかもね」
「ほらー! どうどう? 僕が正しかったでしょ? フフン! どうだ!」
必死に違うと訴えて来るユウキちゃんの目じりに涙が浮かんでおり、俺は自分の意見を曲げる事にした。
泣いている子には逆らえまい。
「リョウさん……」
「そんな目で俺を見ないでくれ。モモちゃん」
「健全な成育の為には早めの独り立ちが良い、と先ほどリョウさんから聞きましたが」
「違うんだよ。リンちゃん」
「駄目だよ。二人とも。お兄ちゃんは甘やかす事しか出来ないから」
「桜……!」
周りからボッコボッコにされ、俺は項垂れながら桜の作ってくれた最高の朝食を食べる。
美味しいのぅ。
「おにいちゃん。げんきだして」
「ココちゃん……! 元気出すよ……!」
「申し訳ございません。ウチのユウキが……」
「いやいや。まぁ、これくらいは良いよ。全然気にする様な事じゃないって」
「リョウさんは大人だねぇ。どっかのお子ちゃまとは違って」
そして、ミクちゃんと話をしていると、モモちゃんがニシシと笑いながら俺からユウキちゃんに視線を移して意味ありげな顔をする。
そんな行動にユウキちゃんは即座に反応して、モモちゃんへムッとした視線を向けるのだった。
それから始まるのは大乱闘なワケだが……。
何ともまぁ、昨日も今日も元気な事で何よりだよ。
俺はこれから始まる戦いに意識を切り替えるべく、食事を一気に食べるのだった。