異界冒険譚   作:とーふ@毎日なんか書いてる

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第33話『お姫(アリア)様の王国脱出計画』

 アリア姫様は作戦の前段階説明をする為に靴を脱いで椅子の上に乗ろうとした。

 しかし、やはりというべきか周囲の獣人が待ったをかける。

 

「姫様!」

「は、はい。どうしました?」

「是非俺を足場にしてください。こんな貧相な椅子より上手くやりますよ」

「いえ。私は重いですし」

「姫様! 俺の力は相当なモンですよ! 安心して下さい!」

 

 ジュードさんという獣人はアリア姫様の制止も聞かず、部屋に置いてあった棚を持ち上げると自らの怪力をアピールしていた。

 しかし、非常に残念な事だが、ここで必要な事は力ではなく、頭である。

 

「すまない。誰かあの犬を黙らせてくれないか。話し合いが進まん」

「なんだと! このニンゲン野郎! この! 野郎!」

「驚きだな。同じ言葉を喋っているというのに、言葉が通じないじゃないか。驚きだな」

「この野郎!」

「落ち着け、ジュード」

「アレク。何度も同じ事をやるな」

 

 そして、ジュードさんをアレクさんが煽り、二人が諫められてようやく話し合いは元に戻るのだった。

 

「えー。では失礼しまして。説明させていただきますね」

 

 アリア姫様は昔、学校の授業で先生が使っていた様な伸縮自在の細長い棒を懐から取り出すと、それを使って地図の説明をする。

 

「まず、ここがこの国『シーメル王国』です。そして、南方にあるのが『セオスト自由商業都市』北方にあるのが『スタンロイツ帝国』ですね」

「うむ」

「更に東方には古代の森が広がり、森までの平原には世界国家連合議会が管理する『大壁』があり、西側には『旧シナード王国』があります……まぁ現在はスタンロイツ帝国の『シナード領』ですが」

「このシナード領とシーメル王国の間にあるのは森ですか?」

「はい。それなりの大きさで、大型の魔物は発見されていません」

「なら、シナードに抜ける際にはこの森を通る感じか」

「可能であれば」

「誰に言ってんだ。可能に決まってんだろ」

「アレクシスさんならそう言うと思ってました」

「おい! 姫様にあんま生意気な口利いてんなよ」

「黙ってろって言われてんだろ。犬」

「あァ~?」

 

 少し油断するとすぐに睨み合ってしまうアレクシスさんとジュードさんを止めつつ、俺はふと気になった事をアリア姫様に問う。

 

「シーメル王国からシナード領へ向かうのに森を通るのは理解したのですが、そもそもの話、どうやってシーメル王国から脱出するんですか? 門には騎士が居ますし、強行突破という訳にもいかないでしょう」

「そこは問題ありません。獣人街の近くにある王族専用の通路を使用します」

「王族専用の通路ですか」

「はい。シーメル王国の王族だけに伝わる魔術で鍵が掛けられており、王族以外は入る事すら出来ない為、警備の騎士さんは居ません」

「そしてアリア姫様は王族だから開けられる、と」

「そういう事です」

 

 なるほどなと頷きながら、今度は別の疑問が生まれた為、続けて問うた。

 

「ちょっと待って下さい? その通路、当然出口も同じ魔術で塞がっている訳ですよね?」

「そうなりますね」

「出口はどうするんですか?」

「勿論私が開けますよ」

「「反対だ!」」

 

 ある程度予想していた事ではあったが、アリア姫様がシーメル王国からの脱出に付いてゆくという話をした瞬間、アレクシスさんとジュードさんが同時に反対の声を上げた。

 無駄な所で息の合う二人である。

 

「姫様にそんな危険な事はさせられない!」

「足手まといが付いてくると迷惑なんだよ!」

「何だと!? ニンゲンこの野郎!」

「内容はどうであれ、同じ意見だ。突っかかってくるな! 犬!」

「言い方が気に入らねぇって言ってんだ! ニンゲン!」

 

 俺はとりあえず睨み合っている二人を無視して、アリア姫様に問いかける。

 

「正直な所俺も反対なのですが、王族の通路以外に使える場所は無いんですか?」

「ありません。どのルートもリスクが高い。最悪は子供が死にます」

「だが、これから行くのはスタンロイツ帝国の領地だ。戦争になるぞ」

「なりませんよ」

「何故そう言い切れる」

「かの国の皇帝は獣人の脅威をよく知っています。戦争の火種になる様な行為はしません」

「それは獣人に対して、だろ? お前は関係ない」

「お~ま~え~!? 姫様に対して!」

「黙ってろ犬。今大事な話をしてるんだ」

 

 ジュードさんの周囲に居た獣人が空気を読んでジュードさんの口を塞ぎ、アレクシスさんは真剣な眼差しでアリア姫様を見つめる。

 

「死ぬぞ」

「……かもしれません」

「おい」

「ですが、私の計算では、仮に皇帝と出会っても無事帰る事が出来ます」

「根拠は」

「三つあります」

 

 アリア姫様は指を三つ立てて一つずつ折りながら理由を語り始めた。

 

「まず一つ目。それはアレクシスさん達の存在です。私の傍にSクラスの冒険者がいる場合、戦闘で勝つのは難しい。仮に勝てたとしても逃がせば世界から非難される可能性がある」

「次は?」

「二つ目。レオやジュードさんの存在です。獣人の戦士と戦うのであれば、それなりの準備が必要です。しかも、私は夜間に移動する予定ですから、視界の確保が出来ない中で戦闘に入る事は難しいです」

「しかし、帝国には例の魔女が居るだろ。奴が皇帝と共に居たら獣人や俺達なんて関係ねぇ。来るぞ」

「なので、三つ目です。実はこの作戦に関してアレクシスさん達以外に協力者の方が居まして。その方は既に森で待機しているのです」

「協力者ァ? 信用できるのか?」

「そうですね。どの程度信用できるかと聞かれれば、アレクシスさんと同程度と答えましょう」

「ほー。それは随分と盛ったな」

「まぁ、確かにアレクシスさんやヴィルヘルムさんと比べるのは無謀だったかもしれませんね。二人は、世界でも有数のトップクラスの冒険者ですから。ですが、協力者の方がそれ相応の力を持っているのは確かです」

 

 アレクシスさんはアリア姫様の言葉で勢いを落とし、フッと笑いながら椅子に座って意見を引っ込める。

 まぁ、今の話である程度納得できるモノだったのだろう。

 アレクシスさんやヴィルヘルムさんがそう判断するなら、今の俺に言える事は無いか。

 

 俺は問いかける様なアリア姫様の視線に頷いて返す。

 

「皆さんご納得いただけたようで良かったです」

「姫様! 俺はまだ納得してないですよ!!」

「あら。そうなのですか? ジュードさんならどの様な敵が現れても全てを倒すので、安心かと思っていたのですが」

「っ!! そういう事ですか! そういう事なら任せてください! 俺ならどんな奴も敵じゃないですから!」

「単純な奴は楽で良いな」

「自虐か? アレク」

「黙ってろ。ヴィル」

 

 ヴィルヘルムさんとアレクシスさんは軽口をぶつけ合いながら笑い合い、獣人たちも笑い合いながら拳をぶつけ合う。

 先ほどまでのいさかいなど無かったかの様に、場は明るい空気に包まれていた。

 

「皆さん納得いただけたようで良かったです」

「あぁ」

「えぇ! 大丈夫です! 任せてください! 姫様!!」

「アリア姫様。一つ確認を」

「はい。リョウさん」

「作戦の実行はいつ頃でしょうか?」

「ふふ。実行は今夜です!」

 

 アリア姫様の言葉に獣人たちは立ち上がり雄叫びを上げた。

 そして、俺はアレクシスさんとヴィルヘルムさんへと視線を向けて頷いた。

 

「分かりました。では、俺達も準備します」

「お願いします。後で、子供達も紹介しますね」

「はい」

「姫様! 俺達は何をすれば!?」

「ジュードさん達は、そうですねぇ。夜の準備をする為に私と一緒に来てください」

「お任せ下さい!」

「では、後はお願いします」

 

 アリア姫様の合図で俺達は頷きながらこの場を後にするのだった。

 作戦の決行は今夜。

 まさかのシーメル王国に来て早々にこんな事になるとは……。

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