異界冒険譚   作:とーふ@毎日なんか書いてる

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第331話『シーメル王国の新しい日々(はじまり)1』

 丸々二日にも及ぶアリア様の近衛騎士決定大会も終わり、近衛騎士には俺が最後に戦ったオーウェンさんが就任する事となった。

 彼は人格、実力共に優れた人物で、彼の就任に対して文句を言う者は誰もいなかった。

 

 俺にオーウェンさんと本気で戦う様にと言っていたライバル騎士も、俺が手を抜いて戦う事をオーウェンさんが望まないだろうと考えての話だったらしく、大分多くの者に愛されている様だった。

 何ともまぁ素晴らしい事である。

 

 俺は近衛騎士就任の儀式でアリア様より剣を受け取って名実ともに近衛騎士となったオーウェンさんに拍手を送り、無事任務完了……といきたかったのだが。

 何故か俺は名誉近衛騎士なる謎の役職に就く事となった。

 

 まるで意味が分からないが、アリア様が形だけだからと言っていた為、ひとまず受けてしまった形である。

 ズルズルと良くない方へ引き込まれている様な感覚があるが、悲しそうな顔をしている子を無視できないのは俺の弱さだろう。

 

 

「という訳で、シーメル王国に我が家を作る事になりました」

「はい。お兄ちゃんがアリア様に負けたせいですねー。ぱちぱちぱち」

「パチパチ」

 

「ココちゃん。真似しなくて良いからね。それに桜も、あんまりお兄ちゃんをイジメないでね」

「はいはい。分かってますよー」

 

 おざなりな返事に悲しみを感じながらも、王都の一等地に用意して貰った土地へと向かい、ちょうど来ていた大工の人と相談しながら家の話をする。

 

「はい。家に必要な物を聞いていきます。何か意見があったら言ってねー」

「じゃあお風呂!」

「台所は結構大きいと嬉しいかな」

「食糧庫もね」

「あのね。ココ、お庭がね。大きいと、うれしい」

「ほいほい。順番にね」

 

 俺は皆から意見を聞きながら家の図面を見つつ、あーでもないこーでもないと言葉を交わした。

 アリア様が用意した土地はやたらと大きく、桜たちの要望を全て入れてもかなり余裕がある様に見える。

 

「んー。結構土地が余るな」

「では道場を作られては如何か。ヤマトでは個人が修練場を持つという話を聞いた事があります」

「あー、道場ね。確かに。それは良いかもしれない……って、オーウェンさん!?」

「先日以来ですな。リョウ殿」

「えぇ、こちらこそ。お久しぶり。という程でも無いですけれども」

「ハハハ。その様に固くなられるな。リョウ殿は私の師。気安く話してください」

「いや、近衛騎士であり貴族であるオーウェンさんにその様な無礼な真似は出来ませんって」

「おや、身分の事を仰られるか。では命令ですよ。リョウ殿」

「なんともまぁ」

 

 アリア様の近衛騎士というだけの事はあり、アリア様そっくりである。

 しかも嫌な所で。

 

 俺はこのままじゃ何を命令されるか分かった物じゃないと両手を上げた。

 いつもの白旗。降参の合図だ。

 

 そんな俺にオーウェンさんはハハハと爽やかな笑いを零してから、家の図面へと視線を落とす。

 

「やはり家の正面に道場としての入り口があると良いかと思いますね」

「確かに。人の家に入ると緊張しますしね。道場として開かれた空間であれば、それも気にならないですか」

「後は、道場の隣に子供が遊ぶ場所、そして食事をする場所があると助かります」

「それは……修練を終えてから食べる、という?」

 

「いえいえ。我らではありませんよ。子供たちの、食べる場所です」

 

 どういう事だろうかとオーウェンさんに疑問が混じった視線を向けると、オーウェンさんは笑みを浮かべたままゆっくりと優しい口調で彼の考えを語った。

 おそらくはアリア様と共有したであろう理想を。

 

「リョウ殿。獣人の反乱は終わりました。しかし、シーメル王国では多くの者が亡くなりました。それは身分が高い物も低い者も、平等に」

「それは、はい」

「そして、子を持つ親もまた……そうでない者と同じ様に等しく命を落としています」

「……戦災孤児ですか」

「はい。アリア様は彼らの為に孤児院を作るつもりでは居ますが、それも難しいだろうと仰っていました。戦争の恐怖が、子供たちの記憶に、心に焼き付いているからと」

「なるほど……それで、俺の道場の隣。ですか」

 

「流石、理解が早いですね。シーメル王国から逃げ出した子供たちは死の恐怖が迫る中、炎を切り裂いて進む貴方を見ました。そして、恐ろしい獣人にも負けず強くあり続ける貴方を」

 

 オーウェンさんの言葉に、俺はアリア様の真の狙いを理解した様な気がした。

 全てはこの為か、と。

 

 そして、そんな話を聞いてしまえばこのまま無視するなんて事が出来る筈もない。

 俺は桜の方に振り返って、意見を聞く事にした。

 

「どう思う? 桜」

「まぁ、食事をする場所は畳の方が良いんじゃない? 結構人数が居るだろうしさ。それに、寝る所もね。どうせお兄ちゃんの事だから、一緒に寝るんでしょ? 小さい子に、一人で寝るのが怖いの。とか言われたらさ」

「よく分かっていらっしゃる」

 

 俺は桜の洞察力に素晴らしいと拍手を送りながら、大工のオジサンへと視線を向ける。

 大工のオジサンは、人が良い笑みを浮かべてから頷いてくれた。

 

「へっ、じゃあ子供の遊び場も作ってやらねぇとな!」

「勉強も大事ですよ! 勉強の部屋を作りましょう」

「ミク……強要は良くないわよ」

「何を言いますか! 将来役に立つと思えば、多少の苦労はするべきでしょう!」

「はいはい。それを強要って言うのよ」

 

「では、本を読む部屋を作ってはどうでしょうか? 西側諸国には面白い絵本が色々ありますし。小さな子には読み聞かせをするというのも良いと思います」

 

 なんだか、保育園というか、幼稚園というか。

 前の世界で子供を預ける為の施設みたいになってきたな、と思いながら皆が乗り気で俺は嬉しく思っていた。

 

 だが、ここで一つ俺の中で懸念点があった。

 

「でも、人間の子供を預かるのなら、ココちゃんはこっちには来ない方が良いかもな」

「……うん。そうだね」

「ココ、だいじょうぶ。セオストでお留守番する」

 

「あ! リョウ殿!」

「うん?」

「ココ様には是非とも、子供達と触れ合って欲しいとアリア様から依頼がありました」

「それは……あー、そういう事か」

 

 俺は相変わらず、どこまで先読みしているんだ。とアリア様に恐怖を感じながら頷く。

 が、桜とココちゃんはよく分かっていないらしく俺を見上げながら首を傾げた。

 

「お兄ちゃん? どういう事?」

「子供たちはさ。獣人に襲われて怖い目にあった。これをそのまま放置すると、また獣人に対する憎しみが強くなるだろ?」

「うん」

「だからさ。怖い思いをしたっていうのと、獣人は怖いものっていう感覚を切り離すんだよ。戦争があって、怖い目にあった。でも、獣人には友達もいる。全員が怖い訳じゃないって感じにさ」

「なるほどねー。確かにそういう意味じゃココちゃんは適任か」

「そ。ココちゃんは良い子だし。頭も良いし。何より可愛い。何も問題は無いってワケだ」

「大抵お兄ちゃんの主観だったけどねー」

 

「という訳でだ。ココちゃん。凄い重要なお願い事をココちゃんにする事になりそうだけど、大丈夫かな?」

「うん! ココ! がんばる!」

「それは嬉しいね」

 

 俺は両手をギュッと握って気合を入れているココちゃんを抱きしめた。

 だが、注意しなければいけない事もある為、俺はココちゃんの手を握りながらココちゃんを見つめて、想いを伝える。

 

「ただね。ココちゃん。一つだけ気をつけて」

「きをつける?」

「そう。確かにココちゃんには人間の子供達と仲良くして欲しいんだけど、無理はして欲しくないんだ」

「ムリ……」

「そう。無理。例えばココちゃんにイジワルする子とは仲良くしなくても良い。そういう子が居たらお兄ちゃんに教えてね」

「うん……がんばる」

「よし。良い子だ。よしよし。良い子、良い子」

 

 俺はココちゃんを抱きしめながら、ココちゃんとしても大きな一歩になるであろう事を想う。

 これは一つの試練だ。

 ココちゃんが俺達という巣から外へと向かう第一歩。

 

 俺はこれが上手くいく様にと願いながらココちゃんを抱きしめるのだった。

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