アリア様の依頼は……何というか、アリア様の出す雰囲気に比べて随分とささやかな願いであった。
日程さえ空いているのであれば明日にでも可能なくらい、小さな依頼だ。
だから少し拍子抜けしてしまったが……それと同時に、アリア様にとって非常に大きな意味を持つ依頼なのだという事も分かる。
どこへ行くにしても、オーウェンさんやレオさんが居るのなら問題は無いだろう。
だが、それでもわざわざ俺に依頼してきたのだ。
その意味は、アリア様が大事にしたくないと思っているという事であり、それと同時に絶対に成し遂げたいと願っている事でもあるという事だろう。
ならば、俺の答えは了解以外は無いのだが……。
難しいのは時期と状況かな。
「ちなみに、アリア様。そのお墓はどちらにあるのでしょうか?」
「シーメル王国の東。深い森の奥ですね」
「なるほど……ちなみに時期は」
「いつでも、私は大丈夫です」
少し寂しそうな顔をしながら俺の周りで寝ている子供達を見て呟くアリア様に、俺はすぐにでも行かなきゃなぁと考えるのだった。
しかし、その為には子供たちに囲まれて日々を過ごしているという状況を何とかしなきゃならん。
という訳で、俺は一つの秘策を使う事にした。
「アリア様」
「はい。なんでしょうか?」
「一つ相談なのですが……ジーナちゃんを連れて行っても問題は無いでしょうか? 難しければ色々と手段を考えるのですが……」
「問題ありませんよ。ジーナさんには私もお願いしようと思っていましたから」
「なんと!」
「私もそれほど長い間城を空けることは難しいですからね。出来ればジーナさんのお力をお借りしたいのです」
「ジーナちゃんに聞いてみますか。本人は便利屋じゃないぞ! と前に怒っていましたが、何か美味しい物でも用意すれば頷いてくれると思います」
「そうなのですね。では、シーメル王国で一番美味しいと評判のお菓子を買ってきましょう」
なんて、アリア様と楽しく話をしていたら天井から妙におどろおどろしい声が響いてきた。
「ジーナちゃんは、そんなに軽い女じゃないぞぉ~」
「あら。ジーナさん。こんにちは」
「うぉっ、そこに居たのか」
「はい、アリアちゃん。いらっしゃい。それと~? リョウく~ん? ジーナちゃんが居たら都合が悪いのかなぁ~?」
「別にそういう訳じゃないけど。ジーナちゃんの許可を貰う前に、ジーナちゃんに協力して貰いたいなって話をしてたからさ」
「ふむ」
「無論、ジーナちゃんが嫌なら無理強いはしないよ。協力してくれれば嬉しいけどさ」
俺は色々と言葉を並べて、何とかジーナちゃんの機嫌が戻る様にと願った。
しかし、ジーナちゃんはぷくーっと頬を膨らませたままこちらをジィーッと見つめている。
この顔は、おそらく何かしら対価を寄越せという顔である事は確かだ。
ならば……。
「ジーナちゃんは何が欲しい?」
「何をくれるの?」
「んー。中々に難しい質問だねぇ。食べ物か、オモチャか。アクセサリーか。服とかもあるけど」
「フーン。リョウ君は何が良いなって思うの?」
「ジーナちゃんが今一番欲しい物が良いなって思うよ」
「じゃあ、当ててみて?」
ふわりふわりと畳の上に降りてきてからジーナちゃんは首を傾げた。
その姿は非常に可愛らしいが、中々に厳しい毒である。
ジワリと体に広がって、俺の自由を奪いながら大量の汗を滲ませた。
さて、どう答えるのが正解か。
たまに桜もやってくるが、この女の子の気持ちを当てるクイズが俺は苦手だった。
女の子の気持ちがよく分からない兄である。
情けない限りだ。
そして、普段ならすぐにでも白旗を上げてしまうのだが……ジーナちゃんの目は降参などするなよと言っている様にギラギラと輝いていた。
俺に出来る選択は、何かを選ぶだけの様だ。
「……んー。じゃあ」
「うん」
「じゃ、じゃあ……」
ジーナちゃんを見ながらうーんと唸り、俺は後悔しない為に選び、ジーナちゃんへと提示する。
「……アクセサリーで」
「良いの? アクセサリーで」
「っ! あ、あぁ。良いとも」
「はー。しょうがないなー。じゃあそれでリョウ君のお仕事手伝ってあげるよ」
「本当に!?」
「ホントーに!」
ジーナちゃんはふわりと笑いながら微笑んでくれたため、俺はホッと息を吐きながら成功したとアリア様に告げようとアリア様の方へ視線を向けたのだが。
アリア様は何故か呆れたとでも言う様な顔で苦笑しているのだった。
「アリア様?」
「まったく。リョウ様はヤレヤレですね」
「えぇー!? な。何故」
「それが分からないから、ヤレヤレなんですよ。ね、ジーナさん」
「そうねー。リョウ君は本当にヤレヤレだよ」
「ヤレヤレって、なに!?」
「では、ジーナさん。リョウ様が行ける様になりましたらお願いします」
「はぁーい。お任せ! あ、でも」
「はい。お菓子ですね。ちゃんとご用意させていただきます」
「わーい! じゃあ、リョウ君! 行く時に言ってね!」
ジーナちゃんはアリア様に笑顔で手を振ってから天井に向かって浮いてゆき、そのまま上の階へと通り抜けてしまうのだった。
そして、アリア様もまた、用意が出来たら声を掛けて欲しいと言い残して去ってゆく。
残された俺は頭を抱えながらヤレヤレって何だよと自問自答する事になるのだった。
そして、アリア様から依頼をされた日の翌日。
俺はシーメル王国の城へと向かい、アリア様に面会を申し込んでいた。
無論、隣にはジーナちゃんを連れて、だ。
「あら。随分と早いですね。まだまだ時間が掛かると思いましたが」
「まぁ、色々とズルい手を使いましたからね」
「ズルい、手?」
アリア様の疑問に、俺は懐から一つの通信機を取り出してアリア様に見せた。
「これは家にいる桜と繋がっている通信機でして、もし、何か問題が発生した場合には……」
と言いかけたところで通信機がブルブルと震える。
どうやら早速問題が発生したようだ。
「もしもし? 桜?」
『お兄ちゃん。大変だよ! シェレちゃんが、泣いてる!』
「分かった。ジーナちゃん。ちょっとお願い」
「はいはい」
俺はジーナちゃんにお願いして、家に戻って貰い、泣いているシェレちゃんを抱き上げて、怖くない怖くないと伝える。
どうやら怖い夢を見た様で、我慢できなかったようだ。
そして、シェレちゃんも無事泣き止み、もう大丈夫という事で再びジーナちゃんにお願いして俺はアリア様の元へと戻った。
「と、この様にですね。何かあっても少し戻って解決すれば良いワケです」
「……ナルホド」
アリア様は何処か呆れた様な顔で俺を見ており、その視線から逃げる様に俺は顔を逸らした。
そして、何も問題はありません、と言葉だけ強くアリア様へと伝える。
「もし、何でしたら落ち着いてからでも良いのですよ?」
「いえ! 何もご心配は要りません。子供達も俺が居なくても頑張ると言って……」
ブー、ブーと鳴る通信機に俺はうーんと微妙な気持ちになりながら出る。
そして、通信機の向こうから聞こえてくる桜の声に耳を傾けた。
『お兄ちゃん? ピアちゃんが寂しいって、泣いてて』
「分かった。すぐに戻るよ。ジーナちゃん」
「はいあい」
俺は再びジーナちゃんに転移して貰い、ピアちゃんを抱き上げながら大丈夫だよと背中を撫でる。
キュッと俺の服を掴み、離れたくないというピアちゃんに申し訳ない気持ちが芽生えるが、それを見抜いたのか桜が俺の後ろからやや冷たい声を投げかけてきた。
「お兄ちゃん。甘やかしていると、いつまで経っても変わらないんだからね」
「わ、分かってるよ。桜」
そして、俺は何とかピアちゃんを説得し、再びアリア様の元へ戻った。
「お、お待たせしました」
「……本当に大丈夫ですか?」
「えぇ。みんな頑張ると言っていましたから」
「まぁ、あまり期待はせずに行きましょうか」
俺は呆れた様な顔のアリア様やジーナちゃんと共に東の森へと旅立つのだった。