何だかんだ、子供達に呼び出されるのも最初だけで……。
俺たちがシーメル王国を出て、草原を歩き始める頃には特に呼び出される様な事はなかった。
そして、東へ東へと真っすぐに進んでゆくと北から南へと真っすぐに伸びている壁が一つ。
大きく俺たちの前に立ちふさがってくるのだった。
「あれは……」
「世界国家連合の作り上げた壁ですね。アレより向こうは人類の生息圏ではない。という事です」
「なるほど……」
「壁には世界国家連合から騎士が派遣され、一年ほど継続で任務にあたる様です」
「その間はずっと壁で過ごす事になるのでしょうか?」
「そうですね。基本的には壁を中心として生活する事になります。こちらから見るとそれほど厚みは無いように見えるのですが、実際には壁の横幅はかなり広く、人が住むには十分なスペースが確保されておりますから」
「なるほど……しかし、すぐ目と鼻の先に危険があるというのは、あまり落ち着かないでしょうね」
「はい。ですので、危険手当なども含めてお給料はかなり良いみたいです」
「まぁ、人類の生活圏を護るための壁であれば、その程度は当然ですか」
俺はアリア様と言葉を交わしながら壁に近づき、俺達を発見したであろう騎士たちがこちらへ駆けてくるのをジッと見つめた。
彼らはそこまで急いではいないが、それなりに早く俺たちの元へ走ってくると騎士の礼をして、アリア様へと声をかける。
「シーメル王国のアリア様と見受けられますが!」
「はい。実は壁の向こう側に用事がありまして……」
「なるほど。こちらの二人は護衛でしょうか?」
騎士は生真面目な顔をしながらアリア様の隣を歩く俺と、反対側でふわふわと飛んでいるジーナちゃんを見やった。
口には出していないが、こいつ等で大丈夫か? みたいな感情も見えている様に思う。
まぁ、どう見ても小僧と小娘なのだから、王族の護衛としては不足なんじゃないか? という至極当然な疑問だろう。
気持ちは分かる。
「はい。こちらはセオストの冒険者リョウ様。セオストを壊滅させようとした魔物を討伐された方です」
「おぉ……! あの新しい英雄ですか! まさか直接お会いできるとは! 光栄です!」
「あー、あはは……どうも」
先ほどまでとは打って変わって好意的な様子で握手を求められた俺は、騎士の代表と思われる人と握手を交わし、軽く会釈をする。
そして、アリア様は俺の紹介が終わるとジーナちゃんの方へと手を向けた。
「こちらはリョウ様のお友達の方なのですが……」
「お友達、ですか?」
「えぇ。帝国の魔女という名前が有名ですね」
「てっ! ててて、帝国の! 魔女!?」
騎士たちはその名前を聞いた瞬間、酷く動揺した様子で叫んでいた。
まぁ、気持ちは分かる。
ジーナちゃんの魔法は酷く理不尽であるし。
剣や刀だけで戦う俺や騎士たちの様な存在からしたら驚異的な存在だ。
動揺するのも警戒するのも当然だろう。
しかし、まぁ、俺はジーナちゃんの家族であるし。あんまり怯えられても困るので、俺も口を挟む事にした。
「あー。ジーナちゃんに関して、怯える必要はありませんよ」
「と、言いますと……?」
「先ほどアリア様からもご紹介がありましたように。ジーナちゃんは私の友人なのです。そして、アリア様とも友人でして。暴れる様な事はしないと約束しましょう。ね? ジーナちゃん」
「うん。とーぜん! ジーナちゃんは良い子だからねー」
「お、おぉ……! なんという事だ」
騎士は別の意味で驚いたとでもいう様に、俺とジーナちゃんを交互に見ていた。
そして、納得したのか壁の向こう側へ行く手続きをしてくれるという。
「英雄殿と魔女殿がいらっしゃるのであれば、何も問題は無いでしょうが……もしもの時はこちらの砲火灯をお使い下さい。上空に光の弾が打ち上げられますので、我らが御身の救出に向かいます」
「わざわざありがとうございます」
「いえ。無事を祈っております」
俺はアリア様が門の入り口で書類を書いているのを見ながら、アリア様に話しかけた。
「アリア様。出口の安全を確保してきますね」
「えぇ。お願いします」
「出口の、安全と言いますと?」
「あ、いえ。すぐそこの門の向こうから魔物の気配がしてまして、出るのに邪魔なので排除しようかと」
「えっ、いえ! 魔物が居ない門へとご案内しますので」
「あぁ、大丈夫ですよ。そんなに時間は掛かりませんから……あ、壁の上の方にお邪魔しても良いですか?」
「それは勿論構いませんが……」
俺はアリア様の事をジーナちゃんにお願いして、壁の上へと繋がる階段を登り、そのまま壁の上に出た。
上から森の方を見ると、どうやら門の部分に魔物がいくつか集中して存在している様だった。
何かあったのかな?
「あれは、何かあったのでしょうか」
「え、えぇ……先日壁の向こうへ忍び込んだ者達が逃げてきて、あそこで殺されましてな。アレはそれを食っているのです」
「なるほど」
「数日もすれば居なくなるかと思うのですが」
「まぁ、数日待つのもあまり良くは無いので、さっさと行くとしましょうか」
俺は壁から下に飛び降りた。
「え、英雄殿!?」
「あー、大丈夫ですよ」
俺は壁に足を掛けながら軽く減速し壁の下まで降りてからふかふかの草の上に着地する。
その音に反応したのか魔物は一斉に俺の方を見るのだった。
「誰かー! 梯子を持ってこい! 英雄殿が下に落ちた!」
「いや、落ちたというか。降りたんだけど……まぁ、良いか」
ひとまず神刀を抜き、向かってくる魔物の首に向かって神刀を振り下ろす。
特に珍しくもないセオストでよく見た中型の魔物の群れは、ただこちらへ向かって走ってくるだけだったので、何の障害にもならずアッサリと駆逐出来てしまうのだった。
「よし。終わり」
俺は魔物を全て殺した事を確認し、アリア様たちが居た門の方へと向かった。
そして、門ごしにアリア様へ話しかける。
「こちらの処理は完了しました。騎士の方を呼んでいただいても良いですか?」
「分かりました!」
それから少しして門がゆっくりと開き中から警戒した騎士たちが数名飛び出してきて半円を作りながら門を守る。
なるほど、中々に訓練されていて、良い動きだ。
「英雄殿。魔物は」
「あぁ、あちらです。首を落として殺したのですが、このままでは別の魔物も寄ってきてしまうかなと思いまして……できれば内部へ運んで処理を……と、魔物の肉を食べる習慣が無い場合は申し訳ないんですが」
「いえ! 魔物の肉はご馳走ですから。ありがたくいただきます。人を呼べ! 門の中へ魔物を運ぶぞ!」
「リョウ様。怪我はありませんか?」
「大した魔物は居ませんでしたから。無傷ですよ」
「それは良かったです」
微笑むアリア様に頷いて、俺は運ばれてゆく魔物たちを見ながら一応森の方へと警戒を続けた。
しかし、結局魔物はそれ以降現れる事はなく、無事魔物は処理されたのであった。
「では、行きましょうか」
「そうですね」
「探検だー! ごーごー!」
「では、門の方は閉じてください」
「承知いたしました! ご武運を!」
アリア様は最後に門のところに居た騎士たちに礼をして、そのまま閉じてゆく門を見つめていた。
俺はといえば、変わらず周囲を警戒している。
そして、完全に門が閉まった事を確認して俺たちは森の奥へと向かって旅立つのだった。
この森の奥にあるというアリア様のお母さんが眠っているお墓まで。
何故、こんな場所にお墓があるのだろうか。みたいな疑問を胸の奥に秘めながらも。
「お墓はここから二日ほど歩いた場所にあります」
「分かりました。では最大限警戒しながら進みましょう」
「お願いします」
「ジーナちゃんも。ヤバイと思ったら転移をお願いね」
「オッケー。ジーナちゃんにお任せ!」
俺たちはどこか明るい雰囲気で森の奥へと足を進めた。
これから何が待っているのか、今はまだ分からない。