アリアちゃん、ジーナちゃんと、とりとめのない話をしながら森を歩いていた俺達であるが。
本当にコレといって何も起こらず遂には一日目の夜を迎える事となってしまった。
一応食料は用意してきているので、狩りをする必要とかは無いのだけれど……。
「なんだか不気味な感じだね。シーメル王国の近くにある森はこんな感じなのかな」
「いえ。魔物に襲われたという話は沢山聞きますし。私達が壁を超える際にも犠牲となった方々に魔物が襲い掛かっていたのでしょう?」
「……確かに。そういえばそうでしたね」
「もしかしたら、あの時魔物を倒した事で魔物がリョウ様の事を危険だと考える様になったのでは無いですか?」
「うーん。そんな事ありますかねぇ」
俺は今までセオストで活動していた時のことや、ヤマトでの魔物研究なんかを思い出しながら考えるが。
そういう習性は見た事がないように思う。
この森だけ特別という様な話もあるけれど……この森とセオストの森は繋がっているワケだし。
ここの生態だけセオストとは違うというのもそれはそれで奇妙な話だ。
魔物はも縄張り意識はあるだろうが、行こうと思えば移動できる環境で、そこまで明確に生き方が変わるとも思えない。
「んー。俺はちょっと納得できない所があって……。もし魔物が恐れているとすれば、ジーナちゃんじゃないかなぁ?」
「えー? ジーナちゃん?」
「うん。だって俺がセオストで活動していた時は、俺がどれだけ戦っても魔物は遠慮なく襲ってきたからね。そう考えると俺は理由じゃない。あるなら普段は一緒に森へ行かないジーナちゃんでしょ」
「えー! そう言うんなら、アリアちゃんだって普段は一緒に行かないでしょー」
「それはそうだけど……」
俺はジーナちゃんの言葉に従って俺とジーナちゃんの間に居るアリアちゃんを見た。
身長は桜よりも小さく、ココちゃんよりは大きい。
が、華奢だし、走り回っている子供達よりも細く、あまり運動が得意そうには見えない。
頭は大人顔負けどころか、もはや超人レベルで良いが……それを魔物が理解出来るのか? という疑問が残る。
魔物は見た目や経験で敵の強さを判断している所があるし……流石に無いと思う。
「ジーナさん。私は魔物と戦ったらすぐに殺されてしまいますよ。魔物が私を恐れる事は無いと思います」
「分かんないじゃーん。アリアちゃん、森で魔物に襲われた事ある?」
「うーん。森へはあまり来ませんからね。来ても騎士さん達と一緒に来ていましたし。どうでしょうか?」
「という事は、少数精鋭で来るのは今回が初めて。という事ですか」
「そうですが……って、まさかリョウ様も私が原因と疑っているのですか?」
「いや、そういう訳じゃないんですけど。一応考える流れだったので、一応」
「ふぅん。まぁ良いですけどね。私が原因なんて。そんなことは絶対に無いと思いますよ」
ハッキリと言い放つアリアちゃんに、俺もまぁ、そうだろうなと思いつつ夜キャンプの準備を始めた。
いかに魔物が襲ってきていない環境と言えど、夜になったら魔物が活性化するという可能性もゼロでは無いのだ。
というよりも、十分にあり得る話である。
なので、俺は普段よりも厳重に周囲の警戒網を構築するのだった。
万が一魔物が近づいてきても、すぐその存在に気付ける様にという罠だ。
そして、周囲のチェックが終わってから食事の準備をしつつジーナちゃんにも状況を確認する。
「ジーナちゃん。魔法の結界はどう?」
「うん。完璧だよ。大きな魔物だと壊されちゃうけど、小さい魔物なら全部弾ける」
「助かるよ」
これで、何が起きてもすぐに反応出来るし。
最悪はアリアちゃんを連れて転移でシーメル王国へ逃げる事も出来るというワケだ。
何事も速さが大事だからね。
早く反応する為のギミックは一つでも多い方が良いのだ。
「色々とありがとうございます」
「いえいえ。仕事ですからね。あぁ、夕食はもう少しで出来ますからね」
「何かお手伝いできればと思うのですが」
「お客さんはそこに座っててくださいな。まぁ冒険者用の食事で申し訳ないんですけれども」
「いえいえ。この様な場所で贅沢は言えませんとも」
「アリア様はご理解のある方で助かりますな―」
「いえいえ」
ニコニコと何ともふわふわしている会話をしていた俺達であるが、不意にアリアちゃんが何かを思いついた様な顔になった。
「そういえば。貴族の方の護衛等で苦労された思い出は何かあるんですか?」
「貴族の護衛……は実はそんなに経験が無くてね。俺はあんまり無いかな」
「あら。そうなんですね。意外です」
「そうなの?」
「はい。冒険者の方々は、最初こそ森で魔物狩り等を行い実績を作りますが、ある程度慣れてくると、護衛の依頼で稼ぐのだと聞いていました」
「なるほど」
「おそらく護衛の依頼の方が危険が少なく、稼ぎが大きいのでしょうね」
「あー。まぁ、そうでしょうねぇ」
貴族の護衛という事は壁の内側だろうし。
そうなると、魔物もそこまで危険なものは出ない。
森へ行くよりも、安全な場所で日銭を稼ぐ方が頭がいいという事だろう。
「でも、リョウ様は護衛よりも狩りの依頼を優先している、と」
「別に優先しているつもりはないんだけど……まぁ、そういう依頼がよく来るから、それを受けているって感じだよ」
「選り好みはしないのですか? それが可能なくらいの強さを持っているでしょう?」
「うーん。それは逆かな」
「逆?」
「俺はさ。セオストじゃあ結構強い方だけど……そんな俺でしか対処出来ない魔物もいる訳でしょ? でも、そんな俺が逃げちゃったら、他の人が対処しないといけない。そしたら無駄な犠牲が出るかもしれない。それはあんまり良いとは言えないよね」
「力の責任。という物ですね」
「そういう事。そこまで重いモノでも無いけどさ。出来る事はやりたいんだよ。それが最終的に俺の居場所を確かな物にするし。居場所が確かな物になれば、桜たちも安心して生きていく事が出来る」
「……」
「俺はお兄ちゃんだからね。妹たちの安心の為なら、多少は体を張らなきゃな」
「リョウ様は良いお兄さんですね」
「そうですか? このくらいは普通だと思いますよ」
俺は出来た料理を皿に入れ、アリアちゃん、ジーナちゃんに振舞ってゆく。
そして、俺自身もスープを皿に盛りつけ食べるのだった。
うーん。今日も中々に濃い。
歩き回って体も疲れているだろうし。多少濃い方が良いとは思ったけれど。
アリアちゃんも、ジーナちゃんも濃くてちょうど良かったみたいだ。
「はぁー。とても美味しいです。リョウ様は料理も上手いのですね」
「いやいや。疲れているから濃い味の料理が美味しく感じるだけですよ」
「なるほど……確かに。私も行軍計画で塩を多めにしたりはしますが、あくまで本の知識でそうしているだけでしたからね。経験の大事さが身に沁みます」
「そうですねぇ。まぁ知っていると経験しているの違いはかなり大きいですよ。どうしてもね」
「そう考えると、私も色々な所へ行ってみるべきなんでしょうね」
「可能なら、またお供しますよ」
「それは勿論。リョウ様にジーナさん。とても信頼できるお二人との旅など、これ以上の贅沢は無いでしょう」
「それは光栄ですよ」
俺はハハハと笑いながら食事を楽しみ。
食事を食べたからか眠いと言うジーナちゃんとアリアちゃんをテントへ案内して、先に寝て貰った。
そして、俺はと言えば、たき火の前で薪を足しながら火の番をしていたのだが……。
少々困った事態になった。
何かと言えば……今、俺の前に女性の、幽霊? が現れたのだ。
しかし、悪意はない様に見えるし。
ただ火にあたっているだけの様にも見える。
唯一普通じゃない点は、姿が透けている事であるが……はてさて、どうしたものか。