異界冒険譚   作:とーふ@毎日なんか書いてる

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第340話『アリア様の依頼(おねがい)3』

 シーメル王国の東側にある魔物が住まう森へと向かい、夜となった為、眠くなったというジーナちゃんとアリアちゃんを寝かせてから俺は火の番をしていたのだが。

 たき火の向こう側に向こう側の景色が見える程に透き通った人が現れた事で静かな夜は恐怖の夜へと一瞬で変貌した。

 

 いや、しかし。

 現れたとはいったが、一体いつここに現れたんだ!?

 気が付いたら正面に座っていたが。

 

 いったい、いつ!? 何故!?

 アリアちゃん達が起きていた頃には居なかったと思うが……その時には別の場所に居て、二人が居なくなったから火の近くに寄って来たという可能性もあるか。

 いや、でも何で火の近くに?

 寒かったのか……? でも、幽霊って寒さを感じるのか?

 

 分からん。

 まるで分からん。

 何も分からん。

 

「あー」

 

 こうなった以上、とりあえず話しかけてみるというのも一つの手では無いだろうか。

 という訳で、俺は謎の幽霊に向かって口を開く。

 

「良い夜ですね」

『……』

 

 驚きの無音。

 まさかの無言である。

 

 いや、別に絶対言葉を返してくれると思っていた訳じゃ無いけれども。

 少しだけショックな事は確かだった。

 

 しかし、女性の幽霊は俺の声に反応したのか顔を上げると、ゆっくりと口を動かして……。

 

『何故?』

 

 と、音の出ない口パクで呟いた。

 

 いや、知らないよ。

 俺が何故だよ。

 

 と、思わずツッコミたい気持ちを全力で抑えながら、ひとまず夜について話す。

 

「ま、あぁ。やはり雲の少ない夜というのは星がよく見えますからね。キラキラと輝く星を見ていると心が安らぐと言いますか……」

『どうして……』

「え、えー。っと、ですね。星が美しいという感性は、花を愛でる感情に近いとアリアちゃんも言っていたんですが、それはそこにある物の存在の美しさといいますか」

 

 俺は必死に自分でもよく分からない話を、何とか言葉を並べて伝えようとする。

 だが、上手くいっているのか、いっていないのか、よく分からず、俺はチラリと女性の幽霊を伺う。

 すると、どうだろう。

 

 どうだろうか!

 女性の幽霊は何やら微笑みを浮かべながら俺を見ているでは無いか!

 なにが良かったのか分からないが俺はとにかく色々な話をしてみる事にした。

 

 最近はアリアちゃんと話す機会も増えたから色々と話すネタがあるのだ。

 それをひとまず片っ端から話してゆく事にする。

 

 何となくではあるが、幽霊の女性にも好む話と好まない話があるようで。

 ツマラナイ話を俺がしている時は、分かりやすく不機嫌な顔をしていて。

 俺がしている話が楽しい時は、ニコニコと楽しそうな笑顔を浮かべていた。

 

 いや、まぁ。どういう話が良いのか、それはサッパリ分からないのだけれども。

 

 そして、何とか色々な話を重ねて、女性の幽霊も満足したのか周囲が明るくなってくる頃にはスゥっと光の中に消えて行った。

 一体何だったのだろうか。

 

 

「……ふぁぁあ。あら。リョウ様。一日起きていたのですか?」

「まぁ、結果的にね」

「結果的に?」

 

 不思議そうな顔でアリアちゃんが首を傾げるのを見ながら、俺は昨晩の事を話そうかと思ったが、子供を怖がらせる物でも無いかと口をつぐむ。

 そして、何でもないよとだけ呟いて話を終わらせるのだった。

 

 それから。

 俺は朝食を作り、ジーナちゃんがいつまで経っても起きてこない為、無理に起こして朝食を食べさせた。

 

「うみゅー。リョウ君は、怒りっぽいなぁ」

「普段のお出かけなら良いけどね。今回は仕事だから」

「うみゅー」

「あ、あの。リョウ様。そこまで急ぎの旅でも無いですし。ゆっくりでも……」

「そういう訳にはいかないですよ。アリア様が今日という日の為に、どれだけ頑張って予定を空けたか知っていますからね。はい。シャキッとする」

「しゃきーん」

 

 グダグダしたままのジーナちゃんをそのままに俺はジーナちゃんが朝食を食べ始めたのを確認して、テントをしまい始めた。

 そして、旅支度をして、ジーナちゃんが朝食を食べ終わったのを確認してから後片付けをして歩き出すのだった。

 

 しかし……。

 

「さぁ。出来ることなら今日中に目的地まで行きたいけど……」

「はい! 頑張ります!」

「うぇーい」

 

 やる気いっぱいという所だが、体力のないアリアちゃん。

 そしてやる気はゼロなジーナちゃん。

 もう一日くらいは掛かりそうだな。と俺は地図を見ながら考えるのだった。

 

 まぁ、急いだところで体が追いつかないのであれば良くないだろう。

 という事で、俺はそこまで急がず、アリアちゃんの様子を見ながら適度に進んでゆくのだった。

 

 

 それから。

 俺達は一日ほどかけて適度に歩き、全体の三分の一くらいの地点に到達する事ができたのであった。

 そして、昨日と同じ様に夕食を準備して、テントにアリアちゃん達が行くのを見送り俺は火の番を始めた。

 

 が、流石に今日は眠い為、たき火の前で腕を組みながら近くに重い荷物を置いてそれに寄りかかりながら目を閉じて寝る。

 

 今日も周囲に警戒網は置いているし、何かあったらすぐに起きる事が出来る。

 だから、安心して眠っていたのだが……どうにも眠りが妙な感じだ。

 

 眠りというか、俺の中にある何かが、今危機的状況が迫っていると俺に叫んでいた。

 何が起きているのかと俺は、目を開けて……。

 

「っ!?」

 

 思わず叫んでしまいそうな体を何とか抑え込んで、声をかみ殺す。

 驚き等と言う言葉では済ますことが出来ない。

 

 俺の目の前……少し手を伸ばせば触れる事が出来そうな場所に昨日見た女性の幽霊が居たのだ。

 しかも俺をジッと見つめていた。

 

 一瞬、心臓が止まるかと思ったが、平静を取り戻す為に胸に手を当て深呼吸を繰り返す。

 

「……あ、貴女ですか。今日も出てきたんですね」

『……』

 

 女性の幽霊は俺のバッグへと手を向けると、それをテントの方へ向けている。

 どうやら何かを俺にさせたい様だが……何だろうか。

 

 俺は女性の幽霊の動きを見ながら少し考えて、ブルリと体を震わせる様な寒さを感じた。

 今日の夜は随分と冷えている様だ……と考えてからハッとなった。

 

 なるほど! テントで寝ている二人にも上にかける物を追加して欲しいという事では無いだろうか?

 

「もしかして、このタオルを、二人の上にかけたい……?」

『っ! っ!』

 

 どうやら正解であったらしく、女性の幽霊はコクコクと何度も頷いていた。

 俺はその反応にホッとしながら、すぐさま二人にタオルをかけ、更に暖房の魔導具をセットしてきた。

 

 これでテントの中は適温で維持されるはずだ。

 

「これで、良いですかね」

『……!』

 

 ゆっくりと大きく頷きながら女性の幽霊は昨日と同じ様にたき火を挟んだ向こう側へと座った。

 そして、対面に居る俺をジッと見つめる。

 

「本当は、貴女の正体なんかも気になっては居るんですがね」

『……?』

「あまり多くは喋れない様ですし。先ほどの行動と、昨日の話で何となくどういう人なのかも分かったので、このまま話をさせて下さい」

 

 俺はたき火に木の枝を放り込みながら、ゆっくりと俺の考えを女性の幽霊に語る事にした。

 女性の幽霊は穏やかな……まるで生きている人の様な顔で微笑みながら俺をジッと見ている。

 

「貴女は……おそらくですが、アリアちゃんのお母さんなのですね」

『……』

 

 女性の幽霊はコクリと頷いた。

 その姿は生前の美しさを見せている様で、アリアちゃんの面影を見せている。

 

 なるほど。

 以前アリアちゃんが成長したら美人になると言っていたが。確かにな。

 これは相当な美人さんになるだろう。

 

「そうですか。貴女の事をアリアちゃんには?」

『……』

 

 アリアちゃんのお母さんはゆっくりと首を横に振った。

 それは明確な拒絶であり、アリアちゃんには自分の事を伝えて欲しくないという意思表示であった。

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