アリアちゃんと、アリアちゃんのお母さんの再会を手伝った俺であったが。
アリアちゃんの気持ちが落ち着き、俺の中に居るアリアちゃんのお母さんの気持ちが落ち着いた為、俺の役目は終わりとなった。
まぁまぁいい仕事をさせて貰ったと思う。
「……恥ずかしい所をお見せしました」
「大切な人に会えて喜んでいる姿は恥ずかしい事なんかじゃないよ」
「ふふ。そう言っていただけると嬉しいです。ですが、女王としては恥ずかしい姿ですので、これはもうリョウ様に責任を取って貰うしかありませんね」
「そんな当たり屋みたいな事ある?」
『まぁ! アリア! 貴女も恋を知る様な年齢になったのですね!? とても素敵な事だわ。アリアがお願いしているんですもの。貴方も頷きますよね?』
(強要しないで下さいね)
『強要だなんて! むしろ喜ぶべきでは?』
(それを強要って言うんですよ。お姫様)
俺は体の中で元気に騒いでいるアリアちゃんのお母さんこと、元シーメル王国のお姫様に嫌味をぶつけた。
しかし、お姫様は何も気にした様子を見せないまま俺の中で元気に騒いでいるのだった。
「まったく……よく似ているよ母娘で」
「お母様、ですか?」
「あぁ。俺にだけ聞こえる声で、アリアちゃんの責任を取るべきだって騒いでる」
「……ふふ。あはは。お母様ってば。何も変わっていないのですね」
『アリア?』
「アリアちゃんのお母さんが不思議そうな顔をしているよ」
俺の言葉に、アリアちゃんはふわりと微笑みを浮かべるとゆっくり口を開いた。
「私の記憶に残るお母様は、私が何かする度に喜んで、アリアは天才。アリアは可愛いと繰り返しておりました。そして周囲の者たちへもそうでしょう? そうでしょう? と迫って、困らせていましたね」
『まぁ、そんなことまで覚えているだなんて。本当にアリアは天才なんだわ』
「アリアちゃんの話に、アリアちゃんのお母さんは喜んでるよ」
「ふふっ。そうですか」
実に楽しそうなアリアちゃんに、俺も心が癒されていくのを感じる。
しかし、アリアちゃんのお母さんはアリアちゃんが天才だ、天才だと喜んでいるが。
別に親バカでも何でもなく真実アリアちゃんは天才なんだよな。と俺はシミジミした気持ちになった。
まぁ、アリアちゃんのお母さんはそんな事、欠片も気にしていないだろうけど。
そんなこんなで、俺はアリアちゃんと朝食を食べながら楽しい時間を過ごし。
ジーナちゃんがいつも通りノソノソと冬眠終わりのクマの様な姿で起きて来た為、ひとまずは体が温まるお肉と野菜のスープの濃い目を渡した。
「はい。ジーナちゃん。これ食べて温まろうか」
「うぃー。うぅ……。うぃー」
「これじゃあ酒場で飲んだくれてる冒険者と何も変わらないな」
ノソノソと動きながら野菜のスープを受け取って、チビチビと食べているジーナちゃんはビックリするくらいダメダメだ。
魔法を使いながら動き回るジーナちゃんの格好良さは、ここにはない。
いるのは、動くのを嫌がり、ただ生きているだけの存在だ。
残っているのはジーナちゃんの可愛さくらいだろうか?
いや、毛布にくるまり殆ど目を開けていない状態のジーナちゃんが丸くなってスープを食べている姿は普段とは違う可愛さがある様に思う。
前の世界で、こういう動物の動画を見て、桜も喜んでいたっけ。
「ジーナちゃん。美味しい?」
「はふはふ……おいひぃ」
「それは良かった。追加もあるよ」
「たべう」
「パンは?」
「たべう」
おぉ……。
何だか少し楽しくなってきたぞ。
色々な悩み事が解決したからか、俺はジーナちゃんに餌付けをして楽しむ。
だが、そんな俺の行動が、アリアちゃんにジィーッと見つめられ、体の中からもアリアちゃんのお母さんの声が響く。
「リョウ様。ジーナさんで遊んでは駄目ですよ」
『浮気? 浮気かしら。アリアと婚約をしたのに、もう他の女に手を出しているの?』
「誤解ですよ。誤解。二人とも!」
俺は必死に、二人へと言い訳をするが、ジト―っとした目も、俺の中から響いてくる声も消えなかった。
なんてこったい。
「んー」
どうしたものかと俺が考えていた所、ジーナちゃんが何やらスプーンを咥えたまま考え始める。
相変わらず目は開いていないが、皿はたき火の近くに置かれ、腕は組まれていた。
「アリアちゃん。なんかいい事あった?」
「えっ! そ、そう思いますか?」
「うん。なんか寝る前よりも声が明るいし、楽しそう」
おぉ、中々に鋭い。
口には出さないけれど、俺は心の中で少しだけ驚いていた。
しかし、流石はアリアちゃんというべきか、当たり障りのない言葉で返し、どういう展開に繋がっても問題ない様にしている。
「んー。あ! わかった! 二人ともジーナちゃんが寝てる時に、何か楽しい事してたんでしょー!?」
「やってないよ」
「嘘だー! だって、リョウ君も凄い嬉しそうだもん! 何かやったんだー! ジーナちゃんをのけ者にするなー!」
突然火が入った様にジーナちゃんは目をカッと開き、俺を見やって叫んだ。
完全に見当違いな話ではあるのだが、そこまで何もかもおかしいという話でもないというのが絶妙な所である。
「ジーナちゃんをのけ者にしたつもりは無いよ。ただ、まぁジーナちゃんが寝てた時に起きた事だからねぇ」
「えぇー! そういう時は起こしてよぉー!」
「起こしたんだよ? でも、ジーナちゃんが眠い! もっと寝たい! って言って毛布を頭から被っちゃったから」
「え」
「じゃあ仕方ないかってさ」
「えぅー。それはー! そうかもしれないけどぉー! でもでもでも! そこで頑張ってジーナちゃんを起こしてくれるのがリョウ君の優しさでしょー!」
「残念。俺はあんまり優しく無いんだ」
「そこは優しくなってよ! ジーナちゃんに優しくしてよー!」
ジタバタと暴れるジーナちゃんによって、色々な出来事は流された。
俺も何とか命拾いをする事が出来たのである。
という訳で、いよいよアリアちゃんのお母さんが眠っている場所を目指し今日も進むワケだが。
『ふふっ、アリアとお出かけ! アリアとお出かけ!』
俺の中からその当人が喜んでいる状況では何とも反応に困る所である。
墓参りに当人も参加するというのは中々ホラーな展開ではあるが、現状はホラーからかなり遠い状態だ。
まぁ、アリアちゃんも楽しそうだから良いけれど。
「じゃあ、今日も頑張って歩こうか」
「はい」
「はぁーい」
俺は地図を片手に、進む先を間違えない様に歩き続ける。
そして、もうほとんど目的地の近くに来ていたのだろう。
お昼ごはんを待たずして、俺達の前に大きな湖が現れた。
話に聞いていたアリアちゃんのお母さんが眠っていると思われる場所である。
「ここが……」
「はい。お母様が眠る場所です」
『えぇ。そうね』
落ち着いた空気なのに、どこか落ち着かないのは、やはりアリアちゃんのお母さんの声がするからだろうか。
いや、しかし、気にしても仕方ないだろう。
どちらにせよ、アリアちゃんのお母さんが亡くなった事で、アリアちゃんはお母さんと引き離される事になったワケで。
そう考えれば、事件というには十分な出来事だと思う。
「さて、じゃあお参りをしようか。アリアちゃん。どうする?」
「そうですね……。やはりお墓参りですし。お花でしょうか」
「なるほど。じゃあ何処かから見つけてこないと……」
『それなら! 良い場所がありますよ! この湖の向こうにとても綺麗な花が咲き乱れた花畑があるのです!』
「なるほど」
俺はアリアちゃんのお母さんの言葉に頷いて、湖の向こうを見やった。
「リョウ君?」
「うん。ちょっと向こうの方からいい香りがしてるんだ。行ってみない?」
そして、俺は素直にアリアちゃんのお母さんの言葉に従って、皆を案内するのだった。