何とかアリアちゃんの猛攻をしのぎ切り……!
とりあえずお鍋の見張りという役目を与える事で納得して貰えた。
「はぁ……まるで子供扱いですね」
「まぁ実際子供だし」
「おや? 不敬罪ですか?」
「急に支配者になられると困りますよ。陛下」
「支配者とはズルい物なのです」
さっき俺が大人の理屈を振り回していたからか。
今度は意趣返しとばかりに支配者の理屈を振り回してくるアリア様。
なんとまぁ気軽な関係になった物だと思う。
「それで? そろそろ本心を聞かせていただきたいですね。リョウ様?」
「本心と言いますと?」
俺は首を傾げながらアリアちゃんの問いに疑問を投げ返す。
いや、実際何の話か分からないから、別に誤魔化しているとかでは無いのだが。
まぁ、一応一番どうでも良い事から答えてみるか。
「あぁ。もしかしてアリア様にナイフを握らせず、鍋の見張りをお願いした件ですか? まぁ、憤る気持ちは分かりますが、これも仕方のない事なのですよ。もしも森の中で怪我などして、怪しげな病気になっても大変ですからね」
「いえ! その件ではなく!」
「はぁ、なるほど?」
「……実はもう分かっているんでしょう?」
「何のことやら。私にはアリア様の尊いお考えは分かりませんよ」
「ほらー! またそうやって意地悪するんですね!」
『え!? アリアに意地悪!?』
「まぁまぁ落ち着いてください。アリアちゃんも、アリアちゃんのお母さんも」
「これが落ち着いていられますか! レオさんに森でリョウ様に意地悪されたって言っても良いんですよ!?」
「それは本当に、物理的に首が無くなるやつなので、止めていただけますと幸いですよ」
「では、はい! 答えて下さい!」
俺は、ふむ。と考えながら色々とアリアちゃんに言ってない事情の中から、おそらくはコレかなという奴を口にした。
まぁ、外れていたとしても大して影響は無いし。良いだろう。
「じゃあ、アレですかね。何故還る時間を遅らせたのか。って話」
「はい。そうです」
「んー。まぁ別にそんなに難しい話じゃないんですよ」
「と言いますと?」
「アリア様もお分かりの事かと思いますが、このまま同じ様に道を辿って戻った場合、アリア様が森の、どの場所に用事があったのか。ある程度推測出来ますよね?」
「……えぇ、そうでしょうね」
「その場合、何かあった時に、それは弱みになると思うんですよ」
「何か……というのは」
「アリア様自身も言っていたじゃないですか。戦争が起きた時に、ですよ」
アリア様の顔がスッと静かに落ち着く。
しかし瞳は強い意志を込めたまま俺を見据えていた。
「なるほど。それでジーナさんの魔法でのかく乱ですか。良い案だと思います」
「そうでしょう」
「しかし、それでは少々足りませんね」
何とまぁ。
アリア様からの駄目だしである。
いや、結構いい線を突いてたと思うんだが……。
「どうせなら、シーメル王国に直接戻りましょうか。それもリョウ様のお家に」
「ふむ?」
「本日はこちらで過ごし、夜明けと共にリョウ様の家に転移します。そして、ごく自然にリョウ様の家から王城へと向かい、夕刻前くらいに再びシーメル王国から森へ向かいます」
「……なるほど。そもそも森へ用事があったのかどうかすら不明な状態にするんですね?」
「そういう事です。これでしたら、公式な記録としては森へ行った事になりますが、壁にいた騎士たちは私達が『公式な記録を作るために』森へ行ったと思う可能性が高い」
「ふむふむ」
「そもそもの話ですが、たった三人で森へ行くなど異常事態ですからね。シーメル王国から隠れる為。もしくはアリバイ作りの為。どの様に考えても構いませんが、森へと向かったことがオマケであったと思われるのがごく自然です」
「なるほど……!」
「都合が良い事に、壁の所でリョウ様が魔物を単独で殲滅するというパフォーマンスを見せて下さいましたから。そういうパフォーマンスを見せる事も含めて、私達の作戦だった。と考えていただけるのであれば良いかと」
俺はアリア様の言葉に頷きながら、話を飲み込んでいたのだが。
ふと一つ疑問が浮かぶ。
「ちなみになんですが、ジーナちゃんの転移魔法がバレるのは問題ないのでしょうか?」
「えぇ。問題は無いと思いますよ。彼らもジーナさんの存在は知っていましたし。ジーナさんが自由に転移であらゆる場所へ行ける事は有名ですから」
「なるほど……それでジーナちゃんは怖がられてるのか」
「えー!? なになに!? ジーナちゃんの話」
「そう。ジーナちゃんの話。ジーナちゃんは怖いなって話だよ」
「えぇー!? ジーナちゃん! 怖くないよ!」
「まぁ、俺はジーナちゃんと仲良しだから怖くないけどさ。世の中の偉い人はジーナちゃんが凄く怖いだろうね。どこへでも行けて、色々な魔法が使える。それは、どんな場所に居ても、どれだけ護衛を集めても殺される可能性が常にあるって事と同じ意味だからね」
「いや、ジーナちゃん。知らない人に突然襲い掛かったりしないけど」
「そりゃそうだろう。ジーナちゃんをよく知っている人なら、みんなそう思う。俺も、アリア様も、桜も、スタンロイツ帝国の皇帝陛下もさ」
「そうですね。意志を持つ兵器ほど恐ろしい物は無いですからね」
アリア様も俺の話に頷き、ジーナちゃんは納得できないぞー! と空中をグルグル回っていた。
まぁ、こればっかりは仕方のない事だろう。
実際、ジーナちゃんの事をよく知らなければ、俺だって脅威だと思うしな。
ただ、だからと言って、どうしようもない、と言えばどうしようもない話なんだが……。
「しかし、私はジーナさんのお陰でかなり助かっている部分も多いので、ジーナさんにはゴメンナサイをしないといけませんね」
「え? そうなの?」
「はい。私がジーナさんと仲良し。という話が広まるだけで、私やシーメル王国に意地悪をしようとする人が減りますから」
「おぉー! ジーナちゃん! すごい!」
まぁ、そりゃそうだろうよ。
しかも今回俺が一緒に行った事で、俺の繋がりもアリアちゃんに繋がっていると思わせる事が出来る。
おそらく俺の評価は、ヤマトから来た侍で、セオストに居る冒険者という所だが。
ヤマトという国がどういう国か見えない以上、俺の立場は見えないし。最悪は国ごと敵になる可能性がある。
そうなれば、嫌というほどヤマトの怖さをしっている人たちは手を出しにくくなるだろう。
そして、セオストで俺がアレクさんやヴィルさん。それに獣人戦争の英雄エドワルド・エルネストさんと親しくしているのは有名な話だし。
最悪は英雄が敵になる。
今回、シーメル王国で直接獣人と戦ったが、確かにあの獣人を複数相手にして圧倒していたというエルネストさんの話は異常だ。
実に化け物じみている。
そんな人が敵になるだなんて考えたくも無いだろう。
そう考えると、現在のアリアちゃんはかなり安全な位置に居る様な気がした。
上手くアリアちゃんを暗殺出来たとしても、それを仕掛けた人間は確実に死ぬことになるからな。
そんなリスクを背負ってまでやることじゃない。
そう考えると、逆にシーメル王国やアリアちゃんの価値が上がって、どうにかその力を得たいと考えるのが自然。
……!
そ、そうか! だからアリアちゃんに婚約の申し込みが殺到しているのか。
考えれば酷く自然な話であった。
それはそう。という様な話である。
「なるほど。それでアリアちゃんに婚約者が殺到してたのね」
「そうなんですよ。リョウ様」
「じゃあ、アリアちゃんが結婚する相手は大変だね」
「えぇ、そうですね。リョウ様」
なんだろうね。その意味深な視線は。
そして、なんでそれを俺に向けているんだろうね。
本当にね。