異界冒険譚   作:とーふ@毎日なんか書いてる

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第349話『アリア様の依頼(おねがい)12』

 俺はアリアちゃんのお母さんが放った言葉に何度か聞き返したが、結果は変わらず。

 アリアちゃんのお母さんを惚れさせるという意味不明な物であった。

 何でやねんという気持ちである。

 

(それは、何というか。色々と無茶なのでは?)

『その様な事はありませんよ』

(いや、あるでしょう。俺は別に遊び人とかでは無いんですよ。そんなに簡単に女性を口説くなんて出来ませんよ)

『あら。私やアリアには行っているではありませんか』

(え)

『私は殿方に、この様に熱く迫られた事はありませんでしたから、とてもとても嬉しくて……あなた様の為に何かしたいと思うくらいですよ』

(そんなバカな!? チョロすぎませんか!?)

『ちょろ?』

(とても惚れやすいという事です)

『その様な事は無いと思いますよ。それに、もし私がそれほど惚れやすいのであれば、私の体も問題は無いでしょう』

 

 そんなバカな。

 いやいやいや。

 そんなバカなである。

 

 しかし、俺の中から聞こえる声は確信を持っている様であった。

 なんでだ! と叫びたい気持ちだが、一応冷静になろう。

 

 俺が女性の扱いが上手いかどうかは今、重要じゃない。

 重要なのはアリアちゃんのお母さんの体の意識を何とか俺に逸らす事である。

 その為に、まぁ意識させれば良いのだから、口説くというのは間違いでは無いのだろう。

 

 失敗しても、なんだこの男はと怒りを買う事が出来るのだから、マイナスはない。

 むしろ良い所しか無いという訳である。

 

 そう考えればとりあえず挑戦してみるというのは悪くないのではないだろうか?

 しかし、困ってしまうのは、水中の中でどうやって口説くのか。という話だ。

 無茶だろう。冷静に考えて。

 だって、喋れないんだぞ? 何をどうやって口説くというんだ。

 

(うーん)

『どうしたのですか?』

(いえ。水中で口説くのは難しいなぁと思いまして)

『それでしたら、水中から引き揚げれば良いではないですか』

(え! 出来るんですか!?)

『それはもう。別に水中に体が固定されている訳では無いですからね。グイっと引っ張り上げれば引き上げられます』

(いやしかし。抵抗するでしょう? 普通)

『大丈夫ですよ。私は殿方に触れられた事すら数える程、抱きしめれば動けなくなりますよ』

 

 本当か?

 と、思わず疑いたくなったが‥…まぁ、本人が言うんだし間違いは無いんだろう。

 抱きしめた瞬間、手刀で体を貫かれるとかになったら笑えないんだが……。

 そこはもう覚悟を決めるしかないか。

 

 男を見せろ! 小峰亮!

 

(分かりました。何とかして見せましょう)

『流石はあなた様ですね。私は信じておりました』

(まぁ、期待には応えないといけないですからね。男として)

『素晴らしいです。私はあなた様の好みからは大きく外れるかと思いますが、どうかよろしくお願いいたします』

(はい……って、え?)

『何か?』

(いや、今、好みから外れるとか何とか)

『はい。私はこの通り、既に成長が終わってしまいましたから。あなた様が好む様な幼子ではありません』

 

 酷く嫌な予感がして聞き返したが……やっぱりか。やっぱりなのか。

 何故ここでも幼女趣味だと思われているんだ!? 俺は!

 別に怪しい行動は一切していないというのに! 何故!

 

(いえ。その……申し訳ないのですが、俺の好みはアリアちゃんのお母さんみたいな方なので)

『まぁ、その様な嬉しい事を言って下さるとは。あなた様はとても紳士なのですね。私などに』

(いや、本当に本当の本当に! 心の底からアリアちゃんのお母さんみたいな方が好みなんですよ! 子供ではなく! 大人の女性が好きなんです!)

『あら……では、アリアの事は?』

(アリアちゃんのお母さんには申し訳ないですが、俺の好みからは外れていますね。無論だからと言って冷たくする理由はありませんが)

『まぁ。なんという事なのでしょう。まさか、私がアリアの想い人の心を奪ってしまったなんて』

 

 アリアちゃんのお母さんは俺の中で、まぁ! まぁ! と言葉を繰り返していた。

 何とも落ち着かない感じになってしまったが、アリアちゃんのお母さんを口説く方法は何となく分かった様な気がする。

 

 俺は一つの覚悟を決めて、水の中へと潜った。

 一応神刀を手に持ちながら……だ。

 

 そして、水底で蒼く輝く何かを見つけて、グッと右手に力を入れる。

 会話が出来ない状態であれば、申し訳ないがこのまま再生するまで時間が掛かる様に切り捨てる……と。

 

 しかし、俺が近づいてもアリアちゃんのお母さんの体は動きを見せず、何故だろうかと近づいてみれば理由が分かった。

 

 アリアちゃんを助ける為に心臓に神刀を突き刺した時は、世界の全てが憎いとでもいう様な紅い瞳をしていたのだが……今は完全に怯え切った顔をしている。

 おそらくは、娘との感動の再会をしていたと思っていたら知らない奴に襲われたからだろう。

 

 何となく分かったのだが、アリアちゃんのお母さんの体は俺の中にいるアリアちゃんのお母さんと同じく、ここで殺された時から時間が止まっているのだ。

 そして、話を聞く限りアリアちゃんのお母さんは、人と触れ合う機会が少なくコミュニケーションの取り方もよく分かっていない。

 

 分かりやすく言えば、心は寂しがりの子供のまま体だけが成長している様な状態だ。

 そんな状態で、最愛の娘であり唯一の拠り所であるアリアちゃんが奪われた。

 憎しみはあるだろうが、それ以上に心を占めているのは身が引き裂かれそうな孤独感。

 

「……」

 

 俺は神刀をアリアちゃんのお母さんの体から見える様に納刀する。

 そして両手を上げて武器を持っていない事をアピールした。

 

 水底で揺れているアリアちゃんのお母さんは少し驚いた様な顔をして俺を見つめていた。

 そんなアリアちゃんのお母さんの元まで俺は泳ぎ、その体よりも少しだけ底に移動して体を抱き上げた。

 

 横抱きにしたまま水面まで上がろうとしていた俺であるが、アリアちゃんのお母さんの体が怯えを隠さぬまま暴れ始めてしまった。

 それは本当に子供の様な暴れ方で、顔を見ると泣きそうな顔をしているのが分かった。

 いや、実際に泣いていたのかもしれない。

 

 だから、俺は暴れるアリアちゃんのお母さんの体を抱きかかえる体勢のまま暴れる右手を軽く捕まえて、アリアちゃんのお母さんの体と目を合わせた。

 怖がらせない様にと、ココちゃんや子供たちに接する時の様に。

 心配ない。

 怖いモノなんて何も無いんだよ。という様に微笑んだ。

 

 そして、近衛騎士就任の儀式でオーウェンさんがやっていた様に右手にそっと口づけを落とした。

 俺は貴女の敵ではない。という意味だ。

 知らないけど。

 

 だが、様々な事が重なったお陰かアリアちゃんのお母さんの体は大人しくなり、俺に素直に抱きかかえられてくれた。

 俺が口づけを落とした右手を左手で包みながら胸の前で押さえ、朱色に染まった頬で俺を見ているのが微かに気になるが……まぁ、惚れさせる作戦だからな。

 成功しているという事だろう。

 

 それから俺は水の中を泳ぎ、勢いよく顔を水面から出して大きく息をする。

 とりあえず何とか生還出来た。

 

 そして、流石にテントがある方に上がるのはマズいので、テントの反対側……どこまでも広がる平原の方へと上がり、アリアちゃんのお母さんの体を一緒に引き上げる。

 流石に地上へ上がる時にはそれなりに重さを感じたが、それでも成人女性から考えれば、だいぶ軽い様に思う。

 いや、成人女性の重さなんて分からないのだけれど。

 

 桜たちから何となく考えただけである。

 

「……ふぅ」

「あ、なた、さまは……」

「あぁ、自己紹介が遅れました。美しい姫君。私は小峰亮と申します」

 

 湖の近くで座り込んでいるアリアちゃんのお母さんの体の手を取り、再び口づけを落とす。

 二回もやって良いモノなのか分からないけど、ノリでやってしまった。

 まぁ、良いか。

 

 何も分からないのだ。

 とにかく出来る事は全部やろうの精神である。

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