さて。
アリアちゃんのお母さんの体が動き出してしまった為、このままではアリアちゃんを自分の傍に置く為に暴走したり、人類への憎しみを強くして暴れたりする可能性が生まれてしまった。
その為、まずはアリアちゃんから意識を逸らそうと、アリアちゃんのお母さんからの提案により、彼女の体を惚れさせる作戦を実行している最中なわけだが。
女性を口説く方法など分からないので、やれる事は全てやろうの精神で俺は今、走っている。
目的地の見えない暗闇の道を、ただひたすらに走っていた。
「先ほどは申し訳ございませんでした。美しい姫君。私はアリア様の護衛をしていた為、アリア様を守る為に、先ほどは姫君に攻撃を仕掛けてしまいました」
「……アリアの、ごえい?」
「はい。アリア様より依頼され、こちらまでの護衛をさせて頂いております」
「そう、なんですね。アリアの護衛……なら、アリアはどこ? 私、アリアに会いたい。アリアを抱きしめたい。アリアと共に暮らしたい」
「失礼ですが! 姫君!」
「ひぅ!」
俺はアリアちゃんのお母さんの体を落ち着かせる為に少しだけ声を荒げる。
このままの勢いで出会ってもまた同じ事が起きるだけだからだ。
「大きな声を出してしまい、申し訳ございません。ですが、アリア様をお守りする為に一つ、姫君に進言がございます」
「しん、げん?」
「はい。注意事項です」
「えと……はい」
俺はアリアちゃんのお母さんの体が落ち着いたのを確認してから大きく深呼吸をし、ゆっくりと、一つ一つ言い聞かせる様に言葉を繋げる。
「まず、アリア様ですが……大変繊細です。乱暴な扱いをすれば命を落としてしまいます。そうなれば二度と触れ合う事は叶わないでしょう。そう! 二度と! です!」
「ひぅ! ひゃい……」
「アリア様はとてもお優しい御方です。当然ながら姫である御身にも心を砕いております。しかし! 姫君がその想いを無にしてどうします! アリア様は貴女様を否定などしません。どうか、ご配慮頂けますと幸いです」
「は、はひ」
アリアちゃんのお母さんの体はしなしなと萎れながら、小さく頷いた。
何だか可哀想になってくる光景だ。
しかし、何だろうな。口説き落とすという話だったが、気が付いたらお説教をしていた。
いったい何があって、どうしてこうなったんだ?
いや、さっぱり分からないが……。
えー。ここからどうしようか。
ここからどう巻き返せば良い?
「姫君」
「は、はぃっ! ごめんなさい。ごめんなさい」
「あー。いえ。申し訳ございません」
俺は立っていては威嚇みたいになるか、としゃがんでアリアちゃんのお母さんの手を取った。
病的なまでに白いが、なめらかで美しい手だ。
真実。何の世辞もなく、魅力的な方だと思う。
まぁ、少々精神に引っ張られているのか子供っぽい所もあるが……。
その辺りはあまり気にしなければ良いだけだからな。
「自分はアリア様をお守りする事を第一としてここにおります。それゆえ、厳しい言葉をかけてしまいましたが、本心を言えば。貴女様の様な美しい方にこの様な言葉をお掛けする事は、とても……心が痛いのです」
「うつく、しい? わたしが?」
「えぇ。お美しいですよ。貴女様のお姿もそうですが……何よりも。その心が」
「こ、ころ」
「アリア様より貴女様のお話は聞いております。人を愛し、慈しむ事の出来る方だと」
「い、いえ……その、騎士様。私は、その、恥ずかしながら、アリア以外の人を愛した事は」
「であれば……これから愛してゆけばいいではありませんか」
「はわ……はわわ」
うーん。これはうまく行っているのだろうか。
正直な所女性経験がほとんどないので、よく分からないと言えば、よく分からないのだが。
まぁ、分からないのなら本人に聞くのが一番か。
(どうですか? こんな感じなんですかね? 自分じゃどんなモンか分からないんですけど)
『はい! 完璧だと思います! きっと今、私の体はあなた様に心を奪われておりますよ!』
(はぁ……なるほど)
心の本体が言っていると、何とも説得力があるんだか無いんだかって感じだが、一応は問題ないらしい。
まぁ、少なくともアリアちゃん以外にも関心が向いている状態なら良いか。
それならアリアちゃんに危害を加える可能性は減るだろうし。
とりあえずは任務完了って感じかね。
と、俺は立ち上がろうとしたのだが……その瞬間に手を掴まれてしまった。
ん? と掴んだ対象を見れば、それはアリアちゃんのお母さんの体で。
どこか切実な瞳で俺を見上げながらキュッと力なく俺の腕を掴んでいる。
そういえば?
(この後ってどうするんですか?)
『え?』
(いや、心を奪って、はい終わりってワケにはいかないじゃないですか)
『えぇーっと……どうしましょうか? また湖に沈めますか?』
(そんな鬼畜な事が出来ますか!)
『ひぅ……!』
しまった。
俺としたことが、アリアちゃんのお母さんの体を口説いた後の事を考えて居なかった。
いや、アリアちゃんが襲われたという事で焦り、早く何とかしなくてはいけない。という想いがあったからなんだが……。
どうする?
この場合、どうすれば良い?
俺は頭を抱えながらうーんと唸った。
悩ましい。
非常に悩ましい……が、おそらく答えは一つしかないだろう。
「はぁ……」
「あっ、ご、ごめんなさい……私みたいなモノが、あなた様に……ふれて」
ジワッと目じりに涙を浮かべながらポソポソと喋るアリアちゃんのお母さんの体は酷く哀愁を誘うもので。
俺は再びしゃがみ込んで、アリアちゃんのお母さんの体に語り掛けた。
「申し訳ございません。少し体を動かしたいと思い、立ち上がっていたのですが、姫君を不安にさせてしまいましたか?」
「あっ……! そ、そうだったのですね! 私ったら……はずかしい」
両手を頬に当てながら、目を伏せて、恥ずかしいです。と首を左右に振っているアリアちゃんのお母さんの体は非常に可愛らしいものだ。
美しいと可愛らしいを同居させている姿はとても素晴らしいと思う。
正直、こんな事情でも無ければ、本当に付き合いたいと願ったかもしれない。
が、まぁ事情もそうだが、何よりも王族だからな。
流石に俺みたいなどこの誰とも分からん奴が手を出して良い存在ではないよ。
という訳で、俺はアリアちゃんのお母さんの体を抱き上げて、そのままたき火の元へと戻る事にした。
アリアちゃんのお母さんの体は俺が移動する間、、ずっと俺の服を控えめに指でつまんでおり、そんな控えめな所も非常に惹かれるが……。
この方はアリアちゃんのお母さんな上に。王族である。
イカンイカン。
「熱いのは大丈夫ですか?」
「……はい。騎士様」
「あーっとですね。俺の名前はリョウです。リョウ」
「リョウ様……ですね。私は、マリアといいます」
「マリア様、ですね?」
「マリアとお呼びください」
まぁ、呼べるワケが無いのだが。
さて、どうした物かな。
「姫君。俺はただの平民ですから。姫をその様に呼べば首を落とされてしまいます」
「まぁ……!」
「ですから……」
「では、二人きりの時には……お願いしますね」
「あー。まぁ、二人きりの時であれば?」
うーん。
前にも似たような事を約束した様な気がする。
やはり親子という事なのだろうか。
アリアちゃんとマリア様はよく似ているな。
まぁ、単に俺が間抜けなだけという話もあるんだけれども。
だが、どちらにせよ、だ。
こうなった以上は、アリアちゃんにも事情を説明しないといけないし。
我が家に受け入れる場所を作らなくてはいけない。
……桜にはなんて説明するかなぁ。
俺は悩ましい事ばかりだなとたき火の火を見つめるのだった。