マリア様を家に連れてきた俺は、何とか桜と話をして、マリア様が家に住んでも良いという許可を貰う事に成功した。
ただし、ココちゃんとの顔合わせは必要であるし、何か酷い誤解をしているであろうフィオナちゃん達への説明も必要ではあるが。
「……色々と大変そうだなぁ」
「何が大変かは聞かないけどさ」
「うん」
「どうせ、お兄ちゃんが悪いんだから、ちゃんと謝れば良いんじゃない? って私は思うけどね」
「ごもっともで」
桜の言う事は全て正論であり、何も反論する事はなかった。
えぇ、その通りでございます。という奴だな。
しかし、まぁ。フィオナちゃん達への話は後だ。
まずはココちゃんである。
しかし、ココちゃんと会う前に、マリア様にどうしても確認しなければいけない事があった。
そう。それはココちゃんが獣人であるという事。
そして、マリア様がシーメル王国の王族であったという事だ。
シーメル王国が長く獣人を虐げて来た歴史を考えるのであれば、マリア様も同じ様にココちゃんをイジメる可能性がある。
それは、絶対に許してはいけない事であった。
だから……ココちゃんと実際に会う前に、俺には確認しなきゃいけない事がある。
「マリア様」
「はふー。はふー。は、はひ!?」
俺はお茶に息を吹きかけて冷まそうとしているマリア様に声を掛けた。
そして、俺の声に驚いたマリア様は、あわあわとしながらも湯呑をテーブルに置いて俺の方に向く直って下さる。
「申し訳ございません。妙な時に声を掛けてしまい……」
「いえ。何も問題はございませんよ。私にお話という事ですものね。はい。お伺いさせて下さい」
「率直に聞かせていただきます。マリア様は獣人について、どのようにお考えなのでしょうか?」
「獣人について、ですか?」
マリア様は何の話だろうかと首を傾げた。
その姿はアリア様ともよく似ていて、こういう所も親子なんだなぁ。とシミジミ感じる。
「はい。シーメル王国では以前、獣人が差別されておりました。しかし、現在アリア様が女王となられてからは、獣人への差別は禁止されております。人間と平等に。獣人にも権利があります。この国で不当な扱いをされず、生きる権利が」
「えと……えと?」
マリア様は話が難しかったのか、かなり困った。という様な顔で手をパタパタとさせていた。
その姿は大変可愛らしい物であるが、この話に関しては中途半端な気持ちでは向かえない。
シッカリと、分かりやすく、マリア様へとお伝えする。
「つまり、獣人さんも人間と一緒に暮らしていて、それをイジメるのは駄目ですよ。とアリア様が仰っているんです」
「はい。ナルホド」
「マリア様は、そちらでも問題ありませんか? 獣人と共に生きる事を許せますか?」
「えぇ。まぁ……。だって、アリアがそうしてね。と言っているんですよね」
「はい」
「なら、私はアリアの願った様に生きます」
「……マリア様」
「あぁ!」
「っ!? 何か」
「あ、いえ。私は既に死者ですので、生きるというのは間違いでした。えと、この場合はどの様に言うのが正解なのでしょうか」
困った!
とでも言いたそうな顔で、マリア様は先ほどまでと変わらず手をパタパタと揺らす。
その姿に癒されつつも、俺は少しだけ安堵した。
そして、実際に会ってみないとこれ以上は分からないか、と俺はマリア様を連れてココちゃんが居る場所へ向かう。
セオストの家にある屋上の家庭菜園へと。
ジーナちゃんが作ってくれた転移用の魔導具は正常に作動し、俺とマリア様と桜は無事、セオストの家に戻って来た。
どうやら掃除用の魔導具を買ったらしく、何もしなくても家の中は常に清潔に保たれているらしい。
その技術力に驚きつつも、俺は言えの中にある単距離移動用の魔導具を使って、ココちゃんが居るであろう屋上へと向かった。
「……便利な世の中になったものだ」
「本当だねー。家と家を移動できるようになったのは、まぁジーナちゃんの力だけど。他はお店で買った奴だもんね」
「こういう世界で生きていると駄目人間になりそうな所が怖いね
「まぁ、そこは大丈夫じゃない? 便利だからって。それに甘えている人ばかりじゃないし」
「まぁ、確かにそうか」
桜と言葉を交わしながら屋上へと繋がる扉を開くと、外からの暑い日差しが差し込まれており、俺はその眩しさに思わず手で日差しを防ぐべく手をかざす。
シーメル王国はそこまででも無かったが、セオストは既にすぐそこまで夏の気配が近づいてきている様だった。
直射日光は流石に色々と危なそうだなと感じた俺は、マリア様と桜に少し待っていて貰い、何かあった時の為にと買っておいた白く、つばの大きな帽子を部屋へと取りに戻り、走って屋上へ戻って来たのだが。
既に二人の姿は部屋にはなく、外へ出ている様だった。
「少し待っててって言ったのにな……!」
俺はしょうがないな。と呟きながら、入り口のところに置いてあったココちゃんの麦わら帽子も手に取り、扉の向こうへと飛び出した。
そして、何やら畑の中央でしゃがんで話をしている三人の元へと向かう。
「マリア様! 桜! ココちゃん!」
「あ。お兄ちゃん。早かったね」
「早かったね。じゃないよ。ほら。桜! 帽子」
「あー。コレ取りに戻ってたの? お兄ちゃんは心配性だなぁ」
「良いんだよ。少し心配性なくらいが」
俺は苦笑する桜の頭に帽子をのせ、マリア様にも帽子を手渡そうとしたのだが……マリア様は何やらココちゃんと話をしている様だった。
「うん……。これで、お野菜が、大きくなる」
「まぁ。凄いですね」
「うん。すごい」
「ココさんは博識なのですね」
「……ココは、本で読んだだけ……だから」
「その様に謙遜なさらないで下さい。書籍を読み、それを自らの知とする行為は、それほど容易い事ではないと私は知っています。貴女は誰に言われた事でもなく、己の意志でそれを成したのです。それは誇るべきです」
「……はい」
「ふふ」
マリア様は母らしい慈愛に満ちた顔でココちゃんと当たり前の様に話をしていた。
その姿から、獣人への差別的な物は見えないし。
ココちゃんという個人に対する悪感情も見えない。
ちゃんと一人の個人として扱っているし。その目には優しさも見えた。
「マリア様」
「はい……あっ! りょ、リョウ様。申し訳ございません。待っていろと言われましたのに」
「いえ。大丈夫ですよ。はい。こちら帽子です」
「あら。ありがとうございます。素敵なお帽子」
「気に入って下さったのなら、プレゼントさせて下さい」
「えぇ!? よろしいのですか? この様に、素敵なお帽子を」
「勿論ですよ」
笑顔でマリア様に頷き、次にココちゃんにも麦わら帽子を渡した。
「はい。ココちゃん」
「うみゅ……ココは、だいじょうぶ」
「駄目だよ。ちゃんと被らないと。暑い中で無理して作業してたら倒れちゃうからね」
「うみゅ……」
「ココさん。リョウ様も仰っていますが、陽の光というのは、皆さんに元気を下さいますが、それと同じくらいとても危ない物なんですよ?」
「そう、なの?」
「以前。お城の中庭をお散歩していた際に、ふらふらーっと、体が力を無くしてしまい、私は倒れてしまったのです」
「……! たいへん」
「はい。そして、お医者様が仰っていたのは、暑い中でお散歩していると、頭が熱くなってしまい、危険だ。というお話でした」
「だから、ぼうし」
「そう。リョウ様も、お医者様と同じ様に。危険を教えて下さっているのです。どうかその想いは受け取ってあげて下さい」
「……うん。ぼうし、かぶる」
ココちゃんはマリア様のお話に、素直に頷いて麦わら帽子を被ってくれた。
そして、そんなココちゃんに微笑みながらマリア様はココちゃんと再び話を始めるのだった。