ミクちゃんの驚異的な記憶力によって、マリア様の正体が何も言わずとも看破されてしまった。
まぁ、流石のミクちゃんも死者がそのまま歩いているとは思わなかったようだが。
それでもマリア様がかつて森の奥で殺された人であるという所まではバレてしまったのだから、本当に驚きだ。
「しかし、リョウさんはどうするのですか? この状況を」
「どうするって言われても、難しいね。このまま何もなく平穏に。とは思ってるけどさ」
「そう上手くいくと思います?」
「思わないよ。だから、上手くいく様にするんだよ。ミクちゃんだって、アリアちゃんだって、ずっとそうやってきたんでしょ? 世界は思った様に動かないから、上手く行くように動くってさ」
「まぁ……そうですね。それはその通りです」
「だから、俺も二人の様にやるよってだけの話」
俺は何でもない事の様にミクちゃんへ告げたのだが、ミクちゃんは今一つ納得できていない様だった。
まぁ、マリア様に関する話が始まってから、ずっと何一つ納得していないのだろうが。
それでも大人しく話を聞いてくれているのは、まぁミクちゃんの優しさだろうなとは思う。
「しかし、リョウさんの手に負えなくなる様な事態となったらどうするのですか」
「その時は俺が終わらせるさ。始めてしまった責任という奴だね。後はまぁ、力を持つ責任。とかでも良いけどさ」
「はぁ」
俺はある程度格好をつけて、ミクちゃんに安心して貰おうとしたのだが……ミクちゃんにはため息を吐かれてしまった。
何とまぁ、呆れられてしまうとは。
「リョウさんは格好つけすぎです」
「そう?」
「えぇ。少なくとも私はそう思います」
「そうかぁ……でも、まぁ。こうしている方が安心出来るでしょ?」
「リョウさんには申し訳ないですが……まるで、全然、これっぽっちも安心など出来ません」
「えー」
そこまで言わなくても良いんじゃなかろうか?
と思いつつも、俺は唇をキュッと締めているミクちゃんを見つめた。
ミクちゃんは先ほどまでよりも不満の色を強くしながら俺を見つめ返す。
なんだか睨めっこみたいになってしまったが、俺はこの状態の打開策を見つけられずにいた。
そんな時、天井から大きなため息が聞こえてきて、ふわりふわりと一人の少女が舞い降りて来た。
それは……。
「まったくおチビちゃんも素直じゃないなぁ」
「ジーナさん!」
「ジーナちゃんもお話ししに来たのかな?」
「まぁーねー。二人だけじゃ永遠に話が終わらないじゃないかって思ってさ。優しいジーナちゃんがお手伝いに来てあげたというワケです」
「ありがとう。ジーナちゃん」
「いいよー。べつにぃー。面白くは無いけどねー」
ジーナちゃんはプクーっと頬を膨らませながらソファーにまぁまぁ勢いよく降りた。
いや、落ちたという様な表現の方が正しいかもしれない。
しかし、それはジーナちゃんの怒りを示している様で、俺は慎重に口を開くのだった。
「えーっと、だね」
「うん」
「一応、ミクちゃんには事情を話したんだけど」
「全然納得してないって事でしょ?」
「まぁ、そうなるね……? たぶん」
俺はミクちゃんをチラリと見ながらジーナちゃんに応えた。
ミクちゃんは俺と視線がぶつかった瞬間、当たり前だとばかりに大きく首を縦に振る。
「当然です」
「ハイ」
「でもリョウ君はニブニブ君だから、なんで納得出来てないか分かってないって事でしょ?」
「まぁ、その通りですね。恥ずかしながら」
俺は素直に頭を下げてミクちゃんとジーナちゃんの下へ、下へと移動する。
女の子が怒っている時は、素直に頷いて、謝罪する方向へと移動した方が解決しやすい。
これは桜との時間で学んだことであるが、時と場合により、余計に爆発する事もあるので注意が必要である。
慎重に。
あくまで慎重に事を進めるのだ。
「じゃあ、このニブニブリョウ君をどうするのかっていうお話なんだけど。おチビさんは何か良いアイディアがあるの?」
「正直ありません。が、シンプルに私の気持ちを伝えるのが早いんだろうなとは思ってますよ」
「じゃあ、なんでやらないの? 恥ずかしいの? それともちっぽけなプライド」
「……やかましい人ですね」
「図星? 図星だったんだ?」
「……本当に、やかましい人ですねぇ。貴女は」
イライラとしたミクちゃんが、ジーナちゃんの言葉に、青筋を浮かべているが、俺は二人を見たまま動かない。
そして、なんでミクちゃんが怒っているんだろうか。という根源の問題へと向かうのだった。
いや、まぁ。何となく察してはいるんだけど。
自分から言うと、図々しいなコイツ。みたいな顔をされるかもしれないし。
間違えた時に恥ずかしい……というか、自信過剰なヤツみたいに思われるのが厳しいので、口には出さないのだけれども。
「はぁ……、分かりました。この状況を打破する為には、私が動くのが一番良いという事ですね」
「回りくどいなぁ」
「誰がそうさせているんですか。誰が」
「おチビさん」
「……はぁ。じゃあ、もうそれで良いです。それで」
ミクちゃんは投げやりにジーナちゃんへと言葉を返してから、俺へと向き直った。
そして、真剣な顔で口を開く。
「リョウさん」
「はい」
「私はリョウさんよりも世界の事情に詳しいつもりです。色々な困った事への解決手段も普通の人より多く持っているつもりです」
「まぁ、うん。そうだろうね」
「ならば! ならば!! こういう異常事態が発生した際には、私に相談するというのが、良いと思うんですけど!」
「いや……ミクちゃんが傷ついたら嫌だし」
「~~!! だー! もう! リョウさんは!」
ソファーの上でジタバタと暴れるミクちゃんに、どうどうと落ち着いて貰いつつ、俺は言葉を続けた。
別にご機嫌伺いでも、おべっかでもない、本心からの言葉を。
「俺はさ。我儘で感情より計算で動く人間なんだよ、まぁ、たまに感情だけで動く事もあるけど」
「たまに?」
「そう。たまーにだよ。たまーに」
「ホントかなぁ~」
「俺はそのつもりだから。本当だね」
疑わしいなぁ。とでも言いそうな顔で笑っているジーナちゃんに真剣な顔で返した。
そして、話は華麗に流してゆき、先へと進める。
「とにかく。そういう人間だからさ。俺だけで解決出来る時はそうした方が効率が良いと考えるんだ」
「その効率の為に死んでしまったらどうするのですか?」
「それはもう。自分の無力を嘆きながら死ぬさ。こんな所で、こんな筈じゃってね」
「それで、残された人の気持ちは?」
「申し訳ないと思うけど、申し訳ないと思うだけだ。みんなにはそれぞれ、自分の人生を歩んでくれればと思うね」
「それは、あまりにも無責任ではありませんか!?」
テーブルをドン! と叩きながら怒るミクちゃんに、俺はこれだけはとハッキリ言わせてもらう。
「悪いけど。俺の人生は俺だけの物だ。ミクちゃんの人生も、ジーナちゃんの人生も、桜も、ココちゃんも同じ。みんな自分の人生は自分の責任で、自分が思うように生きるべきなんだよ」
「では、家族の意味はなんですか」
「共にある事が出来る。苦難が訪れた際に、それと対抗する力となる」
「なら……!」
「だからこそ。苦難が来た時、俺はそれに対抗し、家族という集合体を守る。だが、それは俺の人生の決断であり、それを他の誰かに強要する事は出来ないって話だ」
「……!」
「こんな話。他の子には言えないけどさ。二人は俺が思っているよりも大人だからね。この際だからハッキリと言わせて貰った。悪いね」
「べつにー。良いけどさ」
「うん」
「じゃあ、私も好き勝手にしても良いって事?」
「そりゃそうだ。俺にジーナちゃんをどうこうする事は出来ない。まぁ、一緒に居ると楽しいから、一緒にいて欲しいとは願うけどね」
「ナルホドネー」
これが俺の全てだよ。と俺は未だ納得出来ていない顔のミクちゃんに告げた。
まぁ、納得できていようが、いなかろうが、話はここで終わりな訳だが。
という訳で、今日の話し合いは終わりとミクちゃんとジーナちゃんに告げるのだった。