フィオナちゃんから伝言をもらい、セオストの冒険者組合が俺を呼んでいるということで、俺はセオストの家にひとまず戻ることにした。
シーメル王国とセオストの家を繋いでいる転移装置を使って、一瞬のうちにセオストへと移動する。
そして、そこでハッと気づいたのだが、そもそも俺はセオストから通常のルートを使ってシーメル王国へと向かったのであった。
つまり、戻ってくる時も門を超える必要がある。
ということで再びシーメル王国へと戻って、急いでジーナちゃんの部屋へと向かった。
「ジーナちゃん! ジーナちゃん!」
「ん~? なぁにぃ~? ジーナちゃん。寝てたのにぃ」
「ごめんごめん。そろそろセオストに戻らないといけないからさ。転移でセオストの近くまで送ってほしいんだよ。っていうか。ジーナちゃんも一緒に行かないといけないんだけど」
「面倒だなぁ」
「面倒だけどやっておかないと、もっと面倒なことになるんだよ」
「はぁーい」
ネムネムと半分以上夢の世界へ旅立っているジーナちゃんの手を取りながら、今度は地下二階へと向かう。
そして、ココちゃんの居場所を全体マップから探すと、その場所へと急ぐのだった。
「ココちゃん!」
「え? あれ? お兄ちゃん? セオストに行ったんじゃあ?」
「行こうとしたんだけど、ほら。俺たちは門を通って外に出たからさ。戻る時も門を通らないとダメなんだよ」
「そうなんだ」
「というわけで行こう。ジーナちゃん」
「はぁーい。じゃあ転移……!? って、何!? ここ! え!? 外!?」
「家の中だよ。地下の二階に遊び場を作ったんだよ」
「どうして! そういう! 楽しいことをやるときに! ジーナちゃんを呼んでくれないの!」
「ジーナちゃんが俺一人でやってくれって別れる時に言ってただろう?」
「もー! どうしてそういう時ばっかり!」
「はいはい。一回セオストに行ったら、戻ってきて遊んで良いから」
「絶対だね!? 絶対だよ!? 約束だからね!?」
「あぁ。もう絶対の約束だよ」
「はい! じゃあ、転移!」
ジーナちゃんの掛け声で、俺とココちゃんはジーナちゃんと共にセオスト近くの小高い丘の上に転移した。
そして、そこからセオストの街へと降りてゆく。
そのまま退屈そうにしていた門の騎士に通行証の手続きをやって、ついでにココちゃんから確認印を貰って依頼達成の報告もするべく冒険者組合へと向かった。
前回の事があるので、ココちゃんとジーナちゃんを自宅へと送って、シーメル王国の家へ戻るのを見送ってからだ。
ドタバタと忙しなく色々な作業を終わらせて、冒険者組合の前に帰ってきた俺は、入口の看板を見ながらため息を吐いた。
一応、神刀は持ってきているし。
何かあった際にはシーメル王国へと撤退する準備も十分だ。
「失礼しますよ」
と、必要はないのだが、声をかけながら中に入ると何やらピリッとした空気が組合の中にあふれていた。
そして、俺へと視線が向けられる。
「……帰って来たぞ」
「まさか、戻ってくるとはな」
「てっきり……」
何やらヒソヒソと気分の悪いことだが、俺のことで噂をされているようだ。
言いたいことがあるのならハッキリ、目の前で言え。と思わなくもないが、ひとまずは飲み込む。
飲み込んでから俺の方を見て、立ち上がっていた受付嬢さんの元へと向かった。
「依頼達成の報告に来ました」
「な、なるほど。では処理させていただきますね」
俺はテーブルの下で書類の確認などをしている受付嬢さんをそれとなく見ていたのだが、そんな俺に先ほどヒソヒソと話していた冒険者たちが話しかけてきた。
「おい」
「なんだ」
「もう戻ってこないかと思ったぜ」
「俺もそのつもりだったんだがな。報告はしなきゃマズいだろ? 拠点を移すにしてもよ」
「拠点を移すだとぉ? 移れる場所があるっていうのか!?」
「あぁ。今回の依頼でシーメル王国のアリア様。女王様と親しくなってな。名誉近衛騎士なんて役職をもらったよ」
「っ!? ま、まさか! シーメル王国へとお引越しされるのですか!?」
「まだ決まってはいないですけどね。そういう可能性もありますよ。当然」
「し、しかし……シーメル王国はまだ情勢も安定していないと聞いておりますが」
「まぁ、問題はないでしょう。獣人とも戦いましたが、十分に制圧できる範囲でしたから」
「まさか……! 獣人とやり合っただと!?」
「その上で生きてるって……化け物かよ」
「だからまぁ。引っ越しの可能性は十分にあります。ここに居たくない理由も出来ましたしね」
「っ、そ、その件で……実は組合長からお話があります」
「えぇ。らしいですね。その件もついでに聞きに来ました」
俺はため息と共に奥の部屋からこちらを伺っていた組合長へと視線を向ける。
組合長は俺と視線がぶつかると、ビクッと震えてそのまま隠れてしまうのだった。
なんとも情けない姿であるが、まぁ、今気にするべきはのはそれじゃない。
組合の異様な雰囲気と、苛立ちを感じている様な冒険者の姿だ。
はてさて。
俺がいない間に何が起きたのか。
聞いてみなければ何も分からないか。
俺は、ひとまずココちゃんの依頼が無事処理された事を確認してから冒険者組合長が待っているであろう個室へと向かうのだった。
そして、個室に入ってすぐに飛び込んできたのは、冒険者組合長が頭を下げる姿だった。
それに驚きつつ、扉を閉めて椅子に座る。
「まず、話をして貰えないと何も分かりませんよ」
「いや! それもそうなのだが! まずは謝罪をと思ってな」
俺が座ったのを確認してから冒険者組合長は俺の正面に座る。
何だかんだと頭の切れる人だ。
まずは頭を下げて誠意を見せることで少しでも交渉を有利に進めようと考えているという事か。
と俺は真面目な顔をしながら正面に座った冒険者組合長を見て、思考を巡らせた。
「それで、話というのは」
「シーメル王国へと拠点を移すのは止めていただきたい」
「理由は何ですか?」
「冒険者が足りん」
「いや、いるでしょう。今日も受付のところで暇そうにしてましたが」
「正確に言おう。高位の冒険者が、足りない」
「であれば高位の冒険者に言って下さい。俺は最低ランクの冒険者ですよ」
「リョウ君! 今回は冗談を言っている様な状況ではないのだ。すまないが、真面目に対応してくれると嬉しい」
「……はぁ。わかりました。それで? どういうワケなんですか」
「どういうも何も無いのだよ。セオストは常に人が足りないのだ。君が来る前も、今も同じだ。人が足りていない」
「それは……」
「危険な依頼が多すぎるのだ。君が平然とこなしている依頼の殆どは、他の冒険者にとって死地へ行くのと同じ意味だ。命をかけてこなさなくてはいけない依頼なのだ」
「ですが、それが冒険者でしょう? 命がけで仕事をこなし、金を貰う。そういう仕事のはずだ」
「あぁ。無論その通りだ。その通りだとも。何もおかしなことはない。まさに君の言う通りだ。だが、君だって分かっているだろう? そうやって無謀に挑めば、人は減る。そして、経験者がどんどん減れば、さらに下の者も死ぬ。全て終わりだ」
「よく今まで運営出来てましたね」
「そこは私が優秀だったから、と言いたいが……殆どアレクシスとヴィルヘルムのお陰だ」
「なるほど」
俺は挙げられた二人の名前に頷いて、少しばかり考えていた。
確かにあの二人であればどの様な依頼でもこなせるだろう。
しかし、彼らには制約がある。
制限がある。
それは孤児院から長期間離れる事が出来ないという物だ。
それを無視すれば、おそらく今回の俺と同じことが起きる。
あの二人はアッサリと冒険者組合を捨てるだろう。
そういう地雷だ。
だから、冒険者組合長は必死なのだ。
俺を手放せば、もうどうにもならない事が分かっているから。
しかし、俺もどうすれば良いか、どうにも決めかねているのだった。