冒険者組合から呼び出しがあったとフィオナちゃんから聞き、久しぶりにセオストへと戻ってきた俺であるが。
冒険者組合長が語る話は非常に自分勝手で……しかし、そう簡単に無視できない話でもあった。
難しい話だ。
「メリットを特に感じませんね。俺がセオストに残る」
「特別手当を付けても良い!」
「組合長も分かっているんでしょう? 俺がセオストを離れようと考えた原因を」
「様々な手続きを無くしても良い! 通行証を必要としないで外へ出る事を許可できる様に掛け合うことも……!」
「組合長」
「う、うぅむ」
「俺はね。金も権利も多くは求めてないんですよ。ただ、家族と安心して、心安らかに暮らすことが出来れば、それで良いんです。だからセオストに住む家族が安全に暮らせる様にと危険な依頼だって受けます。でもね。そのセオストの人間に、裏切られたんですよ。家族を侮辱された。こうやって、静かに話をしている事だって、気遣いの一つなんですよ」
「分かっている。わかっているつもりなのだ」
「だったら……」
「しかし、それでも! それでも……! 君に出て行って貰うわけにはいかないのだ。でなければ街が死ぬ!」
はぁ。
と思わずため息を吐きたくなってしまう。
知ったことか! と突き放すのは簡単だ。
しかし、まぁ。恩があるのだ。
この世界に来て、身分も過去も何もかも分からない俺を冒険者にしてくれて……家を貸してくれた。
それは間違いなく恩であると思う。
だが、それはそれだ。
その恩を全て投げ捨てても良いと思える瞬間が、あの一瞬にはあった。
だから……俺は答えをどう出すべきか悩んでしまった。
「……わかりました」
「分かってくれたか!」
「ただ、全てを無かった事にすることは出来ません。それは組合長も分かるでしょう?」
「まぁ……な? なら、アイツに謝罪をさせれば」
「申し訳ないですけど、俺への謝罪は無意味ですし。ココちゃんと会わせる事は二度とありません」
「お、おぅ……」
「だから謝罪は不要です。求めるなら別の事ですね」
「別……? ま、まさか! アイツの首をよこせとか」
「言いませんよ!」
どんな奴だと思われているのだ。
というか、そもそも冒険者が足りないっていうから冒険者として活動するっていう話をしているのに、俺が殺してどうする。
結局冒険者が減って、俺が忙しくなるだろう。
何の意味もないではないか。
「今すぐパッとは浮かびませんけど、何かしらの落としどころはいると思ってます。俺自身、このままでは気持ちが落ち着きませんし」
「ま、まぁ。そうだろうな。そこでだ。ちょうど良い人間を呼んでおいた」
「ちょうど良い、人?」
俺が組合長に疑問を投げると、その答えがすぐに扉から入って来た。
待っていたという訳では無いだろう。
ちょうど今、来たという様な感じだ。
「おう。やってるか?」
「エルネストさん……!」
「久しいな。リョウ。ソラリアとレイシリアが寂しそうにしていたぞ。明日家に来い」
「俺の予定とか聞かないんですか?」
「ソラリアとレイシリアよりも優先する用事がこの世にあるのか?」
そんな驚いたとでも言いたげな顔で言うのはやめて欲しい。
が、まぁ、本当に駄目なら俺から言うだろうし。
下らない用事なら、こっちを優先しろ。くらいの意味なのだろう。
まぁ、アリアちゃんからも言われたし。明日は二人に会いに行くか……。
しかし、明日は明日。
今大事なのはこっちである。
「それで、エルネストさんが来たのは、どういう目的ですか?」
「知らん」
「えぇー……?」
「呼ばれたから来ただけだからな。まぁ、リョウが居ると聞いていたから、ソラリアとレイシリアの件を伝える為に来たというのが、主な目的だ」
「なるほど」
俺はどうするんだ。という様な気持ちを込めて、組合長へと視線を向けた。
組合長は先ほどよりも汗をドバドバ流しながら、隣に座ったエルネストさんへと言葉を向ける。
「あの……ですね。エルネスト様」
「うん? なんだ」
「実は色々とありまして、リョウ殿がセオストを離れると言っておりまして」
「そうなのか。なら、ソラリアとレイシリアが会いたいと言った時に呼ぶからな。連絡先は残していけ」
「えぇ!?」
「何を驚いているんだ。お前は」
「いやっ! リョウ殿が、セオストを離れると言っているんですよ!?」
「コイツは流れ者だろう。セオストで生まれたわけじゃない。他に良い土地があればそちらへ移住する。ごく当たり前の話だ」
「それはそうかもしれませんが!」
「冒険者には自由がある。危険と隣り合わせの仕事をしている以上、その行動を制限する事はご法度だ。それはお前も知っているだろう? 金銭や待遇などは当たり前の話なのだ。それは交渉材料にはならん」
「う、ぐぅ」
「そもそもリョウが離れない様に。この地に留まる様に、お前が気をつけるべきであったのだ。コヤツの戦闘力を他の国が欲しがるのは当然の事だろう。その上で対策出来なかったお前が悪い」
「……はい」
「しかし、だ。それが世界の常識であるとしても……今、お前は泣きつかれているという事か? リョウ」
「えぇ、まぁ……一応残っても良いとは言ったのですが、何かしら落としどころが必要なのではないかと今話していた所です」
「落としどころ? よく分からん事を言う奴だな。これから行く国の方が待遇が良いんじゃないのか?」
「あー。いや。そういう事では無くてですね。ちょっと、冒険者同士でトラブルがあったと言いますか」
「要領を得ない話だな。どういう事だ。詳しく話せ」
俺はとりあえず今回あった事を順番にエルネストさんへ話す事にした。
シーメル王国で事件があり、そこへ向かう為に、ココちゃんから依頼されたという形式を取る事にした事。
そして、冒険者組合へと来た際に、ココちゃんに対する激しい侮辱を受けた事。
それが平然と行われている様な場所で家族と共に暮らす事など出来ないという事。
「まぁ、我儘と言えば我儘なんですが、別に無理をしなくても良いんじゃないかと思い、引っ越しを考えて居た。という事です」
「なるほどな」
「いや、私としましては、厳重注意等を行いまして、再発防止を……!」
「要らんだろ。そんなモノ。誰も望んでない」
「え」
「リョウが妹狂いなのはセオストでも有名だ。その妹を侮辱すればどういう事になるか。その辺を歩いている子供だって分かる。その場で殺されなかっただけありがたいと思うべきだな」
「そ、それは、そうなんですが……」
「そこまで分かっているのなら話は終わりだろ。リョウはどこかの国へ行く。そして、連絡先をソラリアとレイシリアに渡しておく。以上だ」
「それでは困るんですよぉー!」
「それはお前の事情だろう。リョウの事情じゃない。だいたい、前から言っていただろう! アレクシスとヴィルヘルムに頼ったままだと、奴らが居なくなった時、どうにもならなくなるぞ! と」
「ですから……その代わりがリョウ殿でして」
「コヤツは流れ者だ! 強いままセオストに来た。それだけだ。そういう偶然に頼るなと言っているんだ! 後進を育てて! 冒険者の全体的な育成を行い! 平均的な戦闘力を上げる! そういう事をしろと言っているんだ!」
「は、ハハー。承知しております」
「ったく。しょうがない奴だ」
何故だろうか。
俺を引き留める為に始まった話し合いは、何故か冒険者組合長が説教される場へと変わってしまった。
俺はこのままここに居ても良いのだろうかと思いながら二人の……いや、エルネストさんのお説教を聞くのだった。
「お前は、そうやって現状に甘え、すぐに楽をしようとする所が駄目なのだと、何度言えば分かるんだ!」
「は、はぃ! はいぃ! 承知しておりますー!」