冒険者組合の組合長へのエルネストさんからの説教がはじまり、どれくらいの時間が経っただろうか。
思えばかなりの時間が経っている様な気がする。
気のせいでは無いのなら。
しかし、そんな状態になってもなお、お説教は終わる気配を見せず。組合長はエルネストさんにペコペコと頭を下げていた。
もしかしたら、このまま終わらないのではないか。
そう思ってしまうほどに長いお説教時間。
そんな時間を終わらせたのは、部屋の中に飛び込んできた一人の少女であった。
「もう! お爺様! いつまでお話してるのですか!? すぐに終わるって言ったじゃないですか!」
「おぉ……ソラリア。すまないな。年を取ると話が長くなってしまって」
「お爺様ったら……! あら? あららら」
エルネストさんに怒っていたソラリアお嬢様であるが、エルネストさんの反対側に俺が座っている事に気づき、笑みを浮かべながら俺に接近してくる。
何か企んでいる様ないたずらっ子の笑顔だ。
「そちらに座っているのは! セオストでとても、とてーーーも! お忙しい英雄様じゃありませんか!」
「あぁ。これはエルネスト様のお孫様のソラリア様ですね。お初にお目にかかります」
「お初じゃないでしょ! テキトーな事言わないでよ!」
「いや、ソラちゃんが最初に初対面みたいな対応したんでしょ?」
「そうだけど! そうだけど! そうじゃなくて! 私は嫌味を言ったんだよ!」
「うん。わかってるよ。だから嫌味を返したんだ。そういう遊びかと思ってね」
「もー!」
ソラリアお嬢様は大変ご立腹で叫んでおられた。
まぁ元気なことである。
しかし、まぁあんまりいじっているとお爺様から殺されてしまうからな。
適当なところにしておこう。
「ごめん。ごめん。ソラちゃんと久しぶりに話してて楽しかったからさ。ついつい意地悪しちゃったよ」
「むー」
「お話が終わったら、ソラちゃんの家に行って色々お話聞くからさ。許してほしいな」
「まー。しょうがない。許してあげるよ!」
なんとかソラリアお嬢様からの許しも貰えたため、俺は安堵の息を吐くのだった。
しかし、こう言ってしまった結果。ソラリアお嬢様がこの部屋で行われている話に興味を持つのは必然であった。
「そうと決まったら、早く行きましょ!」
「そうしたいのは山々だけど、まだ話し合いが終わってないからさ」
「えー? 何話してるの?」
「リョウがセオストを出ていくという話だ」
「へー。そうなんだ……え!? え!!?」
ソラリアお嬢様が酷く驚いた顔で俺を見上げた。
何を言っているのか理解できないという様な顔だ。
しかし、話し合っていた内容は事実であるため、俺はコクリと頷いた。
瞬間、ソラちゃんは目に涙をためて、俺にしがみついた。
「なんで!? なんで!? なんで出て行っちゃうの!? なんでー!?」
「ソラリア。リョウにも事情があるんだ」
「やだ! 出て行っちゃヤダ!」
ソラちゃんは子供の様に泣き叫ぶ。
いや、まぁ。真実子供だから子供の様に泣いているのは正しい事なのだけれど。
こうしていると罪悪感が酷い。
「よし」
そんな中、エルネストさんは大きく頷くと俺をまっすぐに見据えた。
何か酷く嫌な予感がするな。
「リョウ。セオストに残れ」
「……さっきと意見まるで違いますけど?」
「ソラリアが泣いている。それ以上の理由はないだろう?」
「まぁ、そうですね。それに関しては俺も納得ですよ」
まぁ、元々セオストに残るつもりではあったし。
実際、ソラちゃんを泣かせてまで張る意地ではないのだ。
「おぉ。ではこれで万事解決ということで」
「別に解決はしてませんよ。おれからの要求。忘れないでくださいね」
「お前の課題は何も消えていない。いつリョウが消えても良いように準備はしておけ」
「……ハイ」
そして、冒険者組合長は自分の責任を投げ捨てようとしたが、俺とエルネストさんに言われ、おとなしく頷いていた。
それから。
俺はご機嫌なソラちゃんに手を引かれ、エルネスト家へ向かっていた。
「ふんふふふ~ん」
「ご機嫌だね」
「うん! だって、久しぶりにリョウお兄ちゃんと遊ぶんだもん!」
「そうかそうか……と、言いたいところだけど。あんまり長くは居られないんだよね」
「えー! 約束が違う!」
「まぁ、わかるんだけどさ。家でココちゃんが待ってるからね」
「うーん。それじゃあしょうがない、かなぁ」
「またこの埋め合わせはするからさ。今日はごめんね」
と言って、ソラちゃんと別れようとしたのだが、俺の手をギュウと握ってソラちゃんは何かを思いついたような顔をして笑った。
その顔は、まぁ天使と言っても差支えのないものではあったのだが……。
「えーっと、ソラちゃん?」
「リョウお兄ちゃんは、家に帰らなきゃいけないんでしょ?」
「まぁ、そうだね?」
「ならさ。ならさ。ソラちゃんが一緒に家に行けばいいじゃない!」
「いやー……それはどうかな?」
主にお爺様の許可が下りますか? という点で。
と、俺はエルネストさんの方へと視線を向けた。
しかし、あの過保護なエルネストさんにしては珍しく、特に何も気にした様子は見せないまま良いんじゃないかと頷いていた。
「ただし。遅くなるのなら連絡をすること。そして、レイシリアにも行くか聞くことだ。良いね?」
「うん! もちろん!」
「ならお爺様からいうことはない。楽しんできなさい」
「はぁーい! じゃあ、レイちゃんにも聞いてくるねー!」
ソラちゃんはエルネスト家に着くや否や、すごい勢いで家の中へ走っていった。
おそらくはレイちゃんの元へ行ったのだろう。
つまり、今ここに残っているのはエルネストさんと俺だけ……ということでせっかくだから、エルネストさんにさっきの話を聞いてみる事にした。
「エルネストさん。随分と丸くなりましたね」
「何の話だ?」
「先ほどのソラちゃんのお願いですよ。以前のエルネストさんなら一も二もなく、ダメだと言っていたでしょう?」
「まぁ、確かにな」
「それが、なんで……」
「まぁ、孫の喜ぶ顔を歪めるものでもないだろう?」
「それは、まぁ……そうでしょうけど」
いや、以前のエルネストさんは孫の喜ぶ顔を歪めていただろう。
と言いたい気持ちを抑えて、ひとまず同意する。
「それに……だ。お前のところならば良いかと思ってな。妙なところへ行かれるくらいなら……」
「エルネストさん。そんなに俺のことを信用して……」
「あぁ。お前は多くの少女を、妹として集めているのだろう? ならば、監視の目は多いだろうし。妙なことは起こらないだろうという考えだ」
まるで! 信用なんかされていなかった!!
単純に、男女比率で女の子の方が多いから、何も起こらないだろう。程度の考えだった!
少し嬉しい気持ちになったのに、損した気分だ!
「だが……ソラリアにケガでもさせてみろ。お前の首から上が無くなると思え」
「はいはい。分かってますよ。いつものですね」
俺は半ば投げやりになりながら頷いた。
そして、少しやさぐれた気持ちになりつつも、ソラちゃんとレイちゃんの到着を待つ。
「まぁ、こんな事を言っているがな。お前のことを信頼しているのは本当だ」
「……エルネストさん」
何だかんだ素直じゃないだけか。
俺はエルネストさんへと再び信頼の気持ちを高め……走ってきたレイちゃんとソラちゃんを受け止める。
「良いな!? お前を信用して預けるのだからな!? 分かっているな!? 信用しているのだぞ!?」
「その反応はまるで信用していない人の言葉ですよ」
俺は何も変わっていないエルネストさんに安心半分、悲しみ半分で言葉を返すのだった。