アリア様から突っ込まれた騎士の皆さんへの指導、戦闘訓練について。
ようやく思い出した俺は、これを何とか回避するべく思考を巡らせ、一つの完璧な作戦を思いついた。
それは、アレクさんやヴィルさんに、俺の代わりに彼らの指導をしてもらうというモノである。
「というワケで、どうでしょうか? シーメル王国での騎士の皆さんへの戦闘指導の仕事などは」
「どうでしょうか、と言われてもな」
「シーメル王国はそれなりに遠いから難しいんじゃないか? 日帰りという訳にはいかないだろう?」
「それは勿論考えていますよ。そこで、とても画期的な案を思いついたんです」
「画期的な案?」
「とりあえずそれを説明したいので、ウチに来てもらっても良いですか?」
「「……?」」
俺はひとまずヴィルさんとアレクさんを家に招待し、転移装置でシーメル王国の家へと転移した。
二人は何が起きたのか一瞬で理解し、家の外へ飛び出して声を上げるのだった。
「まさか、リョウ。お前、とんでもないことをやったな」
「まぁ、確かにこれなら条件は問題ないだろうけど……国同士の問題になるのは困るんだけどな」
「そこは大丈夫です。シーメル王国の女王アリア様と、セオストのエドワルド・エルネストさんは存じていますから」
「爺さん……ソラリアとレイシリアに負けたか」
「まさか新女王陛下も知っているとは……ちょっとした間に人脈を広げていくな。リョウは」
「まぁまぁ。色々と幸運が重なりまして」
俺は二人にへへへと笑いながら、ついでにダメ押しの一つを提示することにした。
見せるのは当然地下二階の施設である。
「ほぉー。なかなか面白いもの作ったじゃねぇか」
「なるほど。地下に子供用の遊び場を作ったのか」
しかし、思っていたよりも驚きはなく、逆に俺が驚いてしまうのだった。
「あれ? なんか反応薄いですけど」
「そりゃそうだろ」
「リョウの妹が絡んだ時の行動力を考えれば、この程度は驚く内に入らないよ」
ヴィルさんとアレクさんは当たり前のことを言うように苦笑しながら俺にそんな事をいって、「ここを見せたって事は子供たちを連れてきても良いんだな?」なんて言うのであった。
まぁ、大歓迎なワケだけれども。
「では、交渉は成立という事で良いですかね?」
「そりゃ俺らは構わねぇけどよ。お前にどんな利益があるんだよ」
「まぁ、利益というほどのものは無いんですけど。これで冒険が出来るなぁと思いまして」
「冒険ねぇ」
「今度はどこに行くつもりなんだ?」
「うーん。次はフィオナちゃんと西の方へ行こうかなと考えてますね」
「ほぅ。西の方か。何か当てはあるのか?」
「今のところは無いですね。ただ、フィオナちゃんと冒険者らしい仕事をしようかと思ってまして」
「なら……ちょうど良い依頼があるが、受けるか?」
「どんな依頼でしょうか?」
「荷物運びの依頼だよ。かなり払いが良くてな。俺たちもよく受けてるんだが……長期でセオストを離れるからあんまり受けたくはねぇんだ。それに新しい稼ぎ口はリョウから教えてもらったしな」
「なるほど。依頼交換みたいな感じですね」
「そういう事だ。一応冒険者組合の方には話を通しておくからな。適当なところで組合に行ってくれ」
「分かりました」
というワケで、無事ヴィルさんとアレクさんに役目をお願いした俺は早速報告をアリアちゃんにして、オーウェンさんにも事情を話した。
オーウェンさんはヴィルさんとアレクさんに教えて貰えるのならば、と大喜びで、快く頷いてくれた。
まぁ、俺もたまには顔を出せと言われてしまったが。
そんなこんなで、シーメル王国に長くとどまる理由が無くなったので、俺は久しぶりの冒険に向かうべくフィオナちゃんに話しかける。
「フィオナちゃん!」
「はいー? どうしちゃったんですかー? リョウさん。そんなにご機嫌で。何か良い事でも?」
「うん。とても良いことがあったよ。フィオナちゃん。冒険の時間だ」
「……はい?」
「年越しの時に言っていただろう? フィオナちゃんに冒険者とは何か教えて貰うって。その機会がようやく来たよ。って話」
「えぇー!? あれ、本気だったのぉー!?」
「当たり前でしょ。俺は冒険者としての知識を付けたいんだよ」
「いやいやいやいや。ムリムリムリムリ」
「そんなに激しく拒絶しなくても良いんじゃないかね?」
「だってぇ。リョウさんと一緒の依頼なんて受けたら死んじゃうもん! ドラゴンと戦ったりするんでしょ!?」
「しないしない。今回の依頼はセオストから西の国に荷物を運ぶだけの依頼だから」
「そんなのポータルで送れば良いじゃない!」
「そういうワケにはいかない理由があるんでしょ?」
「うぅ……」
「それに、困った人の悩みを解決することも大事だし。冒険者として成長するのも大事なんじゃない?」
「それは、そうだけどぉ」
フィオナちゃんは心のそこから無理だーという顔でショボンとしていた。
そんな顔をされても困ってしまうワケなのだが……はてさて、どうしたものかな。
本当に嫌なら連れて行くのはどうかと思うんだけど。
一応、フィオナちゃんに聞いてみるか。
「まぁ、フィオナちゃんがどうしても嫌だって言うなら無理には言わないよ。悲しませたいワケでも苦しませたいワケでも無いからね」
「うっ……!」
「俺はあくまでフィオナちゃんと一緒に冒険がしたいだけだからさ」
「うぅっ……!」
フィオナちゃんは頭を抱えながら苦しみ、苦しんで……苦しんだ結果、一つの答えを出した。
それは……。
「分かりました。一緒に行きますよ」
「おぉ。それはありがたいね」
「ただし! 他の人はどうするの?」
「どうする、と言われても?」
「えぇー? まさか、まさかまさか、二人で行くつもりー!?」
「まぁ、大した依頼じゃないし。それも良いかなとは思ってるけど」
「じゃ、じゃあ! 私と結婚したいってこと!? ですか!?」
「なんで、そうなった」
フィオナちゃんがだって! だって! と騒いでいるのを見ながら、どういう流れなんだ? と俺は首を傾げた。
一緒に旅をする。というのは前にやったし。
俺が女の子だからとすぐに手を出す人間でないことは一緒に暮らしていて、分かっているはずだ。
いや、二人きりになることで手を出すと思われているのだろうか?
そうであるのならば、ひどく心外な話なのだけれども。
「フィオナちゃん?」
「ひゃい!? も、もう手を出すつもり……?」
「出さない。出さない。フィオナちゃんは妹みたいな子なんだから、手なんか出すわけ無いでしょ」
「それは私に魅力がないってことですかね?」
「どうしてそう極端から極端に走るのかな?」
「だってー! リリィには手を出したんでしょー!?」
「出してないよ!」
とんでもない誤解だ。
思わず大きな声を出してしまった。
いや、しかし、この様な誤解を放置することは出来ないし。
致し方無い事であると思う。
「だいたい。誰から聞いたの。そんな話」
「そんなの! リリィからに決まってるじゃない! 言ってたよ! もうリョウさんのところにお嫁に行くしかないって!」
「……それは、本当になんでって話だけど」
「リリィの裸見たんでしょ?」
「……まぁ、裸は、見たね」
「だからじゃない! そうやって無害なフリして私の裸も覗くんだ! そして、結婚するしか無くなるんだ!」
「誤解を招くような言い方は止めてくれ! それに、別に裸を見られたからって無理に結婚する事は無いよ?」
「責任すら取らないつもり!?」
「うーん。非常に難しい問答を今やっている気がするな」
俺は頭を抱えながらなんと返せばこの誤解は解けるのか考える。
考え、考えるが……今一つ良いアイディアは浮かばないのであった。
なれば、一つ一つ丁寧に話すしかあるまい。
俺はそう覚悟を決めて、フィオナちゃんに向き合うのだった。