フィオナちゃんと二人きりの依頼を受けて、俺たちはセオストから旅に出た。
が、特にこれといった事件や魔物襲来などは無く、順調に道中の国々を超えて、シーメル王国、スタンロイツ帝国、リメディア王国と各国を超えて先へと進み続けていた。
「んー。順調だねぇ。今日も平和な朝が来た」
「本当だね。……って事は、本当にデパルダム王国の王様の浮気のお手伝いなんだ」
「まだ分からないでしょ。って」
テントからノソノソと外に出て、朝日を受けてグッと背伸びをしてから、フィオナちゃんは気分が下がったとでもいうように項垂れてしまう。
まぁ、気持ちは分かるけれども。
しかし、実際の所どういう気持ちで依頼主がこの依頼を出したか分からない以上、勝手な推測をしても仕方ないだろうとは思う。
「デパルダム王国まであと、どれくらいだっけ?」
「地図で見る感じだと後五日って感じだね。特に何も無ければだけど」
「んー。後五日で、浮気王の顔を見なきゃいけないのか……憂鬱だなぁ」
「まぁまぁ」
「ハァー」
明らかに落ち込んでいるフィオナちゃんに、俺はどうにか気持ちを取り戻して貰おうと色々な言葉を尽くした。
「確かに王様の考えはまだ分からないけどさ。ほら。良い事もあったじゃない」
「いいこと~?」
「ドラゴン。襲ってこなかったでしょ? 結構長い日数旅してたけどさ」
「まぁ、確かに」
「やっぱりドラゴンは珍しい生き物で、滅多に姿を見せないって事なんだよ。それに良いドラゴンも居る事は分かったし。悪いドラゴンに襲われる事なんて、殆ど無いんじゃないかなぁ」
「んー。確かに。その話はそうだよねー」
「そうそう。嫌な事ばかりじゃないんだよ」
「確かにね。リョウさんとの二人旅も何だかんだ楽しいし」
「そりゃ良かった」
俺はホッと胸を撫でおろしながらテントを畳み始め、フィオナちゃんは自然と朝食の準備を始めた。
この辺りの街道は、魔物の気配など殆ど無いが、馬車がかなりの勢いで走っている場所である。
その為、街道から外れた場所にテントを張り、たき火などをしているのだが……。
たき火を付けたまま寝てしまうと、周囲の草や木に延焼する可能性が高い為、朝起きてから火をつけなくてはいけないのだ。
こういう知識もフィオナちゃんとの旅で得た物だから、やはり冒険者としての知識がまだまだ足りないなと思う。
そして、俺がすぐにまた歩き出せる様に準備を終わらせる頃には朝食も出来上がっており、俺の皿にフィオナちゃんが盛り付けてくれていた。
「はい。リョウさん」
「ありがとう。いつもすまないねぇ」
「全然。荷物はリョウさんの方がいっぱい持ってくれてるし。夜にはシャワーも用意してくれるし。テントも用意してくれるしね。変な人も追い払ってくれるし。むしろ私の方が足りないくらいじゃない?」
「俺も大した事はしてないよ。俺は戦闘力と力仕事担当だからね。このくらいはやらなきゃ美味い飯を食べる資格はないんだ」
「まー。リョウさんがそれで良いのなら良いけどさ」
「しかし……」
と言葉を区切ってから俺は周囲をチラリと見渡した。
今はどこにも気配を感じないが、夜になると現れる存在。
アイツの事をどうしようかなと思考する。
「どうしたの?」
「いや、例の不審者。どうしたもんかなーと思ってさ。殺しちゃ駄目なんでしょ?」
「流石にね? こっちも殺されそうだった。とかだったら何とか許されるかもしれないけど、そこまでの事態じゃないから」
「でも、襲われてたかもしれないんだよ?」
「まぁ、私にしては大問題だけど、リョウさんが追い払ってくれたし。リョウさんがそこまで怒る話でも無いんじゃないの?」
「妹の危機に、怒らずして何が兄か」
「へぇへぇ。それはそれは、ありがたいお兄ちゃんですこと」
はぁとため息を吐きながら、フィオナちゃんはジト目で俺を見る。
いや、そんな呆れた様な顔をしなくても良いんじゃないかと思うんだけどね?
「何かご不満でもありますかね? フィオナちゃん」
「そりゃご不満はありますよ? 私、これでも見た目にはそれなりに自信があるんだよね。食堂でもそれなりに声も掛けられるし、デートに誘われた数なんて数えきれない程あるの」
「うん。だろうね。フィオナちゃんは可愛いし。分かるよ」
「そう。可愛いんだよ。可愛いのにさ。リョウさんはホント―に! 手を出さないじゃん? リリィには出したのに」
「出して無いからね」
「リリィも可愛いけど、私だって同じくらい可愛いと思ってたのに、この差は何だろうって考えちゃうんだよね」
「だから、出して無いからね。フィオナちゃんにもリリィちゃんにも。同じ」
「ねぇ、リョウさん! 私って魅力ない?」
「魅力はいっぱいあると思うけど」
「じゃあ何で手を出さないの!?」
「妹に手を出す兄は居ないんだよ」
「……」
フィオナちゃんはジト―っとした目を俺に向け、やや大きな声を出しながらため息を吐いた。
そして、呆れたような顔でもう一度ため息。
ここで、ため息は幸せが逃げるよ。なんて言ったら殴られそうな雰囲気である。
「フィオナちゃんは俺に手を出して欲しいの?」
「んー。悩む」
「悩むんだ」
「だって、リョウさんは多分責任を取ってくれるし。そしたら、リリィともずっと一緒に居られるじゃない?」
「……色々と気になる所はあるけれど。フィオナちゃんはリリィちゃんとずっと一緒に居たいの?」
「まぁ。ずっと一緒に居た仲間だし。親友だし。姉妹みたいに思ってるんだ」
「うん」
「だから、何となく離れがたいというか……いや、ほら。リリィってさ。しっかりしている様に見えて、実は結構抜けてるんだよ」
「まぁ、そうだねぇ」
「だから私が気にしてあげなきゃって……いや、リョウさんが幸せにしてくれるならそれが一番なんだろうけど……でも、そうなると私はなんか独りぼっちで寂しいし」
「うーん。難しい話だねぇ」
「だからさ。リョウさんのところに二人で行けば良いんじゃない? って思ったんだよ」
「別に無理して俺と付き合わなくても、妹として家に居れば良いんじゃないの?」
「それはそうだけどー。リョウさんが誰かと結婚したら、それも難しいじゃない?」
「それはまぁ……確かにね」
俺はふむと考えながら誰かと結婚した未来について思考する。
確かに結婚した後、他の女の子と同居している生活というのは難しいだろう。
相手の人も嫌がるだろうし。
妹だと言い張っても血は繋がっていないのだから。
しかし、それならそれで、その時にフィオナちゃん達も誰かと結婚し幸せになれば良いんじゃないか?
いや、でも焦って結婚しても失敗してしまったら大変だし。
んー。
悩ましい話だ。
「悩んでるの?」
「そうだねぇ。中々に悩ましい話だねぇ」
「私とリリィどっちを先に選ぶかって?」
「その未来は別に考えてないねぇ」
「ちぇー。強情だなぁ」
「そりゃそうだよ。家族には幸せになって欲しいからね」
「リョウさんと結婚するのが幸せなんだって言われたら?」
「違うよ。って返すんじゃないかな?」
「でもみんな、リョウさん以外の人を選ぶのは難しいんじゃない? 格好良くて優しくて、いつも甘やかしててさ。とんでもなく強いし、頼りになる。こんな人、他にいる?」
「俺はあくまで兄だからね。運命の人というのはどこかに居る物だと思うよ」
「そんな……どこかに居る格好いい王子様と結ばれる事を夢見てる女の子じゃあるまいし」
「夢はいつか叶う物さ。希望を捨ててはいけない」
「リョウさんは早く現実を見た方がいいと思うけどね。時間が過ぎれば過ぎるほど手遅れになるよ」
グサリと強い言葉が刺さり、俺はうーむと唸ってしまった。
実際、どうしたものか……。
非常に悩ましい問題だ。
俺はフィオナちゃんが作ってくれたスープを飲みながら考えるのだった。