異界冒険譚   作:とーふ@毎日なんか書いてる

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第372話『フィオナちゃんと二人旅(極秘依頼)4』

 フィオナちゃんにグサリと刺された言葉について考えて、考えて、考えていたが、特に良い案も浮かばず、俺は大人しく旅の続きを始める事にした。

 一定時間悩んで答えが出ないのであれば、現状の状態で悩んでも答えが出ない問題だからだ。

 仕方がない事もある。

 

 そして、歩きながらフィオナちゃんと色々な話をして、頭の片隅で考え続けたが……やはり答えは出なかった。

 妹たちに幸せになって欲しいというのは本当だ。

 間違いない。

 

 しかし、俺を求められても困ってしまうのは……俺が俺という人間をあまり信用していないからというのもあるのかもしれない。

 俺は弱い人間なのだ。

 

 未だ過去の事を振り切れずにいるし、俺に出来る事はそれほど多くはない。

 唯一自信がある戦いだって勝てない人はいくらでも居る。

 

 俺はそう大した人間では無いのだ。

 だからこそ、彼女たちが俺を選ぶというのが、選択肢が無いからそうしている様にしか思えない。

 もっと優れた人間がいれば……と思う気持ちは消えないのだ。

 

「じゃあ、先にお風呂入っちゃうね」

「あぁ。俺はここで見張ってるよ」

「うん。ありがとうー」

 

 リリィちゃんとの旅で得た携帯用お風呂で、フィオナちゃんがお風呂に入っている間。俺は不埒者が現れない様に、風呂を背にしながら見張る。

 リメディア王国を超えた辺りから、街道に変質者が出るようになったからだ。

 

 フィオナちゃんの入浴を覗こうとする輩が居る。

 しかも、おそらくは同一犯だ。

 いっそ命を奪えれば事件解決も早いのだが……フィオナちゃんは良くないと言っていた為、俺は大人しく撃退するだけで止めていた。

 

 そして今夜もまた、闇に紛れてどこからか近づいてくる気配がある。

 足音はしないが、気配は消えていないから容易くその気配を追う事が出来る。

 

「……」

 

 俺は侵入者がテントの近くを通過する際に、気配を殺しながら一瞬でソイツの背後に移動して、抜いておいた神刀をソイツの首に突きつけた。

 

「動くな。動けば殺す」

「っ!!?」

 

 驚き固まっている姿に、俺は何の感慨もなく、感情も抑え込んで、淡々と告げた。

 

「去れ。フィオナちゃんはお前を殺すなと言っていた。だから殺しはしない。失せろ」

「……フィオナちゃん? 今風呂に入っている奴の名前か?」

「そうだ。だが、彼女を何かに利用しようとしても」

「アンタはあの女の、従者じゃないのか?」

「従者? いや、俺はただの冒険者だ」

「あの女は、あの女も冒険者なのか!?」

「あ、あぁ……そうだが……」

 

「なら!」

 

 俺は暗闇から聞こえてくる声に、少しだけ違和感を覚えながら言葉をかわす。

 しかし、何だろうか。この声は……まるで幼い子供の様な声だが……覗きの変質者じゃないのか?

 

「お願いです! アタシにも風呂を貸して下さい!」

 

 そして、暗闇から俺の方に飛び出してきた『少女』に俺は目を見開いた。

 浮浪者というワケでは無いだろうが、ボロボロの服にボサボサの髪。

 風呂を求めているだけあって、見た目はかなり汚れている。

 しかも……

 

 ぐぅううう

 

 というお腹からの声も聞こえてきて、俺は深くため息を吐きながら神刀を納刀した。

 

「風呂を貸すのは良いけど。フィオナちゃんが出てからだ。それで良いか?」

「勿論です!」

 

 少女は地面に座りながら頭を下げていたが、俺の言葉に喜び飛び上がっていた。

 そして、フィオナちゃんがお風呂を出てからそれとなく事情を伝え、風呂を少女に貸してやる。

 

 少女は風呂に鼻歌を歌いながら入っており、俺はその声を聴きながらフィオナちゃんに話しかけるのだった。

 

「どういう子なんだろうね」

「またリョウさんがどこかで引っかけて来たんじゃないの?」

「止めてね。そんな事無いから」

「でも、突然こんな道の真ん中でお風呂を貸してなんて、普通はあり得ないんじゃない?」

「それはそうだけど……でも、実際に起きてるじゃない?」

「分かんないじゃん。お風呂を貸して欲しいっていうのは口実かもよ?」

「そんな口実ある? 意味が分からないでしょ」

「だってー。あぁいう可哀想な子。リョウさんは放っておけないでしょ?」

「それはまぁ……確かに」

「なら、そうやって道場して貰う事が目的なんじゃない?」

「……そうなると、本当の目的はこれから、かな?」

「かもね」

 

 どこかそっけない感じでフィオナちゃんは応えてくれ、言葉と同時に料理も作ってくれていた。

 何だかんだ優しい良い子である。

 

「あ、あのー」

「うん? あぁ、お風呂出たんだね。どうだった?」

「あ、はい! とても気持ち良かったです!! じゃなかった! ありがとうございました! この御恩は忘れません!」

「いや、そんな大層な事でも無いから」

「いえ! この恩返しに、貧相な体ではありますが、アタシの体でお礼を……!」

 

 何と言う事だろうか!

 風呂を貸して欲しいというから、風呂を貸したら、恩を仇で返そうとするとは!

 

 女の子がとんでもない事を口にした瞬間、フィオナちゃんの目がキッと鋭くなった。

 言葉には出ていないが、やっぱりお前が呼びこんだんじゃないのか? と言っているような気配がある。

 勘弁してくれ。

 

「いや、そういうのは良いから」

「しかし、アタシは金銭を持っておらず、何もお礼は出来ないので」

「いや、礼とか良いから。本当に恩に感じているのなら、もうこれ以上余計な事は言わないで欲しいんだ」

 

 俺はフィオナちゃんからの刺さる様な視線を受けながら、必死に女の子へと想いを向けた。

 君が俺に向けられた刺客では無いのなら、これ以上の発言は止めてくれと。

 

 しかし、女の子は妙な勘違いをしたのか、フィオナちゃんを見てからあぁ、と納得した様な声を出した。

 

「大丈夫ですよ! 自分は体を売る仕事をしているので、恋人になってくれとか! そういう事は一切ありません! 金銭だけの関係なので!」

「へー」

「違うからね。フィオナちゃん」

「私、まだ何も言ってませんけど」

「目がね。凄い喋ってるからさ」

「そうですか? 気づきませんでした」

 

 静かな怒りに震えているフィオナちゃんに、このままでは駄目かと俺は女の子に詳しい事情を聞く事にした。

 まずは俺の無罪を確定させなくてはいけないと。

 

「あー。まぁ、なんだ。とりあえずご飯でも食べなよ。それから君の話を聞かせてほしい」

「アタシのですか? それは構いませんけど、面白い話では無いですよ?」

「良いよ。少なくとも俺が無実だと証明されるのであれば、どんな話でも大歓迎だ」

「……? では、何から話しましょうか?」

「まずは、風呂を貸して欲しいって言った理由から聞きたいかな」

「はい」

 

 女の子へと食事を渡し、俺は祈る様な気持ちで女の子に意識を向けた。

 ジーっと刺すような視線を向けてくるフィオナちゃんから逃れるように。

 

「まず、アタシはミリーっていうんですけど。街道を進んだ先にある『アルルンネ帝国』っていう国の生まれです」

「アルルンネ帝国、ね」

「はい。それで、戦争で親が死んでからは、娼館で体を売って生活をしてまして」

「ふむふむ」

「ちょうどこの街道で客を買ってたんですね。でも、中々客が見つからなくて……、しかも体が汚れてきてしまって、このままじゃ商売にならないので、お風呂を街道で使っていたお兄さんに声をかけたというワケなんです」

「国に戻ればお風呂に入れるって事は無いの?」

「それは……出来ますけど、通行料が払えないと中には入れませんし。門番はアタシたちが金なしで近づいたから、いい獲物だって、無茶苦茶な事ばっかり要求してきますからね。それで死んだ子もいますし」

「……近くに川があるけど」

「無理無理! 無茶言わないで下さいよ! アタシたちは冒険者の皆さんみたいに強くはないですから。魔物が出てきたらおしまいです。だから、もう最後はお願いするしかないんですけど……昨日まではお兄さんに追い返されちゃって、今日はもう我慢できなくて」

 

 俺は女の子の事情を聴いて、はぁと深いため息を吐いた。

 たき火を挟んだ向こう側に居るフィオナちゃんも俺への怒りは消して、女の子を見ながら難しい顔をしている。

 

 そんな姿を見ながら、どうしたものかなと俺は考えるのだった。

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