アルルンネ帝国に付いてすぐ、俺は城門を守護する騎士に刃を向けられていた。
俺が何かをやったわけじゃない。
ただ、フィオナちゃんが可愛くて、ミリーちゃんがそういう仕事をしていたからだろう。
騎士たちは俺から彼女たちを奪う為に戦いを仕掛けてきたのだ。
何ともまぁ、本能で生きているというか、なんというか。
「まぁ、このまま大人しく来た道を戻るのなら見逃してやってもいいぜ?」
「俺たちは優しいからなぁ」
「一つ質問なんだが」
「なんだ? どうやって殺されるかが気になるか?」
「あんた達を殺した場合、俺は罪に問われるのか?」
「ギャハハハ! なんだ、お前。俺たちに勝つつもりかよ!」
「しかも殺した場合? ギャハハハ最低ランクの冒険者が粋がってんじゃねぇぞ!」
「どうやら質問には答えてもらえない様だな。……まぁ、良いか」
俺は神刀を片手で持ちながら、無造作に騎士たちへと近づく。
そして、騎士たちが俺へと剣を振り下ろしたのを確認して、まずは剣の根元を両断するのだった。
「っ! ……ん? なんだぁ? なんだっ!?」
「お、俺の剣が!」
「もう一度質問するんだが、お前たちの剣と同じ様に、お前たちの首が落ちた場合……俺は何かしらの罪に問われるのか?」
「ひっ、お、お前がやったのか?」
「他に誰が居るんだ?」
「っ! ば、ばけもの……!」
「質問に答えてほしいんだが? お前たちは他国の冒険者に剣を向けた。つまり、死んでも良いって事なんだよな?」
俺は二人に神刀を向けながら問いかける……が特に返事は無いため、再び神刀をふるった。
今度は男たちが付けている兜を斬る。
「聞こえなかったのか? って、気絶しちゃったみたいだな」
「もう! リョウさんやり過ぎ!」
「ごめんごめん。妹に手を出されるとついね」
「ついで人殺しをされても困るんだけど?」
「まだ殺してないから。セーフ」
「お、お兄さん」
「うん? あぁ、ミリーちゃん。大丈夫だった? 怖くはなかったかな?」
「は、はい! お兄さん、凄く強いんですね!」
「どうかな。俺はまだまだだよ。世界には俺よりも強い人がいっぱいいるからね」
俺はミリーちゃんに微笑んで、そのままミリーちゃんとフィオナちゃんと共にアルルンネ帝国へと足を踏み入れた。
城門で騒ぎを起こしてしまったが、街の住人は特に気にした様子も見せず、平然と歩いている。
もしかしたら、こういう事が日常なのかもしれないな。
なんて俺は考えながらミリーちゃんの後ろに付いて歩くのだった。
しかし、雰囲気的には不法入国っぽくもあるので、何かあったらジーナちゃんに助けて貰おう。と心の中で決めた。
そして、一応周囲を警戒しながらミリーちゃんの案内に従って町の奥へと進んでいった。
いくらか大通りを歩いて、路地裏へと入り、さらに奥へと進み、いくつかの曲がり角を曲がって、小さな集合住宅の一つにたどり着いた。
「ここです! お兄さん!」
「なるほど」
ミリーちゃんが案内した家はお世辞にも良い家とは言えない場所であり、いくらミリーちゃんが子供とはいえ、住むのは少々狭い家だった。
だが、そういう言葉は口に出さず、俺はフィオナちゃんと共に家の中に入った。
「ただいま! パメラ!」
「お姉ちゃん……なんでこんなに遅く……って、後ろの人たちは!?」
「あぁ、紹介するね。私たちにお仕事をくれるんだって」
「お仕事って……何を企んでいるんですか!? お姉ちゃんを騙して!」
ミリーちゃんの後ろに付いて家の中に顔を出したら、おそらくはミリーちゃんの妹さんと思われる子に怒鳴られてしまった。
まぁ、どう考えても怪しいからな。
それはそうなんだけど。
しかし、引き受けると約束した以上、ここで「はい。そうですか」と撤退するワケにもいかないのだ。
「別に騙しているつもりはないよ」
「では何が目的なのですか。私たちはただ静かに暮らしたいだけなのに! どうして、私たちを、ゴホッ、ゴホッ」
「ぱ、パメラ。無理しちゃ駄目だよ。ほら、お薬飲んで」
「この程度は大丈夫だよ……! それよりも、この人たちを追い返す方が、先なんだ」
「駄目だよ。お兄さん達は私たちを救ってくれるんだから」
「また、そうやって、騙されて!」
小さな部屋の一番奥に置かれた小さなベッドの上で寝ていたミリーちゃんよりも小さな少女はミリーちゃんに抑えられながら、立ち上がる。
病気か、体が弱いのか。
ふらふらとしているが、目だけはギラギラと輝いて俺をまっすぐに見据えていた。
良い目だ。
自分の信念を真っすぐに見つめて、信じている。
そして、どの様な相手にも決して屈しないという強い意志が込められた輝く様な美しい瞳である。
「どうして騙していると言い切れる?」
「……っ! メリットが無い!」
「君たちを助けるメリットが無い? 本当に? 無いと言い切れるのかい?」
「……何が、あるというのですか!」
目に迷いが混じった。
それは、彼女がまだ子供だからか。
まだ夢を信じていたいからか。
感情の根は分からないが、でも口ほど世界を排除したいワケではない事は分かる。
もし、本気で騙すのなら、ミリーちゃんよりも騙しやすいかななんて思ってしまう。
まぁ、騙すつもりは欠片も無いのだけれども。
「少しだけ拍子抜けだな」
「っ! 何が、ですか」
「君はミリーちゃんよりも頭が良いと聞いていたんだけど。どうやら頭だけみたいだね。お姉ちゃんの方がよっぽど人を見る目があるよ」
「当たり前です! お姉ちゃんは凄いんですから!」
「……それは、納得するんだ」
「私が、今日までこうして生きている事が出来たのはお姉ちゃんのおかげです! そのお姉ちゃんを凄いと思うのは当然じゃないですか」
「なるほど。確かにね。しかし、そうであるならば、お姉ちゃんの勘を信じてみるべきじゃないのか?」
「それは……!」
「それとも。お姉ちゃんを救うのが自分じゃなくて悔しい、かな?」
「っ!」
パメラちゃんの頬が朱色に染まった。
そして、ハッと息を吸い込んで、言葉を吐き出せずに、苦しそうにもがいた。
少し突きすぎたかと内心で反省していた俺に、後ろからドスッと拳が軽く刺さる。
犯人は考えるまでもなくフィオナちゃんである。
「やり過ぎだよ。リョウさん」
「ごめん。ごめん。ちょっと面白い子を見つけちゃったから」
「まったく。時々、子供みたいな事をするよね。リョウさんって」
「いやー。申し訳ない」
ぶつぶつと文句を言うフィオナちゃんに軽く謝って、前に出ようとするフィオナちゃんに道を譲った。
そして、俺はフィオナちゃんの後ろから三人の会話を見守る。
「あ、貴女は」
「私は、フィオナ。セオストっていう町の冒険者ですよ」
「冒険者……?」
「そう。そして、この意地悪なお兄さんの妹って事になってるの」
「いもうと……?」
「血は繋がってないけどね。このお兄さんは小さな女の子を集めて、自分の妹にするのが趣味なの」
「……いや、そんな趣味を持った覚えは無いんだけど」
「良いから。黙ってて」
とんでもない話が進行していた為、俺は口を挟んだのだが、フィオナちゃんに黙っていてと家の外へ押し出されてしまった。
なんてこったである。
「だから、貴女の聞きたかったメリットについて話してあげるね? このお兄さんは貴女のお姉さんを気に入ったんだ。妹にしたいって考えたの」
「なに、それ……意味がわからない」
「だよね。私も」
フィオナちゃんは困惑するパメラちゃんにクスリと微笑んだ。
そして、柔らかい言葉を二人に向ける。
「でもさ。リョウさんは本気なんだよ。本気で貴女達を救いたいって考えてる。本当の妹みたいに甘やかして、幸せって笑って欲しいって考えてるの」
「なんで……」
「さぁ。私も分からない。けど、分かりやすいんじゃないかな? 貴女が理想の妹を演じられたら、きっと貴女のお姉さんは、何も不自由なく、お姫様みたいな生活が出来る」
「……」
「まぁ、何を選んでも良いんだよ。選ぶのは貴女だから」
「選ぶのは、私たち」
「そう。私たちはただ、道を提示しに来ただけ。ね? リョウさん」
「あぁ」
全て言われてしまったなと思いながら俺は頷く。
そして、俺たちを迷った目で見ながら悩んでいる少女を見据えるのだった。