ミリーちゃんとパメラちゃんにお話をしに来たのだが。
おそらくはミリーちゃんと同じ様な仕事をしているお姉さんに俺が怪しいと疑われてしまった。
しかも、魔術で攻撃を仕掛けてきたのだ。
無論、俺はその程度の攻撃でどうにかなる事は無いのだけれど……。
ここまで過剰な防衛を行うというのは、彼女たちの置かれている状況を察するに余りあるという様なところだろうか。
俺の想像以上に最悪な国なのかもしれない。
「とりあえず、お話から始めても良いでしょうか。こちらも敵対したいワケじゃないので」
「えぇ」
ミリーちゃんのお部屋……は、少々狭いため、ドロシーさんというお姉さんの部屋に向かって、俺はドロシーさん達に事情を話す事にした。
「ミリーちゃんに出会ったのは偶然だったんですよ。街道で寝泊まりをしていたところに、お風呂を貸してほしいと言ってきまして」
「……ミリー」
「だ、だって……! もう限界だったんだよぉ。体も汚れちゃって、お仕事が出来ないし。でもお金が無いから帝都にも戻れないし」
「だから危ないから外に出るなって言ったでしょう?」
「ホント、ホント」
「姉さんの忠告を聞かないから」
「でも……! 外なら旅人がいっぱいいるし。お金もいっぱい手に入ると思って……」
「ミリー、単純」
「前にも、貴族の家に行ってひどい目にあったんじゃないの!? お姉ちゃん!」
「う、うぅ……ゴメンナサイ」
他の女の子達から責められて、ミリーちゃんはシュンとなってしまった。
妹が悲しんでいるというのは色々と気になる状態ではあるが……彼女はまだ妹ではない。
自重しなくてはなるまい。
「まぁ、結果としてミリーちゃんと出会う事が出来たから、俺はそこまでミリーちゃんを責める気は無いよ」
「お兄さん……!」
「まぁ、あまり褒められた行動じゃないっていうのは、同意だけどね」
「えぇー!? お兄さん!?」
そんな……信じてたのに。
みたいな反応をされても困るんだけど。
まぁ、良いか。
「そして、ミリーちゃんと出会ってから色々と事情を聴いてね。妹の様なミリーちゃんを保護しようかと思ったわけだ」
「……あら? 私、今、少し気絶してたかしら? 話が突然飛んだ様な?」
「姉さんも? アタシも、なんかとんだ様な?」
「混乱するあなた達の気持ちはわかります。しかし、リョウさんはこういう人なんです。妹みたいに思っている人には何かしないと気が済まないというか。何かしたがるというか」
「でも、ミリーはお兄さんの妹というワケでは……?」
「それはそうなんですけど。リョウさんにはあまり関係ないんですよ。妹っぽいなと思ったら、妹なんですよ」
フィオナちゃんが、衝撃的な事実を告げる様にドロシーさんたちへと伝えた。
そして、ドロシーさん達も驚きが隠せないという様な顔で俺を見やる。
うーん。
言い方が悪いんじゃなかろうか。
いや、フィオナちゃんが悪いわけでは無いのだけれども。
「なんか色々と誤解がありそうだから、言い訳をしたいんだけど」
「別にしても良いとは思うけど、この人たちが納得するかは別の話じゃない?」
「納得って……そんなに納得出来ないところあった?」
「あるでしょ。話が凄い方向に飛んで行ったじゃない」
「とんだ……?」
「自覚が無いのは本当に重症だと思うよ」
フィオナちゃんは哀れな物を見る様な目で俺を見やった。
が、ここで折れてしまえば、本当に哀れな生き物になってしまう為、俺はそんな事は無いよ。という意志を瞳に込めて、フィオナちゃんへと返す。
それから、俺とフィオナちゃんで視線がぶつかり合い……やがてフィオナちゃんがハァとため息をついて、納得してくれた様だった。
めでたし、めでたしである。
「と、まぁ。非常に我が強く、自分の考えが絶対に正しいと妄信している妹狂いなワケですが……」
「ごくり……」
「それでも……誰かを不幸にしたいとか。そういう事を考える人ではないというのは確かなんです。むしろ、誰かが不幸になっている事が許せないと考える……それがリョウさんなんですよ」
「なるほど」
なんだかんだと俺の評価は悪いが……ドロシーさん達は俺を少しだけ信頼してくれる様だった。
そして、この状態となれば続く話も受け入れて貰いやすくなるだろうと、俺は続く話を口にした。
「とりあえず、俺の話はそんな所で良いんですけど、俺としては知り合いになった子が、苦しい、悲しい思いをしているのは嫌なんですよ。まぁ、身勝手な話ですけどね」
「……それはまぁ、なんとなく、分かりますけどね」
「何か気になることが?」
「利点が無いでしょう? ミリーとパメラを引き取る事の。それこそ、愛とか恋とかの話なら納得も出来ますけどね」
「利点ならありますよ」
「あら。こう言っては何ですけど、ミリーに出来る事は多くありませんよ?」
「多くある必要は無いですよ。ただ、一つ。何か一つ。誇れるものがあれば良いという話ですね」
俺は人差し指を一本立てながら笑う。
「俺はミリーちゃんには無限の可能性があると思っているんですよ」
「無限の、可能性ですか」
「はい。だって、ミリーちゃんはまだ挑戦していない事が沢山あるでしょう?」
「それで? 貴方がその全てを試すと、そういうお話ですか?」
「えぇ」
「それで、結局何も得られなかったら?」
「多くの事に諦めず挑戦し続けた子が生まれる事になりますね」
「途中で諦めてしまったら?」
「それは仕方ない。そうなってしまったら、その時、一番得意な事をお願いしますかね」
「ミリーの一番得意な事は体を売る事ですけれど、貴方はそれを強要するのですか?」
「まさか! ミリーちゃんは料理も得意だと聞きましたよ」
「料理人に、なれる程ではありませんけど」
「家で料理をお願いするのに、プロの腕は必要ないでしょう。特異な料理を作ってもらえれば、それが一番ですよ」
ドロシーさんの意地悪な質問に、全てそれなりの答えを返して、笑う。
まぁ、口から出まかせで言う事も出来るのだが……ここは真摯に答えた方が良いのは間違いない。
何故なら、人は人と信頼で結ばれているからだ。
だから、彼女の問いかけには信頼で答えるべきだと俺は思う。
「他に、何か気になることはありますか?」
「……もう降参ね」
「姉さん……!」
「私にはこれ以上何も思いつかないわ」
「でも、騙そうとしているのかも!」
「意味がないもの」
「……意味が、ない?」
「えぇ。だって、このお兄さんは私たちが束になっても傷一つ付けられなかったのよ? お兄さんが本気になれば、私たちを制圧してミリーをさらっていく事だって出来るわ。でも、それをやらないのは……お兄さんの優しさよ」
ドロシーさんは、小さくため息を吐いて、俺へと視線を向けた。
その視線は強く……まるですがるような目をしていた。
「お兄さん……。一つお願いがあるんですけど」
「何かな?」
「お兄さんが救いたいと思う人は……ミリー一人なんですか?」
「一応、パメラちゃんも、とは思っていますね。ミリーちゃんからのお願いもありますし」
「では、他の子たちはどうでしょうか?」
「ね、姉さん!?」
「どういうこと!?」
「この国は……もう駄目なのよ。騎士たちに話を聞いているとよく分かるわ。彼らだって、明日今のままで居られるとは思っていない」
「……」
「状況はどんどん悪くなる。いつか私たちも、全てを奪われて……殺されるわ。この国の連中か、敵国か……それは分からないけどね」
「だから、その前に国から逃がしたいって事ですかね」
「えぇ。そう。貴方が私の前に現れた事を、私は最大の幸運だと思うわ。私の妹たちを……助けてほしいの」
「ふむ」
俺はドロシーさんの言葉に少し考える。
いや、正直考える事は少しもなく、了解一択なのだが……少しは考える仕草も見せないと、フィオナちゃんにまた駄目な奴だと思われてしまうからな。
それに……。
「ドロシーさんはどうするんですか?」
ドロシーさんについても気になるからな。と俺は思ったままにドロシーさんへと問いかけるのだった。