おそらく血は繋がっていないだろうけれど、幼いミリーちゃん達の事を妹の様に慈しんできたのだろう。
ドロシーさんは、頭を下げてそんな妹たちを俺に任せてきたわけだが。
残念ながら、俺の考える妹の幸せというのは、身体の安全という意味だけじゃないんだよなぁ。
だからこそ。俺は、自身の名を呼ばれ動揺しているドロシーさんに再度問いかけた。
「ミリーちゃん達を保護するのは同意しましょう。しかし、ドロシーさん自身はどうするんですか?」
「え……いや、私は……」
「姉さん? 姉さんも一緒に行くんじゃないの?」
「……私は無理よ。だって、妹なんて年齢じゃないし。どう見てもお兄さんより年上だもの」
「それは……」
何だろうね。
別にそこは基準点じゃないんだけど……いや、自分でも妹だから助けるのだと連呼していた関係上正面から違うというのも、また難しい。
ドロシーさんは、まぁ妹というのは少し成長し過ぎている所があるし、そういう目でドロシーさんを見る事は出来ないだろう。
彼女は立派な女性だ。
しかも美しい女性だ。
そんなドロシーさんを妹だと言い張って家に連れて行ったら桜たちの俺を見る目が一層冷たくなるだろうな。というのは想像しやすい事である。
しかし、ならばこそ出来る事もあるのだ。
「ドロシーさん。自分で言うのも何ですが見知らぬ奴を信用しちゃいけませんよ」
「……?」
「俺が悪い奴だった場合、妹たちを俺に明け渡したと同じなんですから」
「何を」
「だから、しっかりと見守ってください。貴女自身の目で、妹たちの幸せを。それが妹を愛する者の義務でしょう?」
「お兄さん……」
「それに、俺は身の安全を保障出来るくらいのもので。心の平穏は……長く彼女たちを見守って来た人の力がいると、思いませんか?」
「私も……良いのですか?」
「無論。最初から断ってはいませんよ。むしろ、一緒に来て欲しいとお願いしたいくらいだ。貴女が居なくなれば、彼女たちも悲しむでしょうから」
「そう……そうですね」
ドロシーさんはフッと笑って、俺の言葉に頷いた。
だが、これにて一件落着。とはまだいかない。
最大の壁がまだ残っているのだ。
「さて。では最初にして最大の障害を越えないと……だね」
「そうだねぇ」
「えと……? 城門を超えるなら、私が騎士の目を引いている内に」
「あー。いや。そこは問題じゃないので、大丈夫です」
「えと……?」
「姉さん! お兄さんは凄いんだよ! 城門の騎士をていやー! って倒しちゃったの」
「えぇ!? いや、確かにお兄さんは強かったですけど……城門に居る騎士はエリートばかりなのに」
驚くドロシーさんの言葉に、俺はアレでエリートなのかぁと残念な気持ちになった。
どれだけ強かろうと、精神性は完全に終わっていたからな。
ガッカリもガッカリである。
「大丈夫。荒事は起こしませんよ。安全に脱出させます。便利な手段があるんですよ」
「そういう言い方してると、まーた、ジーナちゃんが怒っちゃうんじゃない?」
「反省しております」
「頑張って誠意を見せてね、おにーちゃん」
「ハイ」
嫌味の様に、フィオナちゃんから厳しい言葉を向けられ、俺は小さく息を吐きながら通信機を耳に当てた。
それとほぼ同時に外から来客を知らせる合図があり、ドロシーさん達が席を外す。
『はーい。こちらジーナちゃん。どうしたの?』
「あー。実はね。色々あって、ちょっとシーメル王国に転移したいんだけど」
『なに? トラブル?』
「いや、トラブルってワケじゃあないんだけど」
『トラブルじゃないのに、転移したいの……?』
「まぁ、そうですね」
『ふーん。また女の子絡み?』
「うっ……!」
『はぁー』
通信機の向こうからジーナちゃんの深い、ふかーいため息が聞こえた。
何も言い訳は出来まい。
さて、ここからどうやって説得するか。
と俺が考えていると……外の方から何やら騒ぐ様な音が聞こえて来た。
「なんだろう?」
「見て来る?」
「いや、俺も行くよ。何があるか分からないし」
『リョウ君? どうしたの?』
「あー。ジーナちゃんごめん。どうやらトラブルが起きたみたい」
『結局トラブルかぁー。良いよ。サクラちゃん達に女の子が増えるよ! って伝えたらジーナちゃんもそっちに行くから』
「悪いね」
『いいよ。ケド、後でちゃーんと説明して貰うからね!』
「ハイ」
胃にズシーンと重い物が落ちるのを感じながら、俺は再びため息を吐いた。
ジーナちゃんへの言い訳も必要だが、桜たちへの言い訳も用意しなきゃと。
いっそ、ココちゃんの性教育の為に雇った。
みたいな事を言っても良いが、妙な勘違いをされて面倒な事になりそうでもある。
どうしたもんかな。
と考えながら部屋の外に出た俺は、この集合住宅の入り口付近で言い争いをしているドロシーさんと、騎士の姿をした連中を視界に入れた。
何かあったのだろうか。
「陛下のご命令だ! 貴様らに拒否権はない!」
「ですが、ここを追い出されてしまえば……私達に行くところなど」
「どうしてもと言うのなら、騎士の宿舎に置いてやっても良いがな。貴様らも商売がしやすくなるだろう?」
ニヤニヤと気分が悪くなる様な笑みを浮かべている騎士達に俺は、はぁとため息を吐いた。
城門の所に居た連中がエリートというのも、まぁ納得できるかもしれない。
アレよりもさらに理性が無さそうな連中だ。
アレはまだ自制心があったと思わなくもない……が、勘違いの可能性が高そうだ。
しかし、ここでウダウダやっていても仕方ないし。
俺はとりあえず、ドロシーさん達の前に顔を見せながら騎士たちに言葉を掛けてみた。
「どうもー」
「……なんだ。お前は」
「あ、あぁ……! この人は私のお客さんで」
「フン。おい。身分を明かせ」
「冒険者ですよ。セオストの。それが何か?」
「冒険者ごときが……何か用か?」
「別に何も用事は無いですよ。ただ騒がしいから何かなと思って見に来ただけで……それで? どういう事情なんですか?」
「貴様には関係ない」
「あぁ、そうですか。では俺はこのまま失礼しますよ」
俺は騎士たちの間をすり抜けて外へとフィオナちゃんと共に出て行こうとしたのだが……当然の様に行く手を遮られてしまう。
俺の前には騎士が抜いた剣があり、騎士は俺に何か用事がある様であった。
「そこの女は何者だ」
「俺の冒険者仲間ですよ。それが何か?」
「置いて行け」
「必要性を感じませんねぇ」
「貴様の感想など聞いていない。置いて行け」
「はぁ」
俺はわざとらしくため息を吐くと、神刀を一瞬抜いて騎士の剣を両断し、ゆっくり納刀した。
「首を刎ねないと、分からないですかねぇ?」
「何を……っ!? わ、私の剣が! 貴様! 何をした!」
「何をって……斬ったんですよ。分かりませんか?」
「ば、バカな……!」
「一応警告はしました。次は……首を落としますね」
ニッコリと、微笑みながら俺は神刀をゆっくりと抜いた。
それは十分な恐怖を彼らに与える事が出来たのだろう。
騎士達は叫び声を上げながら、集合住宅から飛び出していくのだった。
「やれやれ」
「また、暴れてるのー? リョウ君」
「また。って言われると困っちゃうんだけどね」
俺は神刀を納刀しながら逃げて行く騎士たちを見ていたのだが……ふわりと空から舞い降りてきた何かが俺の首に手を回しながら抱き着いてくるのを感じ、その何か……ジーナちゃんに語り掛けた。
「準備は良い感じ?」
「うん。良い感じー」
「そっか。じゃあ、さっさと転移しようか。ドロシーさん」
「は、はい!」
ドロシーさんは何故か酷く怯えた様な様子で俺の言葉に頷いていた。
そこまで怖がらなくても良いだろう。と思わなくもないが……まぁ、さっきは怖がらせる目的でやってたから何も言えまい。
というワケで、色々な事情は後で話そうと……まずはドロシーさん達と共にシーメル王国の家に向かうのだった。