ジーナちゃんの便利な魔法により、仮眠ではあるが眠る事が出来た俺は、翌朝、それなりに体力を残した状態で目を覚ました。
ココちゃんもジーナちゃんもまだ深く眠っているし、起こさない様に気を付けながら旅の準備をする事にする。
「……」
まずは何よりも大事な刀の点検だ。
鞘から抜いて刃の状態を確認し、何も異常が無いことを確かめる。
……。
うん。今日も今日とて、刀は完璧な状態を維持しており、これなら骨だって両断出来るだろうという状態だった。
刀の状態に満足した俺は鞘に戻そうとしたのだが、ふと隣で寝息をたてているジーナちゃんを見やった。
完全に油断している。
今なら、簡単に息の根を止める事が出来るだろう。
……しかし。
『私、リョウ君の妹になるよ!』
「まぁ、妹は傷つけられないか」
俺は刀を鞘に納めて、昇り始めている朝陽を見つめた。
これから一日が始まろうとしている。
ここがスタンロイツ帝国の領土である為、いつ襲撃されてもおかしくない。
だから気を緩める事は出来ないのだが……。
眠っているココちゃんやジーナちゃんを見ていると、今だけは少し心を休めても良いかと思うのだった。
それから。
太陽がそれなりに高く上がり、周囲をしっかりと照らす様になった頃、ココちゃんとジーナちゃんはほぼ同時に目を覚ました。
そして、二人の準備が終わるのを待ってからシナード領を目指して歩き始めるのだった。
シナード領にある森は大きく湾曲した形になっており、森の中を進むアリア姫様たちと、外を歩く俺達では俺達の方が距離が短く、目的地には早く着くだろう。
だから、あまり急がずのんびりと歩いても良いのだが……何故か競争を始めたジーナちゃんとココちゃんにより、予定よりもずっと早く着きそうである。
「ま、まってよぉー! ココ、ちゃん、足、はやい……!」
「……ココのかち」
俺は軽くランニングするような形で二人に付いてゆき、両手を膝に付けて、ぜぇぜぇと息を切らしているジーナちゃんを見つめるのだった。
「なん、でっ、リョウ、くんも、そんな……余裕そう、なの!」
「まぁ鍛えてるからね。というか、ジーナちゃんは飛べば良いでしょ」
「それは! ズルじゃん! 駆けっこなんだから!」
「なるほど。結構真面目なんだね」
俺はジーナちゃんの言葉に関心しながら、ジーナちゃん程では無いが息を切らしているココちゃんを抱き上げる。
「ココの、勝ち」
「うん。早かったよ」
「……へへ」
嬉しそうにはにかむココちゃんを撫でながら、まるで海に浮かぶ水死体の様にだらんと両腕を地面に向けて下ろし、背中を空に向けたまま、体を軽く丸めて浮いているジーナちゃんを見た。
ここが水上であったなら、間違いなく死んでいると判断した事だろう。
「ジーナちゃん」
「……ジーナちゃん、もう疲れちゃった!」
「そっか。じゃあ、置いていくね」
「えー! やだやだやだー! そこは違うでしょ! ジーナちゃん可哀想だね! でしょ!」
「アー、ジーナチャン、カワイソウダネ」
「心がこもってなーい! そんなんじゃジーナちゃん嬉しくないよ!」
じたばたと器用にも空中に浮きながら暴れ始めたジーナちゃんを見て、俺はとりあえずここで休憩する事にした。
よくよく考えると……あ、いや、特に考えなくても今かなり先へ進んでいる状態であるし。
少しくらい遊びながらのんびりと進むべきなのだ。
「じゃあ、ジーナちゃんも疲れちゃったみたいだし、ここで休もうか」
「わーい!」
「……ココ、まだいける」
「そうだね。ココちゃんは凄い子だからね」
「……うん」
「でも、今はみんなで旅をしているから、ココちゃんが大丈夫でも、仲間が疲れちゃった時は休もう」
「……なんで?」
「そうだね。例えば、だ」
「うん」
俺は気が付いたら無言のまま俺を見ているジーナちゃんと、ジッと俺の行動を見つめながら言葉を待っているココちゃんにどうすれば分かりやすく説明出来るか、考えながら口を開く。
「ココちゃんは、ジーナちゃんと二人で旅をしていました」
「……うん」
「ジーナちゃんが疲れたよー! と言っていたけど、ココちゃんは無理をして進もうと言いました。ジーナちゃんは頑張って進む事にしました」
「ふんふん」
「何とか頑張って進んでいたジーナちゃんでしたが、途中で倒れてしまいました。もう立てません。ココちゃんは一人で進まなくてはいけなくなりました」
「……まだ、リョウ……お兄ちゃんがいる」
「そうだね」
俺はココちゃんの言葉に驚いてショックを受けているジーナちゃんを目の端で捉えながら、ココちゃんを見て話を続けた。
「じゃあ次は、俺とココちゃんとジーナちゃんの三人で旅をしている時の話だ」
「うん」
「さっきと同じ様にココちゃんはジーナちゃんを置いていこうとした。でも、俺はジーナちゃんを見捨てられないから、ここに残る事にした。ココちゃんはどうする?」
「……のこる」
「そうか。じゃあココちゃんも残ることにした。そして次の日。ジーナちゃんは元気になって、また三人で進む事にした。でも、今度はココちゃんが木の根っこに躓いて転んじゃった」
「……」
「そこでジーナちゃんが言った。「ココちゃんは置いて、先に行こうよ」って」
「……うん」
「ここで俺は考える。ジーナちゃんの言葉に従って先へ進むべきか。それともココちゃんが心配だから、残るべきか」
「……どう、するの?」
「さて、どうしようかな。悩ましいね。だって、ココちゃんはジーナちゃんが大変だった時、見捨てていこうって言ってたんだから」
「それは……! その」
「ココちゃん」
「……うん」
「人はみんな、誰かと一緒に生きているんだ。だから、悲しい事を言ったら、それがココちゃんが辛いよ、悲しいよって時に返ってくるかもしれないんだ」
「うん……!」
「でも、ココちゃんが優しくしてくれたら、きっと苦しい思いをしている人は嬉しい筈だよ。そしたら、ココちゃんが苦しい時にも、助けてくれる」
「……リョウ、お兄ちゃん、も?」
「あぁ。もちろん。お兄ちゃんはココちゃんを絶対に見捨てないからね」
「わか、った」
ココちゃんは俺の話を聞いて、ポロポロと涙を流していたが、やがて服の袖で涙を拭うと、ジーナちゃんを見据える。
「ジーナちゃん」
「うん」
「ひどい事言って、ごめんなさい」
「ありがとう。ジーナちゃんはもう気にしてないよー」
「……うん」
ココちゃんは少しだけ嬉しそうな顔をしながら頷いて、恥ずかしかったのか俯いたまま俺の所まで走ってきた。
そして俺に抱き着いて、顔を埋める。
「ありがとう。ジーナちゃん。空気を読んでくれて」
「えへん」
「あぁ、本当に偉いよ」
「にひひ」
ジーナちゃんもはにかむ様に笑いながら、近づいてきた。
俺は自然な仕草でジーナちゃんを褒めてから、再び声を掛けようとした瞬間……何かの気配に気づく。
「っ!?」
「どうしたの? リョウ君」
「いや、何かが……! 何だこれは?」
どこかで膨れ上がった巨大な気配が、こちらに向かって真っすぐに突っ込んでくる様な空気だ。
場所は……!
「ジーナちゃん!!」
俺はココちゃんを抱きしめたままジーナちゃんの手を引いて、その場から急いで森の方へ飛び込んだ。
次の瞬間。
空から巨大な何かが俺たちの居た場所に、埃や土煙を巻き上がらせながら降り立った。
「なんだ……! これは!」
それは、そう。
一言で言うならば、巨大なロボットであった。
全体的に丸っぽいフォルムであるが、手足は生えていて、頭もある。
そして、頭に付いている目の様なものが真っすぐに俺を捉えた。
「ターゲット。確認」
瞬間、ロボットから放たれた光により視界が白に染まるのだった。