ドロシーさん達が住むための家を用意する為、スタンロイツ帝国に家を建てる事になった。
その為、まずはスタンロイツ帝国の皇帝陛下に挨拶をしたわけだが……まぁ、一瞬で話は終わってしまった。
ある程度予想していた事ではあるが、あまりにも早すぎるとも思う。
こんなモンで良いのか、疑問だ。
そして、俺の話が終わったため、次はドロシーさんが皇帝陛下に話をする事になったのだが。
ドロシーさんは緊張しているのかゴクリと唾を飲み込んで、俺たちと話をしていた時よりもゆっくりと話し始める。
「は、初めまして。スタンロイツ帝国の皇帝陛下」
「あぁ」
皇帝陛下はドロシーさんの言葉にゆっくりと頷きながら俺の方へと僅かに視線を向けた。
おそらくはドロシーさんを紹介しろという事だろう。
流石、と言うべきか、ドロシーさんは皇帝陛下の考えを察し、口を閉じる。
「こちら、ドロシーさんという方なんですが……これからスタンロイツ帝国に家を作った時に住む予定の方です」
「なるほど」
一応、こちらに来る前に普通の旅人が着るような服を着てきてもらったため、見た目はおかしくない。
というよりも、一国の王と関係を持つだけあり、ドロシーさんは美しい見た目をしていた。
好印象ではあると思う。
まぁ、皇帝陛下の趣味は分からんが。
「なるほどな。リョウの趣味では無さそうだが。色々と事情がありそうだな」
「いや!? ドロシーさんはかなり俺の好きなタイプの女性ですが!?」
「えっ」
「ほう。そうなのか。いつも幼い少女ばかり連れているからな。そういう少女が好みなのだと思っていた」
「凄い誤解なので、どうかこれを機に修正していただけると助かりますねぇ」
「どーかな。リョウ君ってば何だかんだ言って、好きだよーって言ってる人に何もしないし」
必死に皇帝陛下へ言葉を尽くしていると、呆れたようなため息の後、ジーナちゃんがとんでもない事を口走った。
そして、その言葉に皇帝陛下は「やはりか……」なんて言いながら頷く。
何もやはりではない。
「ジーナちゃん! それは勘違いだよ!」
「えー? でもサクラちゃん達には好き好き言ってるけど、大人の人には言わないじゃん?」
「そんな事は無いと思うんだけどね!? 偶然ジーナちゃんが見たこと無いだけじゃないかな!?」
「セオストの受付だった人」
「オリビアさんには恋人が居たでしょ!」
「ソラちゃんとレイちゃんって子のお母さん」
「人妻でしょうが!!」
「ジーナちゃん」
「ジーナちゃんは、子供でしょうが……!」
「ほらー言い訳ばっかり。本当は小さい子が好きなんでしょ?」
「言い訳じゃないでしょ!? 全部ちゃんとした理由があったでしょ!?」
「うーん。どうかなー。ジーナちゃんよく分からない」
「くっ……! こ、皇帝陛下! 理由があるんです。理由が!」
「あぁ。理解した。大丈夫だ。安心しろ」
「皇帝陛下……!」
流石は皇帝陛下だ。
スタンロイツ帝国という大国を率いているだけの器。
これこそ王の器だよ。と俺は感動に身を震わせる。
「スタンロイツ帝国では婚姻に年齢の縛りは無い」
「そういう理解ではなくて!」
「……一応重婚も可能であるが?」
「そこも別に心配はしてないです!!」
俺は戦った。
名誉を守るための戦いだ。
しかし、俺の戦いは空しく……賛同を得られないまま、俺が幼女趣味という事で話が進んでしまう。
なんてこったである。
だが、このまま話が進んでも碌な事にならないため、俺はひとまず話を元に戻す事にした。
「とりあえず俺の事は良いんで! ドロシーさんの話を聞いていただけますかねぇ!」
「あぁ。そうだな。では聞こうか」
「ドロシーさん」
「……」
「ドロシーさん?」
「あ、な、なんでしょうか。りょ、リョウ様?」
「いえ。皇帝陛下にお話があるんですよね?」
「そ、そうでしたね。はい。まずは妻として勤めを果たさねば」
「妻?」
「お気になさらず! 何でもありませんから……!」
顔を真っ赤にしながら叫ぶドロシーさんに、俺は少しばかり嫌な予感がしたが。
いやまさか、恋愛経験の豊富なドロシーさんが妙な勘違いはするまいと自分と納得させる。
そして、ドロシーさんはコホンと咳払いをしてから再び話を始める。
「実は、スタンロイツ帝国で商売をさせていただきたいと考えておりまして」
「ほう。どういう物だ」
「従業員の女性と話をする店ですね」
「それだけか?」
「えぇ。それだけです。あぁ、でも飲み物や軽食は出すかもしれません」
「それで商売が成り立つのか? 客が来るとは思えないが」
「来ます。まず間違いなく」
皇帝陛下の疑問にドロシーさんはハッキリと答えた。
確信を瞳に宿しながら。
「その根拠は何だ」
「今まで何度かスタンロイツ帝国の騎士様を拝見したことがありますが、皆様とても紳士的で……清廉潔白という言葉がよく似合う素敵な方ばかりでしたわ」
「無論だ。騎士とは国の顔である。その騎士がだらしなくては国の品位に関わる」
「だからこそです」
ドロシーさんは皇帝陛下の発言に頷きながら返事をしたが、その言葉の意味は分からない。
どういう事だろうか?
「では伺いましょう。皇帝陛下。騎士様の未婚率はどの程度高いですか? 主に貴族ではなく平民の」
「……だいぶ高いな」
「これは私の推測となりますが、騎士様方は普段女性と殆ど関わらないのではありませんか? しかもスタンロイツ帝国には娼館の様な施設も少ない……か、存在しない」
「よく分かるな」
「分かりますわ。彼らは本当に素晴らしく精錬で、決して女性には手を出そうとしませんでしたから。例えそれが性を売っている女性であったとしても」
「……ふむ」
「陛下。騎士様方はとても奥手になってしまっているのです。女性を傷つけない様にと考えるあまり、騎士としてでしか話す事が出来ず、個人として接する事が出来ないのです」
「それをお前の店で解決するという事か?」
「はい。私たちは男性とお話する事は得意ですし。練習相手としてはこれ以上ないと自負しております」
「しかし、お前たちの店で、お前たちに溺れたらどうする? 妙な自信を付けられても厄介なだけだぞ」
「そこは問題ないかと思っております。ここで陛下に許可をいただければ陛下がご許可された、帝国に属する店という事になりますし。彼らも無茶は出来ません」
「ふむ」
「それに……私たちはあくまで話し相手ですわ。それは従業員にもお客様にも徹底します。恋人では無いのだと」
「しかし、それではやはり儲かるまい。体を売る様になっては話にならない」
「それはあり得ません」
「何故そう言い切れる」
「私たちに手を差し伸べた御方が言っていたのです『私たちには無限の可能性があるのだ』と『それを試す前から自分の価値を決めるな』と。だから私たちは今までの生き方ではなく、新しい自分を探していきたいのです。ですから、まずはそれなりに得意なところから」
ニッコリと微笑むドロシーさんに、皇帝陛下はニヤリと笑って俺の方へと視線を投げた。
微妙に嫌な視線であるが、俺は気にしないように平気な顔で、そのまま視線を外す。
「なるほど。随分と面白い男に出会った様だな」
「えぇ。本当に。だからこそ、私たちはその御方に恩を返したい」
「なるほど。それでその商売か。金銭的なメリットは薄いが、騎士の評判が良くなれば……お前たちの評価も上がる」
「そうなれば、私たちを拾った方も素晴らしいと評されるでしょう?」
「ふっ、ハハハ! まったく、面白い奴だな。本当に」
ワハハと笑う皇帝陛下に、俺はドロシーさんの案が通った事に対する安堵と、俺の評価が酷い事になっていそうだという、げんなりした気持ちの両方を味わう事になった。
しかし、全体的に考えれば良い結果になったはずだ。
そう思うしかあるまい。
「良いだろう。分かった。問題が起きるまでは店の営業を許可しよう」
「ありがとうございます」
「ただし、一つ条件だ」
「……条件、ですか」
「あぁ。恥じるような話ではあるがな……生きる為に、心身共に傷つきながら体を売っている者は我が国にも居る。彼女たちが望むなら、受け入れてやってくれ」
「……承知いたしました。きっとあの御方もそれを望むでしょうから」
「そうだろうな」
笑い合う二人がこちらに視線を向けた様な感覚があるが、俺は気にしない! 気にしないと心の中で叫び続けた。