ドロシーさんと皇帝陛下の話し合いも終わり、ドロシーさんのお店がスタンロイツ帝国に作られる事となった。
そしてその店は安全上の問題もあるし、俺の家に併設する事となる。
というか、俺の家の一階がそのまま店になるっていう感じだ。
なので、家の設計なんかはドロシーさんを中心にして行われる事になった。
俺は、セオストとシーメル王国の家の設計図なんかを共有して、出来る事と出来ない事を伝えてゆく。
ついでに、スタンロイツ帝国の大工さん達を皇帝陛下に呼んでもらい、可能な限りドロシーさん達の希望が叶う家を目指してもらうつもりだ。
「何から何までありがとうございます」
「いやいや。挑戦する人に協力は惜しまないよ」
「では、ありがたく頂いておきます」
「うん」
そして、スタンロイツ帝国の宿屋も十分な日数分確保してドロシーさんの妹さん達も転移でスタンロイツ帝国へと呼び、俺はフィオナちゃんと共に再び依頼の方へ戻ることにした。
「じゃあ、後はお願いね」
「えっ!? お兄さん。行っちゃうんですか!?」
「ヤダー。さみしぃー」
「そう言ってくれるのは嬉しいけどね。俺もまだ仕事の途中だったんだ。君たちの事が心配だったからこっちを優先したけどさ」
「やだ、格好いい。キュン」
「という訳だから、何か困ったらドロシーさんに。ドロシーさんは皇帝陛下か通信機にお願いね」
「はい。行ってらっしゃいませ」
「行ってきますね」
俺はドロシーさん達に手を振り、シーメル王国に戻った。
そして、再びフィオナちゃんと旅を始めるべくアルルンネ帝国にあるドロシーさん達の家に転移したワケだが。
「さてさて。これはどうしたもんかね」
家の外には多数の騎士がおり、どうやら何かを探している様だ……とは言っても、ここで探しているモノなど限られているが。
ドロシーさん達か、ドロシーさん達に関係する何かだろう。
「どうする?」
「どうもこうも。俺たちが関わる必要はないよ。コッソリと国から脱出しよう」
「こんな事なら街道に転移して貰えば良かったね」
「まぁ、それはそうなんだろうけど、転移も万能じゃないからね。行ったことある場所……というかジーナちゃんが記憶している場所しか行けないって話だし。俺が呼んだ場所が悪かったかな」
「完璧なものは無いって事かぁ」
「そういう事だね」
俺はフィオナちゃんに頷きながらフィオナちゃんの体を抱き上げて、家の中庭っぽい場所から屋根の上に跳ぶ。
そして、そのまま屋根を伝って隣の家、さらに隣の家と飛び移ってゆくのだった。
眼下では騎士たちがドタバタと走り回っており、本当に緊急事態だという事がよく分かった。
もしかしたら、ドロシーさん達は俺が思っている以上に、この国の重要人物だったのかもしれない。
皇帝とも繋がりがあるって言ってたし。その関係かな。
「でも……凄いね。騎士の人たち。大慌てって感じ」
「それだけ大事件が起きてるんだろうねぇ」
「大事件って何が起きたんだろう?」
「そりゃ……何者かがドロシーさん達を連れ去ったんじゃない?」
「何者か、ね?」
腕の中でフィオナちゃんが訝し気な顔をする。
が、俺はそれに気づかないフリをして話を続けた。
「ドロシーさんの話じゃあ、この国の皇帝がドロシーさんを気に入ってたらしくてさ。そのドロシーさんが居なくなって焦ってるんじゃない?」
「え。でも、ドロシーさん達家が無くなりそうだったんでしょ? なら居なくなってもおかしくないんじゃないの?」
「それはどうかな」
「どういうこと?」
「ドロシーさんは確かに魔術が使えるけど、騎士の軍団と戦える程じゃない。それに妹っていう弱みもあるしね。だから捕まえるのはそれほど難しくは無かったんじゃないかな。だからまずは家を奪って、住処を無くすっていう圧をかけた。妹をこれ以上苦しめたくなかったら俺のモノになれ。みたいなね」
「ははーん。なるほど」
「そう考えると、パメラちゃんがスタンロイツ帝国に行きたいって行った時、『スタンロイツ帝国は強大な国だから、アルルンネ帝国から追手が来たとしても、国民と認められていれば、守られる可能性が高い』って言ってたんだよね。言い方は悪いけど、たかが娼婦が数人居なくなった程度で追手なんかあり得ないでしょ。でも、彼女たちは明確に追手が来る事を想定していた」
「なるほど。つまり、元々狙われてて、皇帝からもそう言われてたって事かぁ」
「たぶんね。だからミリーちゃんは焦って外に飛び出してお金を集めようとしたし。妹という言葉を餌にして俺を家まで連れて行った。家に行けば俺がきっとドロシーさん達を含めて全員助けてくれるってね」
「……そうは見えなかったけど、結構頭いい子だったんだね」
「うん。そう思うよ。まぁ危険な国で危険な商売をして、生き残って来たワケだからね」
「確かに」
「……どこまで計算だったのかは、俺も分からないけど。もしかしたら初めから分かってた可能性もあるかなぁ」
「どういう事?」
「ほら。俺たちがいくらゆっくり街道を歩いてたとはいえ、ミリーちゃんはアルルンネ帝国からかなり離れた場所まで来てたでしょ? 商売をするにはちょっとあり得ない事だ。魔物に会うと危険だし。盗賊なんかも居るだろうしね」
「うん」
「それでも彼女は、街道を歩き続けた。何のために?」
「えと、なんでだろう?」
「たぶん。俺たちが来る事を知っていたんじゃないかな? 俺達以外にも旅をしている人々は居るし。馬車なんかも走ってたからアルルンネ帝国に着いた商人とかから目ぼしい客の情報を聞けば、俺たちの事を知る事は出来るだろう。そして、冒険者としてある程度名前が売れてる俺たちの事を知っている人が居てもおかしくはない。なら、もしかしたら。という可能性はあるだろう?」
「なるほどねー。色々考えてるんだなぁ」
「まぁ、あくまで想像だけどさ。そう考えるとしっくりくるな。って」
俺はフィオナちゃんに推理を披露しながら屋根から飛び降りて、帝都の入り口へと向かった。
そして、そのまま国を出ようとしたのだが。
「出国だぁ? 出たいなら金を払いなぁー!」
「入国する際にそんな事は聞いてませんけど。それがこの国の法律ですか?」
「くっひゃっひゃっひゃっ。国じゃねぇ。俺様のルールだ!」
「あぁ。そう。じゃあ無視しても良いって事ですね」
「あ?」
俺は入国時同様。ロクなもんじゃない門番を蹴散らして、さっさとフィオナちゃんと離脱する。
そのままフィオナちゃんを抱えたまま街道を逆走し、分かれ道の場所まで全力で走るのだった。
「さー。ここまで来れば、もう大丈夫だろう」
「本当に?」
「たぶんね。ここから先の事は俺も分からないよ。ただ、とりあえずは大丈夫だろうってこと」
「ま、そうだね」
フィオナちゃんは「よいしょ」なんて言いながら俺の腕から降りて、歩き始めた。
色々と寄り道はしたが、ようやく依頼再開である。
「さて。楽しい依頼の始まりだねぇ」
「そうだね……って、そうだ。この依頼。デパルダム王国の王様の浮気の手伝いなんだった……あー。思い出したら嫌な気分になってきた」
「ま、まぁまぁ。まだ分からないから」
フィオナちゃんのげんなりとした言葉に精一杯のフォローをしたのだが、どんよりとした顔のままフィオナちゃんは俺をジト―っとした目で見つめる。
そして大きなため息を吐いた。
「どうせ、リョウさんみたいな人なんだろうなぁ」
「俺は浮気とかしたこと無いんだけど?」
「ハァー。憂鬱だなぁ」
「聞いてますかー? 聞こえてますかー?」
俺はフィオナちゃんに何度も呼びかけたが返事が返ってくる事は無かった。
しかし、ボソッと呟くような声で。
「で? リョウさんはいつ本命の人を選ぶの?」
なんて言われてしまい、そのままウググっと黙ってしまうのだった。
いや、本命も何も。
俺が好きだなと感じる人は、皆さん特定の相手が居るんですけどね。お客さん。
悲しい事だね。