色々な問題や出来事がありつつも、当初の依頼に気持ちを戻し、街道を歩き続けた俺たちは、予定よりも僅かに早いくらいで目的地に到着した。
随分と長い旅をしていた様な気持ちであるが、何だかんだと予定は崩れていないという事である。
というワケで、王族に会う前に高級宿で部屋を借りてシャワーを浴び、旅の服から貴族と話をする様の服に着替えた。
普通の依頼主であればそこまで気にする様な事でも無いだろうが、相手は国王だ。
気にしすぎて駄目という事は無いだろう。
「ん。問題は無いね」
「えー? リョウさんはもう準備できたのー?」
「まぁ、俺は言うほど準備する物が無いからね」
シャワーを浴びて、綺麗な服を着て、髪などを整えるだけだ。
いうほど時間は掛からない。
しかし、フィオナちゃんは服もそうだが、化粧や髪型や色々と気を遣わなければいけない部分が多いのだ。
少なくとも俺の倍くらいは忙しい。
「手伝おうか?」
「え? でも……」
「大丈夫だよ。桜の手伝いはよくしてたからね」
俺はおずおずとシャワー室から出てきたフィオナちゃんを迎え、椅子に座ってもらって丁寧に髪を整えてゆく。
フィオナちゃんの髪はかなりサラサラで、非常に滑らかであった。
街でもあまり見ないような、美しい髪色もしているし。普段からかなり丁寧に手入れをしていると見える。
「まるで貴族みたいな髪だね」
「誰のせいですかねぇ。誰の」
「うん?」
「どこかの誰かさんが、髪に良いらしい。肌に良いらしいって大量に買ってくる洗髪剤やら何やらは全部最高級品らしくて。私もリリィも無駄にできない! って使い方とか手入れの方法とか覚えて丁寧に使ってるんだからね!」
「なるほど……それはまた……ご苦労をおかけしまして」
「ホント。気にしてほしいもんですねー」
「これからは気にさせていただきますね」
俺はフィオナちゃんにペコペコと頭を下げながら謝罪をする。
まさかそんな事態になっていたとは。
今度から買うのは控えた方が良いだろうか……?
いやっ! でも、前に買っていった時は助かる。とか嬉しいって言ってたし、間違いではないはずだ!
しかし、物は吟味した方が良いのだろうか?
「ちなみに、なんですけど」
「はいはい」
「余計な買い物とかはしてないよね? 俺」
「しいて言うなら、全部余計なんだけどね。私たちみたいな庶民が使う物じゃないし」
「うっ……!」
「それに、私たちなんかが綺麗になっても喜ぶ人なんて居ないしさ?」
「いやいやいや! 俺はすっごい嬉しいよ!? 可愛い妹を見て嬉しくない兄は居ないからね! いや、もうホント」
「……」
「フィオナさん?」
「だから、きっとリョウさんはそう言うだろうからってさ。私たちも頑張って色々調べて使ってるから……その、ね。私たちの事を考えて、買ってきてくれるのは、本当に嬉しい……よ?」
椅子に座ったまま、おずおずと振り返るフィオナちゃんは本当に可愛らしく。
恥ずかしそうに頬を僅かに染めている所は、最高という他ない姿だった。
まさに誰もが振り向く美少女という奴だ。
「分かった。じゃあ、これからも遠慮なく贈らせて貰うね」
「う、うん……」
いつもの元気なフィオナちゃんも可愛いが、こうしてお嬢様の様な姿で座っているのも最高だった。
俺の妹。可愛いだろう! と周囲に自慢して回りたいモノである。
まぁ、フィオナちゃんがジロジロ見られるのは腹立つため、やらないが。
そして、フィオナちゃんをさらに美しく可愛らしくするべく、俺は髪だけでなく、化粧や装飾品などにも凝り、凝りに凝って、最高のお姫様を生み出す事に成功した。
まぁ、全てはフィオナちゃんという素材が良いからこそ出来上がった結果なワケだが。
「ふっ……! 完璧だ」
「完璧じゃないよ!」
「な、なんと……! どこが物足りないんだ!? 何が」
「足りないんじゃなくて! やり過ぎなの! なにこれ!? どこのお姫様!?」
「そりゃフィオナちゃんはお姫様なんだから、この程度は当然では?」
「あー! もう! この妹狂いが!」
フィオナちゃんは服や装飾品が汚れない様に、丁寧な仕草で怒りを示した。
足で床を叩くのも慎重に、ゆっくりと、丁寧におろしている。
なんて良い子なのだろうか。
「大体さ。このネックレスとか、どうしたのさ」
「買ったんだよ。いつか桜達が使うかなって」
「いや、いつかって、使わないかもしれないじゃない」
「まぁ、その時はその時だね」
「ちなみに、いくらくらいしたの?」
「まぁ……セオストの家が二十軒分くらいかな」
「っ……」
「おっと」
フィオナちゃんは金額を聞いた瞬間に意識を遠くさせてしまう。
が、俺はフィオナちゃんが倒れる前にそっと腰を支えるのだった。
「どうしたの。危ないよ」
「だ、だって……首に家が二十軒あると思ったら、立ってられなくて」
「別にフィオナちゃんが気にする事じゃないでしょ」
「気にするよ! 気にするに決まってるじゃない!」
「ふむ」
「ねぇ、待って? 当たり前みたいに出してきた服とか、他の指輪とかさ。この辺りの値段ってどうなってるの……?」
「そりゃ。ネックレスが見劣りしない様に揃えてますよ。お嬢様」
「バカ! リョウさんのおバカ! 何考えてるの! こんな、こんなどうでも良い事にお金を使って!」
「どうでも良いとは何ですか! 最高に可愛い妹をこの世に降臨させる事が出来るというのに、どうでも良い事なんて無いんだよ!」
「もぅ……ほんと、もう」
フィオナちゃんはふらふらとふらつきながら、それでもしっかりと立つ。
多分座りたくは無いんだろうな。
別に構わないんだけど。
「ちなみにリョウさんの服は、どれくらいバカげた額なの?」
「え? どんなモンだろうね。セオストの食堂のご飯三日分くらいじゃない?」
「おかしいよぉ~。なんでそんなに差があるのぉ~」
「俺の服なんてどうでも良いからね! 当然だよ!」
「もう~! ホントに、もうぉ~」
フィオナちゃんは今にも泣きだしてしまいそうな顔で項垂れていた。
なんと可哀そうな姿である。
しかし、そうしていても可愛いため、やはり俺の目は完璧であったという事だな。
「ふふ」
「まぁ、良いよ。もう。リョウさんが喜んでるし。私もなんか凄い豪華な服着れたし。こんな事、一生に一度しかないだろうし。もう良いよ」
「まぁ、別に言ってくれれば何度でも……」
「良いから! 本当に! もう良いから!!」
「う、うん。まぁ、フィオナちゃんがそう言うのなら」
俺はとりあえずフィオナちゃんの必死な叫びに頷き、依頼の品を持って王城へ向かおうかとフィオナちゃんに言うのだった。
そして、宿を出てからは呼んでおいた馬車に乗り王城へ向かう。
正直どこまでやれば良いのかさっぱり分からないため、出来る限りの事はする事にした。
ヴィルさん達も周囲の人たちに怪しまれない様に、着飾ったり馬車に乗ったりはするって言ってたし。
というワケで前任者に倣いながら王城へ入った俺は、そのまま面会を申し入れたのだが、なんとすぐに面会しても良いと言われたため、面会室へと向かった。
玉座の間とかじゃなくて良かったと安堵しながら、王城だけあってやたらと豪華な面会室で王様を待つ。
待つ。
待つ……。
それなりに待って、やってきた王様と……おそらくはこの国の王子様を見て、俺はソファーから立ち上がり頭を下げた。
フィオナちゃんもまた、丁寧に頭を下げる。
「いやぁ、申し訳ない。冒険者殿。だいぶ待たせてしまった様だ」
「いえいえ」
「それで、依頼の品は」
「はい。こちらになります」
スーツケース型の収納用魔道具を王様に渡し、王様が中身を確認する。
何故か隣に居る王子様も王様と一緒に確認していたが、まぁあまり気にしないようにしよう。
プライベートだ。
そして、中身に満足したのか王様はニッコリと微笑んで依頼は完了だと笑ってくれた。
「ありがとう。冒険者が変わったと聞いて不安だったが、良い仕事をしてくれた」
「いえ。喜んでいただけて良かったです」
「ではまた次も頼む」
「はい」
王様と握手をして、なぜか少し緊張した様子の王子様とも握手をする。
それから王子様は、何故か、せっかくだからとフィオナちゃんの格好を見たいと言ってきた。
なんだ? 手を出すつもりか? と俺は警戒をしつつ表には出さない。
そして、フィオナちゃんが立ちやすい様にと手を差し伸べて、フィオナちゃんと王子が手を握った瞬間、眩いばかりの光が部屋の中に溢れ……光が収まった瞬間、フィオナちゃんの手の先には一人の美しい女性が立っていた。
「は」
「え」
「なっ」
俺は完全に凍り付いた時間の中、間抜けな声を出しながら固まってしまうのだった。