デパルダム王国の王様に洋服を運ぶ様に依頼され、奇妙な依頼だなと思いながらもデパルダム王国の王城まで荷物を運んだ俺とフィオナちゃんであったが、王様と一緒にいた王子様は、ピカッと光った瞬間、美しい女性になっていた。
意味が分からない。
「えっ、なんで……」
「いや、え!?」
俺は混乱し、どうしたもんかと思考を巡らせていたが、状況すら飲み込めていないのに、どうにかも何もない。
ただオロオロするだけである。
「どういうつもりか! 冒険者殿!」
「えぇ!? な、何がでしょうか」
「この様な……なぜ、姫の秘密を暴く様な真似を」
「姫の秘密……?」
なんのこっちゃ。
まるで意味が分からない。
というか姫って誰だよ。って、目の前に居る人か。
確かに月明りの様に輝く金色の髪や空の様に透き通る薄く青い瞳は、姫と言われても違和感のない姿だろう。
まぁ、フィオナちゃんのが可愛いが。
「えと、申し訳無いのですが、こちらのお方は」
「とぼけるつもりか! 我が国の姫を……」
「え……! 貴国には王子が一人いるのみでは」
待ってほしい。
とりあえず待ってほしい!
状況を整理する時間を俺にくれませんか!?
本当に、本当に困っています!
「ちょっと、整理がしたいのですが。まず、俺たちに貴国へ何かしら害意を向ける意志はありません。現在も過去も未来もです。その上で、何が起きたのか教えていただきたい」
「……冒険者様」
「はい」
「私には強力な幻覚魔術がかけられておりました。私が王子に見える様にという幻術です」
「なるほど。そして、それをおそらくはフィオナちゃんが触れて無効にしてしまったという事ですかね」
「そうですね。そちらの方に触れて、魔術が消えてしまいましたから」
「えっ! えぇぇええ!? わた、私、何もしてませんよ!?」
「いや、俺に心当たりがある」
「あるのぉ!?」
俺は焦り、叫ぶフィオナちゃんの言葉にうんと頷いて、フィオナちゃんが着ているドレスについて説明をする。
「フィオナちゃんが着ているドレスには、あらゆる魔術を無効にする対魔術用の魔術式が装飾の中に組み込まれているんです」
「は、はぃぃいい!?」
「私自身はそこまで魔術に詳しくありませんが、炎や水、風などの基本魔術から、毒や幻術、精神操作などの魔術もそれに含まれておりました。ですから、それが触れた時に発動したのではないでしょうか。フィオナちゃんに触れる事で幻覚魔術がフィオナちゃんに対して強く作用しようとして、それが阻まれた……と」
「なるほど……確かにあり得る話ですね。おそらく触れるまでは視覚や聴覚のみで、触れた事により手に触れる感触を私本来の物から男性らしい物に感覚を変えようとして……それでドレスがそれを阻み、魔術自体を破壊した……と」
ドレスの装飾を見ながら、起きた現象について解説してくれる姫君に、俺はなるほどと頷きながら感謝を告げた。
しかも、姫君は相当魔術に詳しいようで、ドレスの装飾を見ながら、確かに魔術式が刻まれていますね。なんて言っていた。
凄い人なんだなぁ。
「姫君は魔術にお詳しいのですね」
「あ……これは恥ずかしい所を」
「恥ずかしいのですか?」
「王族が魔術を必要以上に学ぶというのは、騎士を信頼していない。魔術師を軽視していると思われてもおかしくはないからな。あまり良くは無いのだ」
「はー。なるほど。面倒なんですねぇ」
王様は俺の思わず出てしまった本音に、奇妙な物を見る様な目で俺を見た。
なんだろうか。
また変な事言ったか?
「冒険者殿は気にらないのか?」
「何がでしょう?」
「王族や貴族……まぁ、護衛対象が魔術を使えることにmだ」
「気にする意味が分からない所ではあるんですけど……」
「ふむ……そうだな。騎士といえば、対象を護ることを己の役目としておる。その為ならば、己はいくら傷つこうと構わない。という名誉ある仕事だ。まぁ、純粋に報酬で働く者もいるが、そういう者はいずれ傭兵などになるだろう」
「はい」
「そんな彼らにとって、対象を護る事が己の誇りなのだ。しかし、王族や貴族が魔術を必要以上に学べば、それは騎士の誇りに傷をつける行為だろう? 信頼しているのであれば、その様な事をする必要はないからだ」
「なるほど。陛下の仰りたい事はよく分かります。しかし、私の考えはやはり違いますね」
「是非聞いてみたいな」
「では失礼して。私は冒険者でありますが、護衛の仕事もします。無論その際には護衛対象に傷一つ付けぬ事が依頼の達成条件でもありますし。私自身の誇りでもあります。だからこそ。私は護衛対象自身が、逃げる手段を持つ事に喜びを覚えます」
「それは何故だ」
「もし、私が勝てぬ相手に襲われたとしても、その方だけは助かるからです。逃げる事が出来る。命を繋ぐ事が出来る。それこそが喜びでしょう? 私が何の役にも立てず死ぬことなど些細な事だ。結果として。その御方が生きる事。それが正しい事なのです」
「……」
「だから、私としては逆に。その御方がその手段を使わねばならない事態に陥ってしまった事態に恥じます。それ以外であれば、様々な事に興味を持ち、熱心な方なのだなと思いますし。私自身、その御方を逃がす為の手段として魔術を学ぶ事もあるでしょう。才能が無くとも、道具でそれを補う事も出来る。生き残る。という最大目標が達成できるのなら、過程や状況なんて、どうでも良いんですよ」
俺は何だか話している内に気分が乗ってしまい、余計な事までペラペラと話してしまった。
相手は王族であるというのに、その考えを真っ向から全否定したのも、良くは無いだろう。
いや、普通に悪い。
最悪じゃなかろうか。
「あー。生意気な事を仰ってしまい、申し訳ございません」
「いや、構わぬ。冒険者として生きる者の意見を聞く事が出来たのは幸いだった。世の中には色々な考えを持つ者が居るのだなと知る事が出来る」
「私の考えが一般的かどうかは、また分からない話ではあるんですけども」
「それはそうだろう。おそらくだが……君がセオストの冒険者だからこその考えだというのは何となく分かる。こちらでは騎士が勝てぬ敵など、それほど出ないモノでね」
「魔物とかも、ですか?」
「あぁ。無論だ。私自身。魔物など久しく見ていない。セオストではそれなりに見るのだろう?」
「えぇ、まぁ。冒険者なら日常茶飯事という所ですし。魔物と称しても良いのか分かりませんが、魔物の肉などは市場で売っていますからね」
「おぉ、流石はセオスト。高級食材が市場で売っているとは」
「魔物の肉って高級食材なんですか?」
「っ、当たり前でしょ」
横に座っていて、今まで黙っていたフィオナちゃんから小声で突っ込みが入る。
あまり常識はずれな事ばかり言っているなよ。という意味である。
「ハハハ! 貴君は相当な腕の冒険者なのだな。魔物の肉が安価に見えるか」
「いやぁ、見えるというか買った事が無いので」
「なに!? 肉を買った事が無い!? では、何を食しているのだ」
「あ、いえ。魔物の肉は食べているのですが、市場で買うより自分で狩って来た方が早いので」
「自分で」
「狩った方が早い」
王様とお姫さまは目を丸くしながら俺の言葉を繰り返していた。
そして、フィオナちゃんからズビシっと突っ込みが入る。
はい。また失言ですね。はい。
「冒険者殿。お名前を伺ってもよろしいでしょうか。差支えが無ければ」
「え、えぇ。無論それは構いませんよ。自分はリョウと言いまして。こちらがフィオナちゃん。可愛い俺の妹で、チームリーダーです」
「リョウさん」
「うぐっ」
「私が一番冒険者として長いので、リーダーやってるだけで、一番強いのはリョウさんです。セオストの新しい英雄って言ったら聞いた事あるかもしれないんですけど」
「おぉー! ありますあります。ありますとも! では貴方がヴィルヘルム殿やアレクシス殿に並び、かのエルネスト様にも届きうるという」
「それはだいぶ盛った話ですが……まぁ、それなりに名前が売れて来たリョウです」
「セオストでは妹狂いで有名なのにね」
「フィオナちゃん。しー。だよ」
俺は何だか久しぶりな対応だなと思いながらテレテレと挨拶するのだった。