寝起きで、小さな子供の様になっているミーシャ様に餌付けをしていた俺であったが。
珍しくのんびりと起きてきたフィオナちゃんに白い目を向けられてしまった。
「何やってるの? リョウさん。そういう趣味?」
「どういう趣味だと思われているのかは分からないけどね。酷い誤解だと思うよ」
「そ」
フィオナちゃんは心底どうでも良いという様な顔で興味なさげに呟いた。
冷たい……。
妹が悲しいくらいに冷たいです。神様。
「ちなみに聞きたいんだけど、どういう趣味だと思ったの?」
「え? そりゃ。好みの人を見つけて子供扱いして楽しむ遊びでしょ? 妹になって貰う遊び、みたいな?」
「そこまで妹に飢えてないよ。俺は」
「そうなんだ。そうは見えないけどね」
見えない!?
そんな事ある!?
いや、妹に言われた言葉を無視する事は出来ないけどさ。
俺にも、守らなきゃいけないプライドって奴があるんだよなぁ。
まぁ、良いけどさ。
「俺の話はまぁ、良いよ。とりあえず、これからの話をしよう」
「これからの話?」
「そう。ミーシャ様は起きているようで、起きてないから、ひとまず起こすか、起きるまで待つかなんだけど」
「別にこのままの状態で歩いても良いんじゃないの? ね? ミーシャさん」
「え? あ、はい~。そうですねぇ~」
「ほら。ミーシャさんもこう言ってるし」
いや、言ってるしって。
この状態じゃあ何を聞いても、頷くと思うんだけど。
「流石に起こした方が良いんじゃないかなぁ」
「でもさ」
「うん?」
「今なら、大幅なショートカットしても、気づかれないんじゃない?」
俺は、流石にミーシャ様が可哀そうだとフィオナちゃんの提案に否定的な立場を取っていたのだが。
フィオナちゃんが少し悪い顔をしながら言った言葉にゴクリと唾を飲み込んで……。
「あっ!」
「どうしました? ミーシャ様」
「え? あ、そ、そうでした。私、昨日旅に出たんでした……。えへへ」
はにかんで笑うミーシャ様に俺も微笑みを浮かべながら頷く。
そして、少し笑っていたミーシャ様であるが、あれ? と首を傾げながら周囲を見渡した。
「えと……? 昨日の場所って、こんな風景でしたっけ」
「違いますよ」
「違う!? な、なぜ」
「何故と言われましても……ミーシャ様が朝起きて、ここまで我々と共に歩いてきたではありませんか」
「えぇー!? 私、自分でここまで歩いてきたのですか!?」
「はい。それはもうテクテクと」
「全然覚えてません……!」
それはまぁ、そうだろう。
何せ、ここまでミーシャ様を連れてきたのは俺なのだから。
半分寝ているミーシャ様を背負い、やや駆け足で街道を進んだのだ。
それもこれも、ミーシャ様に気づかれぬよう、旅の時間を短縮するためだ。
ミーシャ様には悪いが、西側地区はあまり治安も良くないしな。
フィオナちゃんの心労問題もあるし。さっさと駆け抜けてしまう方が良いと判断した。
したのだが……。
「おぅおぅ。すげぇ美人がいるじゃねぇか」
「俺たちにも味見させてくれよ。兄ちゃん」
「ま! そのままくれても良いけどなぁ!」
俺は、『また』現れたゴミ共にため息を吐いた。
騎士の格好をしているが、言動は明らかに騎士ではない。
「リョウさん」
「あぁ。分かってるよ。何度も何度も面倒な話だ」
「え、えと……?」
「さぁー。ミーシャさん。あっちに行ってましょうねぇー」
「え? あれ? リョウ様はよろしいのでしょうか」
「あぁ。問題ないですよ。慣れてますし。今日だけでもう三度目ですからねぇ」
「三回目!? えぇ!? 私、全然覚えてません!」
「まぁ、ミーシャさんが気づく前に全て処理しましたから」
「えぇー!? なんて早い!」
フィオナちゃんが面倒になったのか、非常に適当な事を言ってるのを聞きながら、俺はため息と共に神刀を抜く。
そして、一応騎士の格好をした男たちに警告をするのだった。
「あー。一応言っておきますけど、何もしないというのなら、見逃しても良いですよ。俺は」
「ほざけ!」
「調子に乗ってんじゃねぇぞ! ガキ!」
「はぁ……まぁ、悪党だしなぁ。別に良いか」
俺はちらりとミーシャ様の方へ意識を向け、フィオナちゃんがミーシャ様の目を塞いでいるのを確認してから一人の男の腕に神刀を突き刺す。
痛みを感じるようにと、わざわざ骨を削りながら刺したため、男は一瞬あっけに取られた顔をした後、痛みからの叫び声をあげた。
聞くに堪えない悲鳴だが、まぁ良いだろう。
「さて。次は誰かな」
「ひっ! ひぃ!! いつの間に……何をやったぁ!」
「別に大した事はしてないですよ。持っていた剣を斬り、腕に突き刺しただけ。痛みはあるでしょうが、ちゃんと治療すれば治りますね」
「くっ……! そういう事を聞いてるんじゃねぇ! どうやって、それをやったかって……!」
「聞きたいのなら、もう一度実演しますがね」
俺は突き刺していた神刀を引き抜き、もう一人の方へと近づいて神刀を突き刺す。
先ほど刺した時と同じ様に骨を削る様に、痛みをより与える様に、だ。
瞬間、汚い悲鳴があがるが、まぁ……しつこく何度も来るよりはマシだろう。
一回で、二度と会いたくないと思わせるくらいの恐怖を与えるのが効率的だ。という奴だ。
「で? どうする? 俺はあんまり気が長い方ではないのだけれど」
「うっ……!」
「今すぐに消えるのなら……見逃すけど」
「くそー!!」
神刀を見える様に振り上げ、振り下ろす。
これを繰り返すことにより、奴らは恐怖が限界に達したのか、叫び声をあげながらどこかへと逃げていくのだった。
「……終わった?」
「うん。終わり」
「お、終わりですか。外の世界には怖い人達も居るんですねぇ」
「まぁ、そうですね。でも、全て問題なく終わりましたよ。これで怖い物は何もありません」
俺はミーシャ様にニコリと微笑んで、何も問題は無いのだと告げた。
そして、その日の夜。
俺はたき火の前で、コトが起きるのを待っていた。
静かに目を閉じながら……ただ、待つ。
「……来たか」
俺は神刀を持ちながら暗闇に向かって立ち上がり、おもむろに神刀を抜いた。
そして、暗闇から近づいてくる一団へと近づく。
「昼間は世話になったなぁ! ガキ」
「……一応警告したんですけどね」
「ハッ! ガキが! 調子に乗るんじゃねぇよ!」
「多少強かろうと、この人数を相手に勝てるワケねぇだろうが!」
「ま。この辺りの常識はそうなんだろうな」
「何をごちゃごちゃ言ってやがる!」
「やっちまえ!!」
俺はため息を吐きながら、近づいてくる一人目の首に刃を走らせる。
近づいてきた男を静かにさせてから、次。また次と、言葉を断ち切ってゆくのだった。
「な、なんだ!? 何が起きてる!?」
「忠告はしたんだよ。確かに。俺は」
「おい! お前ら! 誰か返事をしろ!」
そして、残った一人に近づき、その胸に刃を突き立てた。
命を完全に刈り取るために。
「……まったく。どうして毎度毎度。凝りもせずに襲ってくるのかねぇ」
「やっぱり俺が情けない奴に見えるのが問題なのか」
俺は神刀についた汚れを払い、家から持ってきた魔物の骨の砕いた粉を地面にまいて、魔物を呼び寄せた。
この辺りでは魔物の骨粉が珍しいのか、ワラワラと中型と小型の魔物がやってきて、男たちの死体に食いついていた
これで、その内この辺りは綺麗になるだろう。
「さて……そろそろ寝るか」
周囲に魔物が満ちてゆく気配を感じながら、ため息と共にたき火の元へと戻るのだった。
とりあえず明日もミーシャ様が寝ぼけていたら即時撤退だなと考えながら。
「フィオナちゃんじゃないけど……やっぱり、転移で移動するのが一番だったかもしれないなぁ」