ミーシャ様をお連れして、スタンロイツ帝国まで来た俺達であったが、ひとまずスタンロイツ帝国に建てている最中の我が家に泊まる事とした。
だが、まぁ、ミーシャ様が王族であり、更にはその身分を隠しているという話は伝えておくべきだろうと考え、ドロシーさんにそれを伝えようとしたのだが。
「それで……」
「リョウさん」
「は、はい?」
「ひとまず、王族の方を家の中に招きましょう。外に待たせたままというのも問題でしょう?」
「それは、確かに」
「それに。王族の方がお忍び。という情報を頂いただけで、妹たちに任せても大丈夫です。あの子達はそういう方を何度も相手してきましたので」
「な、なるほど」
俺はふわりと微笑むドロシーさんに頷き、フィオナちゃんとミーシャ様の元へと戻った。
そして、家の中に入っても大丈夫だと告げて家の中に案内する。
家の外に出てからすぐに家の中に入った俺であったが、家の中では当たり前の様にドロシーさんが妹さん達を連れながら待っており、ごく自然な仕草でミーシャ様とフィオナちゃんを家の中へと案内していった。
俺は当然の様に行われたソレを半ば唖然としながら見送って、ドロシーさんと共にフィオナちゃん達が向かった部屋とは別の部屋に向かうのだった。
部屋の中に入ったドロシーさんは、先ほどの話の続きを俺が話す前に、今しがた行われた事の話をしてくれる。
「一応。ご説明をさせていただきますと、王族の御方とフィオナさんを同じ様にご案内させていただく事で、王族であるとこちらが悟っていないという様に見せながら、失礼の無い様にご案内をさせていただきました」
「なるほど。流石の手腕ですね。急な訪問だったというのに」
「この程度は大した事ではありませんよ。慣れておりますから」
「それでも。ありがたいと思っていますし。ドロシーさんにしか出来ない事でしたよ」
「あら……ふふ。こうして正面から褒めていただけますと、嬉しいですね」
ドロシーさんは頬を朱色に染めながら微笑みを浮かべた。
そして、ドロシーさんからの話も終わったという事で、改めて今回の事情を話す。
「それで……今回の事情についてお話させていただくのですが……これから話す事は口外しない様にお願いします」
「はい」
「あ、でも……必要だと判断したら、ドロシーさんの方から伝える事は『家族』に伝える事は問題ないです」
「……一応お聞きしたいのですけれど」
「はい。なんでしょうか」
「その……家族というのは、どの辺りまでを含む物なのでしょうか。ミリーやパメラまででしょうか」
「いや。ドロシーさんが家族だと思っている子は全員ですよ。同じ家に住んでいる、ドロシーさんが大切な子。全員ですね」
「……なるほど」
「伝えていないと不都合もあるでしょうしね。その辺りの判断はドロシーさんにお任せします」
「ありがとうございます」
「あ。でも、何か問題が起きそうなら言って下さいね。解決するなら早い方が良いですから!」
「その際には、よろしくお願いいたします。無論、その様な事は決して起こさない様にしますが」
「そこまで気を張らなくても大丈夫ですよ。起きてしまう事はありますし。起きたからと言って責める様な事もありませんし。家族なんですから。問題が起きたら一緒に解決しましょうね。くらいのお話ですから」
「……本当に」
「うん?」
「リョウさんは甘い果実のようですね。油断していると、堕落してしまいそうです」
「えぇ!?」
なに?
俺って、そんななんかヤバイ物かなんかなのか!?
はじめて言われたけど!? そんな事!!
「まぁ、リョウさんのお話は、良いでしょう。それよりも……事情を聞かせていただけますか?」
「え? あ、あぁ……そうですね」
俺は納得できない所がありつつも、ドロシーさんの言葉に頷いた。
そして、ミーシャ様についての話をし始める。
「実はミーシャ様は、デパルダム王国という国の王女様なんですね」
「デパルダム王国……ですか。しかし、かの国に王女が居たという話は聞きませんが」
「王子殿下と双子、という事で隠されていた存在なんです」
「……! 双子、ですか」
「えぇ。ドロシーさんは双子の呪いについて何かご存じで?」
「はい。存じております。双子という存在は災いを招く為、同じ家で育ててはならないと」
「ご存じでしたか。それで……ミーシャ様。という姫君は、外に出る事無く兄のフリをしながら生きていた様です」
「そういう事でしたか。それで、リョウさんが外の世界を見せようと?」
「まぁ、そんな所ですね」
理解の速いドロシーさんに、ハハハと頷きながら同意した俺であったが。
ふと、奇妙な事に気づいた。
双子の呪い。
それは、双子が生まれ、同じ家で育つ事で呪われて、様々な不幸に巻き込まれるという物であるが。
何故、ミーシャ様には何も起きていないのだろうか。という疑問だ。
もし、呪いの原因が世界にあるのなら、いくら見た目を誤魔化した所でどうにもならないだろう。
彼女は多くの不幸に襲われていた筈だ。
しかし、そうはなっていない。
何故か。
もしかして……呪いというのは世界が起こしているモノではなく、人が起こしているモノなのでは無いだろうか。
人だから、観測できない所に呪いを起こす事が出来ない。
彼女はデパルダム王国の王女として生まれた。
であれば、生まれた時から徹底的に隠す事は可能であっただろう。
現にデパルダム王国をよく知る人達でも、彼女の存在を知る者は居なかった。
殆ど、ではない。完全に、一人も居なかったのだ。
それだけ徹底的に隠していたからこそ、呪いが彼女に何もしなかった。
いや、出来なかったのではないだろうか。
……。
「リョウさん?」
「あ、っと。すまない。ちょっと考え事をしていました」
「考え事、ですか?」
「えぇ。まぁ。大した話では無いんですが……少し、思いついた事がありまして」
「……?」
不思議そうな話をしているドロシーさんに微笑みを返し、ひとまず誤魔化してからこれからのことについて相談をする。
「それで、ですね。ミーシャ様に外の世界を楽しんで貰おうかと思っていたんですけど」
「いきなり外に出て行くのは不安、ですか?」
「まぁ、そうですね。一応、スタンロイツ帝国までは街道を歩いて来たのですが、それはそれとして、無理に外へ出るのも危ないでしょう?」
「はい。そうですね。呪いの件もありますし。まずは屋内で外の事を学ぶのも良いかと思います」
「そうですね。それで……」
「シーメル王国まで行くつもり。という所でしょうか?」
「まぁ、そうですね。今地下に外と同じ景色があるのは、シーメル王国だけですから」
「いえ。そういう事であれば」
「うん?」
「作っておいて良かったです」
ドロシーさんは大きく頷くと、家の図面を持ってきて俺とドロシーさんの間にあるテーブルに広げた。
そして、地下を指さして微笑む。
「スタンロイツ帝国に来て、現地の方と色々とお話をしまして、冬の話を聞いたんですね」
「冬……あぁ、雪で閉ざされてしまうという事ですか?」
「はい。それで……私達もこの家の中で過ごす事になりますので、飽きない為に地下に外と同じ環境を作る事にしたのです」
「なるほど」
「まだ、未完成ですし。リョウさんにご相談しなければいけない事も多くありますが、それでも、十分に外の世界を堪能できるようにはなってますので、良ければ御覧になりますか?」
「是非」
伺う様に尋ねて来たドロシーさんに頷き、俺はドロシーさんと共に地下へと向かう事にした。
が、最初に考えていたよりも地下の施設はしっかりとしており、広がる空間は酷く落ち着いていて、大人な場所であった。
アスレチックをメインに考えていたシーメル王国とはまた少し違う。
「どうでしょう」
「えぇ。素晴らしいですね。俺が考えていたよりも、ずっと良い雰囲気だ」
「そう言っていただけますと、嬉しいですね」
そして、はにかむドロシーさんに応えつつ、ドロシーさんに許可を貰って地下へミーシャ様をご案内するのだった。