ドロシーさんからの提案を受け、俺は未だ未完成だというスタンロイツ帝国の家の地下へとミーシャ様達と向かった。
どういう場所が広がっているのか分からないが……まぁ、ドロシーさんなら妙な物を作らないだろうという信頼はある。
短い付き合いではあるが、軽く話をしただけでもその人となりというのは分かるものだ。
そういう意味で考えればドロシーさんは非常に信頼できる人である。
「おぉ……!」
そして、その信頼を胸に地下へと向かってみれば……。
そこには俺が作った地下とは、まるで違う景色が広がっていた。
「こ、ここが地下……なのですか?」
「えぇ。間違いなく」
驚き声を漏らすミーシャ様に俺は素直に頷いて言葉を返した。
気持ちはわかる。
俺もある程度の知識が無ければ疑っていたところだろう。
「ではリョウさん。お客様。地下施設をご案内させていただきます」
そして、驚く俺たちの前でドロシーさんはしっとりと微笑みながら軽く頭を下げた。
その姿は非常に完成されており、人と接するのが得意だと言っていた彼女の言葉がよく分かるようであった。
「では、端から順番に」
「は、はい」
「まずは入ってすぐ右手ですね。こちらは森林スペースとなっておりまして。設定により春夏秋冬を楽しむ事が出来る様になっております」
「おぉ……」
「森林の中には風景を楽しめる様な小さな小屋。それにリョウさんのお話を聞いて作った温泉などがありますね」
「温泉があるという事は?」
「はい。四季折々の景色を楽しみながら温泉に入る事が出来ます」
「ひぇー。それは贅沢だなぁ。凄い」
俺もシーメル王国に森を作ったが、あくまで遊びの場所として作ったのだ。
しかし、ドロシーさんは大人の憩いの場所として作っていた。
素晴らしい事である。
「遊具等はありませんが、本を読んだりお茶をしたり。お話をしたり。様々な用途で使用できると考えております」
「なるほど」
「子供の遊び場はリョウさんが既に素晴らしい物を作っておりますから、後追いはせず、私たちが思いつく良い場所をイメージしました」
「そんなに持ち上げられると照れますけどね」
「ふふ。私は素直に思った事を言っているだけですよ」
何とも恥ずかしいことを言いながら微笑んでいるドロシーさんに頷きながら、次の場所へと向かう。
「次にご案内するのは、買い物を疑似的に楽しむ事の出来る場所ですね」
「ほぅ?」
「と、口で説明しても難しいかと思いますので、実際に見てみましょう」
ドロシーさんに案内されるまま森の奥に向かうと、そこにはいくつかの店が立ち並ぶ商店街の様な場所があった。
店先には商品が並べられており、店員として立つ場所もあるようだった。
「これは店員さんごっこ的な遊びが出来る場所でもあるんですかね?」
「そうですね。その様に遊ぶことも無論可能です」
「なるほど」
「大人ぶっていても、喫茶店の店員として働いてみたいという様な夢はもっておりますから……なんて、少々子供っぽかったですか?」
「どうでしょうか。俺は良いと思いますけどね。どんな夢を抱いていても、それが誰かを害さないなら良い夢ですよ」
「ふふ。ありがとうございます。では次が最後ですね」
ドロシーさんは微笑みを浮かべたままさらに奥へと進み、俺たちは何もない空間へと足を踏み入れた。
周囲を見渡してみるが、真実そこには何もなく……ただどこまでも広がる白い空間が存在していた。
「ここは……?」
「ここは何でも出来る場所なんです」
「なんでも?」
ドロシーさんは例えば、と言いながら俺に近づいてきて腕に抱き着く。
そして、白い空間を歩きながら流星祭りと呟いた。
その瞬間、先ほどまで何もなかった空間に人や出店が溢れ、周囲は世闇の世界に包まれた。
「おぉ……」
「リョウさん。空を」
「空……? あぁ、流れ星が」
「えぇ。美しいでしょう? 私が子供の頃に見た、美しいお祭りの景色なんです」
どこか寂し気な顔でドロシーさんは呟き、俺はドロシーさんと共に幾多の流星を見上げた。
それはどれだけ見ていても飽きない光景であり、いつの間にか置かれていた椅子に座って、ドロシーさんと思わず眺めてしまうのだった。
しかし。
「リョウさん!」
「あ、はいはい。何かな? フィオナちゃん」
「今、ミーシャさんをご案内してるんでしょ。何一人で楽しんでるの」
「そうだよね。ごめん。ごめん。ミーシャ様も、申し訳ございません」
「いえいえ。構いませんよ。この様に凄い場所ですもの。楽しんでしまうのは仕方のない事です」
「そう言っていただけると……」
「リョウさん?」
「はい。反省しております」
俺はフィオナちゃんとミーシャ様に申し訳ございません。と謝罪してから立ち上がった。
そして、ミーシャ様に感想を聞くことにする。
「ミーシャ様。いかがですか? ここは……って、言っても俺が考えた場所ではないんですけど」
「はい! とても素晴らしい場所だと思います。本当に外に居るみたいで、不思議な場所ですね」
「元は、外で遊べない子供の為にってリョウさんが作ったんだよ。シーメル王国にある方の奴だけど」
「子供の為に! リョウ様は本当に素晴らしい方なのですね」
「いえいえ。そんな事はありませんよ。ただ、いつも通り妹に狂ってるだけで」
「ふふ、そうですか?」
「えぇ。俺は何も変わってませんとも」
自らを誇りながら俺は大きく頷いた。
笑いどころでもあるし、過剰な持ち上げから逃げる為でもある。
「では、そういう事にしておきましょうか」
「それでお願いします」
と、ミーシャ様と微笑み合って、ひとまずの地下案内を終わらせた。
そして、再び一階に戻ってきた俺はこれからの事について話をする事にする。
「さて。ではこれからどうしましょうか」
「どの様な選択があるのでしょうか」
「そうですねぇ。シーメル王国に向かうか。セオストに向かうか……はたまたスタンロイツ帝国で活動するか。などがあります。まぁ、一度家に帰るという選択も実はあるんですけど」
「最後は却下ですね。せっかくここまで来ましたのに、それは少々悲しいです」
「なるほど」
「じゃあ、シーメル王国か、セオストか?」
「この家はいけないのでしょうか」
ミーシャ様が首を傾げながら問うた質問にフィオナちゃんがぐっと言葉を詰まらせてしまう。
そして、少し考えてから口を開いた。
「で、でも……ここはまだ未完成ですし」
「あら。大丈夫ですよ。既に地下と一階の個人用スペースは完成しておりますし」
「うっ……!」
「それに、リョウさんが泊まる用の場所も、お風呂も何もかも用意は出来ていますから。何も問題はありません」
「そ、そうかもしれないですけど。シーメル王国もセオストも結構いい場所で」
「あら。シーメル王国は内乱が起きたばかり、セオストはリョウ様と衝突したと聞いておりますが」
「ぐっ」
「トラブルを考えるのなら、安定しているスタンロイツ帝国が最適かと思います」
「で、でも……!」
「それほどシーメル王国やセオストが恋しいのなら、貴女だけ帰れば良いではありませんか」
「出来るワケ無いでしょ!? そんな事!」
「なら、決めるのはリョウさんです」
「いや、決めるのは俺じゃなくてミーシャ様ね」
俺はドロシーさんの言葉にサクッと否定を返す。
そして、ミーシャ様へと目を向けた。
しかし、ミーシャ様はアッサリと俺に投げ返してきてしまう。
「申し訳ございませんが、私は各場所に詳しくありませんので、リョウ様にお願いしますね」
「え」
「だって」
「どうされますか? リョウさん」
予想外に投げ返されてしまい、俺はうーんと唸りながらどうするべきか考えるのだった。
そして、ひとまず逃げる為の手を打つ。
「ま、まぁ。とりあえず今日はここに泊まって、また明日考えよう」
「……逃げた」
フィオナちゃんの白い眼を受けながら。