スタンロイツ帝国に出来た新しい家に泊まる事になった俺たちであるが。
泊まるにあたり、一つの問題が発生していた。
「部屋なら俺は適当で良いよ」
「そういうワケにはいきませんわ。ここはリョウさんの家。つまり、この家の主はリョウさんなのですから」
「俺はあんまりこだわらないけどね」
ドロシーさん達、この家に住んでいる彼女たちから強い要望があり、この家の中で最も豪華な部屋に泊まってほしいと言われてしまった俺であるが、正直な所、部屋の豪華さにはあまり興味がない。
興味はないが……是非にと言われてしまえば断るのも難しい。
というか。
人の好意を踏みにじるのは好きじゃないのだ。
「まぁ……じゃあ、一応その部屋で泊まろかな」
「ありがとうございます」
「うん。それで……まぁ、俺の部屋は良いんだけど。ミーシャ様とフィオナちゃんの部屋はどうしましょうか」
「私はどの様なお部屋でも構いませんが……」
「同じく」
「ではお二人にも最高級の部屋をご用意させていただければと……」
ドロシーさんがポンと手を叩きながら提案しようとした事であるが、俺はうーんと考えながらそれを否定する。
申し訳ない事ではあるのだけれど。
「いや。ドロシーさん。やっぱり俺の部屋もミーシャ様の部屋も大丈夫だ」
「大丈夫、というのは?」
「用意しなくても良いよ。って話」
「部屋をご用意、しない……?」
ドロシーさんは心底意味が分からないという様な顔で首を傾げていたが、俺はミーシャ様に微笑みかけて、一つの提案をする事にした。
「ミーシャ様。どうせなら、普段寝る事の出来ない場所で、寝ませんか?」
「え?」
驚きと期待。
不安よりも、ワクワクが強いという様な顔でミーシャ様は俺を見上げた。
そして、俺はミーシャ様を連れて地下へと向かい……例の白い何もない場所へと向かう。
「では、今日はここでテントを張りましょうか」
「えぇー!? 家の中で、テント!?」
「まぁ、家の中って言ってもさ。景色は外なワケだし。楽しいんじゃない?」
「楽しいかなぁ……?」
不安そうな顔をしているフィオナちゃんに笑みを返し、どこかオロオロとしている様子のドロシーさんに語り掛ける。
「ドロシーさん」
「は、はい!」
「この映像を映す魔導具なんですけど、外の景色を映す事が出来たりはしますか?」
「え、えぇ。無論出来ますよ。現在のスタンロイツ帝国を映す事も可能です」
「それって、どの程度の範囲まで出来ますか?」
「えー。少々お待ちくださいね。確か設定が……」
「急がなくても大丈夫ですよ」
「は、はい。えと。はい。分かりました。魔力を通じて景色を収集出来ますので、およそ徒歩で半日分くらいの場所であれば、その景色を映す事が出来ます」
「なるほど。じゃあ、街道の辺りにある草原の景色を出せますか?」
「はい。出来ます」
そして、ドロシーさんは街道の近くにあった何もない草原を映してくれる。
確かにそこは俺達が歩いてきた街道の近くで……下には草原。遠くにはスタンロイツ帝国の灯り。空には無数の星々が輝いていた。
「うん。こんな感じかな」
「リョウさん? これから何を始めるの?」
「キャンプ」
「キャンプぅ?」
「そう。キャンプ」
「キャンプって、外で寝るって事でしょ? でも、それって今までもやってたじゃない。ここに来るまでさ」
「確かにね。でも……ここに来るまでは、やっぱりどこか緊張感があったでしょ? 魔物に襲われるかもしれないし。危険な人間に襲われたりさ」
「それは……まぁ、確かに」
「だからこそ。安全な場所で、景色を楽しみながら寝るっていうのも良いんじゃないかって思うんだ」
「ふーむ。確かに言いたいことは分かるけど、それって本当に面白いの?」
「さて。どうでしょうか?」
俺はフィオナちゃんのジト目を受けながら、ミーシャ様に視線を送った。
ミーシャ様はワクワクとした様子を隠すことなく様々なキャンプ道具を見て、ふら……ふら……と小さく動いている。
「ミーシャさん?」
「あっ、わ、私は、とても良い案だと思いますが……!」
ワタワタと寝袋を持ちながら振り向いたミーシャ様は大変俺の提案をワクワクしている様に見えた。
なので、俺はどうでしょうか、とフィオナに顔を向けるのだった。
「はいはい。分かった分かった」
「ふふん」
「もう良いって。はいはい」
フィオナちゃんは俺に向かって手を振り、話を終わらせるとミーシャ様の元へと向かった。
そして、寝袋を抱きしめているミーシャ様に語り掛ける。
「えーっと、では、今日はこちらで?」
「はい。問題が無ければ!」
「まぁ、問題はありませんよ。じゃあテント作っちゃいますね」
「ちょーっと待ったぁ!」
「今度は、なに?」
「準備はミーシャ様がやる方が良いのではないかね!?」
「はぁー?」
「わ、私はとても良い案だと思います! 自分で寝る場所の準備は自分でやるべきですよね!」
「そうですね」
「はいー!?」
フィオナちゃんの混乱をよそに、ミーシャ様はワクワクといった様子でテントの機材へと向かって行った。
そして、その反応にドロシーさんも気づいたのだろう。ニコニコと笑顔のままミーシャ様に近づいて行って……俺の方へチラリと視線を向ける。
まぁ、おそらくはフィオナちゃんにちゃんと説明をしてあげて。という事だろう。
というワケで、俺はフィオナちゃんをミーシャ様から少し離れた所へと呼び、小さな声で話しかける。
「フィオナちゃん」
「なに?」
「ミーシャ様のこと」
「まぁ、それは分かるけど。それで? なに?」
「ミーシャ様はさ。ずっと城の中に居たわけでしょ?」
「そうだね」
「それに、ミーシャ様は隠してはいるけど、お姫様だった訳だし。あまり多くの人にバレてもいけないから静かに何もせずにお城の中で過ごしてたんじゃないかな」
「……まぁ」
「だからさ。こういう、なんだかよく分からないモノ。面白そうなものは自分で触れて、自分でやってみたいんじゃないかなって思うんだよ」
「でも、面倒だよ? テントを作るとかもさ」
「それでも。今まで何も出来なかった分。今は何をやっても楽しいんだよ。だから、色々な事をミーシャ様が体験出来る様にする方が良いんじゃない? って」
「うーむ。なるほど」
「どうでしょ。なんか違うよ。っていう所、ある?」
「いや、無いけど……無いけど!」
「うん?」
「なんで、リョウさんがそういう事に気づいたのか。は気になる」
ジーっとフィオナちゃんに見つめられ、俺は少し前の事を思い出しながら口を開いた。
「桜がそうだったからだよ」
「サクラちゃん?」
「そう。セオストに来る前の桜はさ。体が弱くて、やりたい事は何も出来ない状態だったんだ。お風呂も食事も一人じゃ出来ないくらいだった」
「……」
「だから、セオストに来て、色々な事が出来るって凄い楽しそうだったんだよ。だからさ。もしかしたらミーシャ様も同じなんじゃないかって思ってね」
「なるほどね……そっか。確かにサクラちゃんも同じ感じだったね」
フィオナちゃんはどこか懐かしい物を見る様な目でミーシャ様を見ながら小さく頷いた。
そして、目を伏せながらハァとため息を吐いた。
「……むー」
「どうしたの?」
「なんか、悔しい」
「悔しい?」
「リョウさんは気づいたのに、私は気づけなかったから……悔しい」
フィオナちゃんはぶすーっと頬を膨らませながら不満を示していて。
俺はそんなフィオナちゃんを見ながらフッと思わず笑ってしまった。
「ちょっとー。笑わないでよ」
「いやいや。ごめんごめん」
「笑う所じゃないんだけど!?」
「分かってるよ。ハハハ」
今日も今日とて、妹は可愛いなぁ。
と、俺は噛みしめながらフィオナちゃんの拳を受けるのだった。