妹の願いなら大抵察しがつく俺の妹センサーにより、ミーシャ様が望んでいる事を正確に理解した俺は、ミーシャ様自身が行うキャンプを提案し、フィオナちゃんを含めた全員から受け入れられた。
無論、それはミーシャ様自身も同じである。
そして、方針は決まったため、俺はミーシャ様のテント構築を見守りながら、ミーシャ様が中心で動けるようにとサポートしつつ動くドロシーさん達と、方法を教えながら一緒にテントを組み立てているフィオナちゃんを見守るのだった。
美しい光景だ。
やはり妹が喜んでいる姿というのは世界の何よりも美しい物である。
「な、なるほど。ココとココを組み合わせて、骨組みにするのですね」
「そういう事です。そして後はグイっと上に持ち上げて……」
「おぉー! テントになりました! テントです!」
ミーシャ様はテントが出来上がった事に喜び、飛び跳ねながら笑った。
楽しんでいただけて何より。という気持ちだ。
「これで寝るところは完璧ですね」
「えぇ、そうですね! ……? あ!」
「どうしました?」
「いえ……皆さんで眠るには少々狭いような」
「あー、それなら俺は別の所で寝ますし。ドロシーさん達も……」
俺が大きさについては問題ないと言おうとした時、ドロシーさんに言葉を被せられてしまう。
「リョウさん」
「え? あ、はい」
「せっかくですから、皆さんで寝ませんか? 寝袋はありますよね?」
「え、えぇ。それはまぁ。人数分ありますけど」
「では問題ないでしょう。その方がミーシャ様も楽しいでしょうしね」
「そうですね! 皆さんとご一緒出来ましたら、とても楽しいと思います」
「あぁ……なるほど」
俺はドロシーさんとミーシャ様の言葉に、納得して頷いた。
妹センサーはまだまだの様である。
「では、誰が寝袋で寝るか。それは後で決めるとして……寝る所の設定はこれで大丈夫ですね」
「はい」
「じゃあ、次はどうしますか? ご飯にはまだ早いですし」
「それはもう。お風呂に入るしかないでしょう!」
「えぇー!? まだ早くない!? 日も随分と高いけど」
「大丈夫ですよ。地下は温度が一定で保たれていますし。風邪をひく心配はありません。この場所は常に快適に過ごせる様になっていますから。例えば裸で一日居たとしても影響は無いです」
「裸で居て大丈夫なワケ無いでしょ! リョウさんだっているんだよ!?」
「例えば。の話ですよ。それとも、何を想像されたんですか? クスッ」
「べ、別に!? 何も想像してませんけど!?」
フィオナちゃんは焦った様な顔で俺とドロシーさんを交互に見ながら叫び声を上げた。
まぁ、別にフィオナちゃん達が裸で過ごしたいのなら、俺は目隠しをして過ごすか、ここを出て入口で警護をするだけだが。
俺の事は気にしなくても良い。
と思いつつも、それを口にする事は無い。
それはあまりにもデリカシーの無い行為だからだ。
今はただ、流されるままに、流れに流されるだけだ。
「なんか言ってよ!」
「俺は妹の決定が全てだから。過ごしたい様に過ごして欲しいと思っているよ。必要であれば出て行くし、目も塞ぐけど」
「やるワケないでしょ! バカ!」
俺はフィオナちゃんに罵られながら、妹は今日も可愛いなぁと心の中で呟いた。
まぁ、いつもの事。なワケだが。
「ま、まぁ……落ち着いてください。私も流石に裸というのは恥ずかしいですから」
「で、ですよねぇ!」
「はい。それに……私、前からやってみたかった事があるんです!」
「やってみたかった、こと?」
フィオナちゃんが首を傾げながら問うた質問に、ミーシャ様はコクリと頷いてから深呼吸をして口を開く。
「私。ガールズトーク。という物をしてみたかったのです!」
「ガールズ、トーク?」
「はい。パジャマパーティという名前だったかもしれません。どなたかの家に集まって、寝巻で色々なお話をするんです。私はそのパーティに参加してみたくてですね……」
「なるほど」
「良いのではないですか? まぁ、私はガール。という様な年ではありませんが」
「あ、いえ! ドロシー様もお美しい女性ですから。是非とも色々なお話を聞かせていただければと」
「あら。そういう事でしたら私も参加させていただきましょうか」
「フィオナさんも、いかがでしょうか?」
「私も大丈夫ですよ。面白そうですし。リョウさんはどうする?」
「俺はガールじゃないからね」
「まぁ、確かに。でも、別にガールになれば良いんじゃないの?」
「随分と無茶を言うね。フィオナちゃん」
「え~。妹の願いを叶えるのがお兄ちゃんって聞いてたからさぁ」
いたずらっぽくフィオナちゃんが笑い、俺は腕を組みながらふむ……と考える。
確かに一理ある話だ。
いや、妹の話なのだから一理どころか二理も三理もあるだろう。
「そうだね。じゃあそうしようか」
「え! ほ、本気で?」
「あぁ。兄に二言は……いや。お姉ちゃんに二言は無いですよ」
「その姿でやめてください! 小さい子が悪い夢を見ちゃいますから!」
「そこまで言わなくても良いのでは……?」
ちょっとだけショックを受けてしまいましたよ。
俺は。
まぁ良いけれども。
「その姿で……という事でしたら、姿を変えてはいかがでしょうか?」
「うん? それはどういう事でしょうか?」
「リョウ様はお忘れかもしれませんが、私は幻覚魔術が使えるのですよ」
「あ……あぁー」
俺はミーシャ様の言葉に、あー。とミーシャ様が使っていた魔術の事を思い出し、声とも音とも分からない様な声を漏らした。
それは、この身がこれから受けるであろう災厄に関して予感を受けてしまったからか。
もしくは、本当に頭の隅にミーシャ様の情報を置き忘れてしまった事を恥じたからか。
まぁ、両方かな。
「という事は……ミーシャさんの魔術を使えばリョウさんが女の子の姿に?」
「はい! 勿論見た目だけ変えてもリョウ様はリョウ様ですので、一緒に寝るのは嫌だという方がいれば問題かと思うのですが」
「まぁ、それは……」
「私たちは問題ありませんよ。リョウさんが男性のままでも問題ないと思っておりますし」
「まぁ、私はそもそも一緒に旅してたし。ミーシャさんが居ないときは同じテントで寝てたし。そもそも同じ家に住んでるし」
「では、皆さん問題ないという事ですね!」
キラキラと輝く様な瞳でミーシャ様は両手を軽くたたいた。
その喜ばしい様子に、俺から言える事など何もない。
あぁ。何もないとも。
「あ。私ってば、一番大切な人に聞くのを忘れておりました」
うっかりしていたという様な顔で、ミーシャ様は俺の方に顔を向けた。
が、そのニッコリとした表情はよく知っている。
よく分かっているとも。
それは妹が兄に甘える時の表情だ。
「多分だけど……その質問は意味がないと思いますよ?」
「あら。そうでしょうか?」
「えぇ。俺も兄として生きて長いですからね。俺の数少ない自慢の一つに妹のお願いを断った事は無いという事がありまして」
「ふふ。本当にお兄様とそっくりですね。リョウ様は」
「まぁ、確かに。似ているところがあるかもしれませんね」
俺はミーシャ様に微笑みを返し、ミーシャ様も俺にニッコリと微笑んだ。
そして、ミーシャ様は妹らしい甘く、可愛らしい声で俺にお願いをするのだった。
「お願いします。リョウお兄様。私。女の子だけのパジャマパーティというものがしたいのです。どうか女の子になっては下さいませんか」
「ミーシャ様、可愛らしい妹姫。その願いに対する私の回答は、無論……分かりました。だけですよ」
こうして、俺は女の子となり、妹だらけのガールズトークパジャマパーティに参加する事となったのであった。
妹が幸せならば、それが最も良い事である。