ミーシャ様のご希望により、皆でパジャマパーティーを行う事となった。
素晴らしい事である。
そして、夜になるとすぐに寝てしまうというミーシャ様のご希望により、我々は早い時間から夕食の準備を始め、風呂にも入れるようにと準備をするのだった。
「しっかし。お昼ご飯を食べる前に夕飯の仕込みをする事になるとは思わなかったな」
「食堂ではあったんじゃないの?」
「ないよー。夜の仕込みはお昼ご飯の行列が無くなって、暇になってからやるから。お昼ご飯も一緒。朝の行列が無くなったらやるの」
「という事は朝の仕込みは夜の行列が無くなってから?」
「いや、朝は早朝だね。朝食はそこまで仕込む物が無いからさ。軽食ばっかりだったし」
「それでも……大変だねぇ」
「ま、ね。でも、慣れればそんなでもないよ。私は結構好きだし」
何でもない事の様に野菜を包丁で切りながらフィオナちゃんは呟く。
俺は野菜の皮むきをしながら、そんなフィオナちゃんに話しかけるのだった。
「フィオナちゃんはさ」
「うん?」
「料理人になりたいなー。って思った事はないの? 食堂は料理人っていうよりも、接客が中心でしょ?」
「まぁー。無いと言えば嘘になるかな」
「ほぅ」
「私もリリィもさ。冒険者としての腕はイマイチだし。料理を作っている方が色々な人に喜ばれるし……こっちの方が良いんじゃないかって何度も話し合ったよ」
「……そうなんだ」
「うん。リリィはね。多分、あんまり冒険者が好きじゃなくてさ。まぁ、あの子って優しいし、怖がりだし。私に付き合って無理に冒険者をしていた感じだったしね」
「えぇ!? そうだったの!?」
「そんなに驚くー? あー、でも……そっかぁ。確かにリョウさんやサクラちゃんと出会ってからのリリィは結構明るかったし。そうは見えなかったのかな」
「まぁ……そうだね」
正直な所。
リリィちゃんの実力ならセオストで会う魔物程度なんて事は無いだろうからな。
何をそんなに怖がっていたのだろうか。
「実はさ。私達って何度も死にかけた事があったんだよ。森の奥で凄い怖い魔物に襲われてさ。必死に逃げて、迷って……」
「今、無事だったから大丈夫なんだろうけど……よく無事だったね」
「あー。うん。それが……って、なんか、今思い出すと、アレってリョウさんがやってたんじゃないでしょうねー?」
「うん? 何の話?」
「しらばっくれても、私。全部分かってるんだからね」
「いや、本当に分からないんだけど」
「えー? ホントにー? じゃあ別の人だったのかなぁ」
フィオナちゃんはうーんと唸りながら、昔を思い出すかの様に人差し指で軽く円を描いて、俺に言葉を向けた。
「森の奥で怖い魔物に襲われてさ。逃げて逃げてってやってると、いつも途中で魔物が殺されてたんだよ」
「……へぇ」
「しかも、リョウさんが倒した時みたいに、首がグイーって切られてて。他に大きな傷が無かったし。サムライの人がやったみたいな感じの傷だった」
「なるほど」
俺は目を伏せながら、魔物を殺したであろう少女を頭に思い浮かべつつ、話を聞く。
「……やっぱり、リョウさんがやってたんじゃないの? コッソリと後ろを付いてきててさ。危なくなったらグイーっと」
「いやいや。まさかだよ。偶然じゃない?」
「そんなワケない! 一回や二回じゃないんだよ!? いーっぱいあったんだから」
「という事は、いっぱい危険な事をしたって事かな?」
「うっ……! い、今はその話、関係ないじゃん」
フィオナちゃんはワタワタと慌てながら話を逸らそうとしていった。
しかし、俺はフィオナちゃんという危険に容易く首を突っ込む妹をジト―っとした目で見るのだった。
「ま、まぁ。昔の話だから。今はもうやってないし」
「そうだと良いけどね」
「そこはほら。今はリョウさんがお金を稼いでくれるし。私もリリィも生活に困ってないしね?」
「ふむ。やはり金。金か……もっと稼がなきゃいかんかな」
「今でも十分以上に稼いでるんだけどね。普通の冒険者は大金入ると休むのに、リョウさんは一切休まないから」
「稼げる時に稼がないとね」
「さようでございますか……」
フィオナちゃんはハァとため息を吐いてから、続く話を語ってくれた。
「まぁ、そんなでさ。昔は何度かピンチになったんだけど。どこかの誰かのお陰で命拾いをしてたってワケ」
「なるほど」
「でも、魔物がどうなったか確認しに行くのはいつもリリィでさ……まぁ、リリィが隠密魔術? っていう魔術が使えるからっていうのが理由なんだけど」
「うん」
「それで……魔物が殺されてるのをいつもリリィが見つけてて、私が殺されてる魔物を見下ろしてるリリィを見つけて声をかけると、ビクッと震えてさ。凄い怖がってる感じだった。それで……あぁ、この子は冒険者に向いてないんだなぁって」
「なるほどなぁ」
まぁ、怯えていたのはフィオナちゃんに自分が強いという事を知られるのが怖かったのだろうと思う。
親友に隠し事をしていた。というのもそうだが。
フィオナちゃんの性格的に、リリィちゃんが強いと分かれば無謀な依頼に突っ込みそうだし。
そうなったらフィオナちゃんは死んでしまうかもしれない。
そう考えてリリィちゃんはいつも怖がっていたのだろう。
「なるほど」
「なーに、何度も頷いてるのさ」
「色々と深い話だなぁと思ってさ」
「そんなに?」
「まぁ、そうだね。人間関係という奴は複雑だ」
「それをリョウさんに言われると、ホント、何だかなぁーって感じなんだけどね」
呆れたようなフィオナちゃんの言葉に、俺は苦笑を返しながらふと思った事を口にして話題を逸らす事にした。
「あー。そう言えばさ。さっき話してた話。料理人になるかどうかって話は……なんで止めちゃったの?」
「……話、そらした」
「ま、まぁまぁ。ほら、今はそっちの方が気になっちゃってさ」
「ふーん。まぁ良いけど。料理人にならなかった理由なら簡単だよ」
「うん?」
「お金が無かったの」
「お金が無いって……どこか食堂とかで働けば良いんじゃないの?」
「普通の店は家族とかでやってるから。外から人なんか雇わないの」
「そうなんだ」
「そう。だから、自分の店を持つしかないんだけど。お金が無いからさ。出来なくて……だから食堂で働きながら、いつかを夢見て料理の腕を上げていたというワケですね」
「なるほど」
思わず呟いた言葉通り、なるほどな理由であった。
しかし、そう考えると実はフィオナちゃんは自分の店を持ちたいのではなかろうか。
「ふむ」
「なんか今、悪い事考えてるでしょ」
「悪い事なんて考えてないよ。料理屋さんを開くならどこの国が良いかなって考えてた」
「悪い事じゃないのー!」
「えぇー!? でも、フィオナちゃんも自分のお店を持ってみたいよね?」
「そりゃ、みたいかって言われたら持ってみたいけどさ。勿体ないでしょ。お金が」
「そこはどうでも良いよ。大事なのはフィオナちゃんがどうしたいか」
「いや、どうでもよくは無いでしょ。どうするの? ずっと赤字だったら」
「特に問題はないかな。俺が稼げばいいし」
「ハァー。また甘やかし。ヤダヤダ。これだから妹にベタ甘なお兄ちゃんは」
「良いだろ? 俺は妹の夢をかなえるのが好きなんだ」
「悪いとは言わないけどね。良いとも思ってはいないよ」
「そうなの?」
「……だって、際限なく甘えちゃいそうだし」
「そうしてくれるのが俺の夢なんだけどね」
「ロクな夢じゃないね」
「そうかな。俺にとっては最高の夢なんだけど」
「ロクな夢じゃないよ……ホント。なんか、自分がどんどん我儘になっちゃう」
「良いんじゃないの? いっぱい苦労してきたんだ。少しくらい我儘になったって」
俺は目を伏せながら呟くフィオナちゃんに肯定を返した。
今までの人生が不幸であったのなら、これからは幸福であるべきだ。
俺はいつも、そう考えている。