フィオナちゃんと共に夕食の準備を終わらせて、そのままお昼ご飯を作り……俺たちは地下の施設へと食事を運びに行った。
地下では、ドロシーさん達によるファッションショーが行われており、ミーシャ様がより好みなパジャマを選んでいる所であった。
実際に着るのはお風呂に入ってからだろうが、既にかなり楽しんでいたようで、何よりである。
「あ、リョウ様。フィオナさん。申し訳ございません。お料理を手伝えなくて」
「いえいえ。この程度は大丈夫ですよ。それに包丁も使って危ないですからね」
「そうそう。我々は慣れてますから」
俺とフィオナちゃんは良い感じにミーシャ様をフォローしつつ、ドロシーさん達が運んだであろうテーブルに出来上がった料理を置く。
とは言っても、今回作ったのは軽食ばかりであるが。
まぁ時間が言うほど無かったし。
夕ご飯の準備もしていたから仕方がない所もある。
「テーブル。ありがとうございます。重かったですよね?」
「えぇ。ですが、私たちは手が空いてましたから」
「役割分担失敗したかな?」
「そんなに過保護にならなくても良いんじゃない? こっちは速さ勝負だったから、色々分かってるリョウさんの方が都合が良かったしね」
「えぇ。そうですね。それに、いくら重いと言っても、人数はいますから。そこまで苦労はしませんでしたよ」
ドロシーさんとフィオナちゃんの言葉に、俺は再度感謝を告げながら頭を下げた。
そして、テーブルの上に置かれた料理の数々を見て、目を輝かせているドロシーさんの妹達、ミーシャ様に「食べましょうか」と告げる。
「まぁ簡単なものしか無いですけど」
「簡単……というには、かなり手が込んでいる様に見えますが」
「慣れてますから。このくらいは当然ですよ。それとも。なんでも出来る凄いお姉さんには、難しい事でしたか?」
「……」
ドロシーさんとあまり仲が良くないフィオナちゃんが挑発する様にドロシーさんへと告げる。
その言葉にいつも通りドロシーさんが嫌味を返すかと思ったが、ドロシーさんは静かに焼き鳥サンドを手に取り口に入れてから、目を伏せた。
「そうですわね。私には難しい事です」
「えっ、な、なんですか。いきなりそんな……」
「私は偽りの者や虚勢には強い言葉を返しますが、尊敬すべき相手には礼を払います。それは当然の事です」
「う……もう、やりにくいなぁ」
フィオナちゃんはドロシーさんがいつもとは違い、酷く真面目な顔で言葉を紡いでいた為、頬をポリポリと掻きながら言葉を選ぶ。
そして、選び終わったのか口を開いた。
「私は、さ。ずっと。生きる為に料理を作ってきたの。冒険者としての才能がないから。だから、私にとっては別に誇る事じゃなくて、当たり前の事なんだよ」
「それこそ誇る事ではありませんか」
「食べればわかるだろうけど、別に料理の才能は無いんだよ? 勿論美味しい料理は作ったけどね。でも、普通に美味しいってだけ」
「まぁ、そうでしょうね。料理人としては平凡という所でしょうか」
「言うじゃん」
「ですが、だからこそ。私は貴女がここまで『努力』した事に敬意を示しているのです。才能だけで生きてきた人間ではない。生き残るために足掻いてきた人間なのだと分かるから……」
「ふーん」
フィオナちゃんは興味がないとでも言うように投げやりな返事をしながらそっぽを向く。
だが、その頬は照れているのか朱色に染まっており、それが恥ずかしさから来る行動なのだと俺もドロシーさんもすぐに分かった。
だから、俺はドロシーさんへと視線を向け、クスリと笑ってから頭を下げる。
「ふふ。ですが、素直でないところは減点ですわね」
「偉そうに。何様のつもりなのさ」
「スタンロイツ帝国に作られる新しい拠点。その支配人ですね」
「全部リョウさんのお陰でしょ」
「無論。当然のお話です。ですから、いただいた信頼以上の価値を返すのです」
「口では何とでも言えるよ。実績を作ってから言って欲しいね」
「そうですわね」
「……今日はやりにくいなぁ」
フィオナちゃんはドロシーさんの反応に微妙な顔を作りながらブツブツと文句を呟いた。
しかし、ドロシーさんはそんなフィオナちゃんに微笑み、続く話を向ける。
「フィオナさん」
「……何さ」
「あなたの腕を見込んで一つお願いがあります」
「なに? 随分と仰々しいけど……」
「これからスタンロイツ帝国で開くお店の、食事を作って下さらないかしら?」
「スタンロイツ帝国で開く店って……えぇー!? やだ! 私、体を売るなんて絶対にやだからね!」
「別にあなたに接客を任せるつもりはありませんわ。正直。お客様が減りそうですし」
「どういう意味さ!」
「相手は繊細な騎士様になりますからね。心遣いが足りない方は……ちょっと」
「心遣いくらい、私にも出来るよ!」
「出来るという点は否定しませんけど。一線を越えてはいけないんですよ? その意味が貴女に分かりますか?」
「わ、分かるよ。お話するだけって事でしょ? なら出来るって、セオストで食堂の接客やってたし」
ドロシーさんの勢いに負けながらフィオナさんがおずおずと話すと、ドロシーさんは大きなため息を吐いてから俺に視線を向ける。
その視線の意味は分かる。
「まぁ、俺もフィオナちゃんが接客をするのは反対かな」
「ほら。リョウさんもこう仰ってますよ」
「いや! 待ってよ! 出来てたでしょ!? 私」
「うん。セオストではね」
「……? どういう意味?」
「セオストでさ。フィオナちゃんとリリィちゃんは凄い人気だったんだよ。あわよくば二人と付き合いたい。結婚したいって奴はいっぱい居たんだ」
「え。そうなんだ」
「そう。でもね。二人はヴィルさんやアレクさんっていう高位冒険者と仲が良いから、二人が怖くて誰も手を出せなかった。だから無理を言う人は居なかったっていう事だね」
「後は、食堂という環境。それに……お二人が高嶺の花という様な状態だったのではないかしら。私も意図的にそういう風にも見せた事がありますが、そういう女性に殿方は手を出せないんですよ」
「なら、大丈夫なんじゃないの?」
「ハァー」
フィオナちゃんの甘えた言葉にドロシーさんが深い、深いため息を吐いた。
心底駄目だなと思っている様なため息だ。
「なに、その反応!」
「先ほども言ったでしょう? 騎士様は繊細なのです。それは純粋で、あまり相手を疑わないという事でもあります」
「……えと?」
「つまりさ。フィオナちゃんが凄いねって褒めてくれたりとか、格好いいって言ってくれるだけで好きになっちゃうっていうこと」
「えぇー!? そんなのどうしよもないじゃん」
「だから、接客は私たちプロが行うと言っているんですよ」
「なるほどね?」
「フィオナちゃんの良いところは素直で可愛い所だけどさ。それをそのまま出しちゃうと、みんなすぐ好きになっちゃうからね」
俺は思ったことをそのままフィオナちゃんに伝えた。
だが、フィオナちゃんは何故か怪訝そうな顔をしながら俺を見て、ドロシーさんを見る。
「こういうのは、良いの?」
「良くありませんよ? だから駄目だと言っているんです。考えてみてください。貴族の女性向けにリョウさんが騎士の真似事をする店を開いたらどうなるか」
「あー。なるほどね。今まで一番理解出来たわ」
「なんだろうね? 俺は今、凄く理不尽な物を感じてるけど」
「でもさ。正直結構儲かりそうじゃない? もしかして天職?」
「かもしれませんが。自制心が少ない王族等に見つかると面倒な事になりますわ」
「……確かに。そうかも」
「俺の評価はボッコボコだね。ホントにね」
「大丈夫ですよ。リョウ様。私はとても良いと思います!」
「支える様なお言葉、ありがとうございます。感謝で胸がいっぱいですよ」
唯一味方となってくれたミーシャ様に感謝しつつ、俺は何だかんだと仲が良くなってきたドロシーさんとフィオナちゃんを見やるのだった。