何だかんだと仲良く? ……は無いかもしれないけど。
それなりに会話が出来るようになったドロシーさんとフィオナちゃんを見つつ、俺は気になった事をミーシャ様に聞いてみる事にした。
「ところでミーシャ様」
「はい。なんでしょうか?」
「何か……我々ばかり話をしてしまっておりますが、大丈夫ですか?」
「えぇ。何も問題はありませんよ。むしろ今、凄く楽しいです」
「なるほど」
ミーシャ様は嘘偽りの無さそうな、朗らかな笑みを浮かべながらそんな事を言った。
まぁ、楽しいのなら言うコトは無いけれど。
しかし、こちらばかり話をしているというのも良くないのではないだろうか。
「何かミーシャ様がお話したい話題に変える事も可能ですが?」
「まさか! とんでもありません!」
「……」
「私は、正直な所。城に居てばかりで……あまり面白い話が出来ないのです。代わり映えのない日々を繰り返してきましたから」
「なるほど」
「ですから。皆さんのお話は本当に面白くて……ずっと聞いていたいなと思うのです」
「であれば、良かったです」
俺は安堵の笑みを浮かべ、未だ微妙な言い争いをしているドロシーさんとフィオナちゃんを見やる。
さっきまでは良い感じに同じ方向を見ていた筈なのだが、既に別の方向を見ながら話題をぶつけ合っている様だ。
まぁ、同じ考えで同意しあう時と、意見が衝突して互いに言いたいことを言い合う、ぶつけ合う瞬間があるのだろう。
この辺りは人間関係、コミュニケーションという奴をやっている以上、仕方のない事なのだろうなと思った。
「ところで」
「はい?」
「リョウ様にお聞きしたい事がありまして」
「はい」
「リョウ様は、どちらの女性とお付き合いをされているのですか?」
また、その質問か。
という想いを抱えつつ。俺はニコリと微笑んだ。
何を聞かれようが、何と聞かれようが俺の答えは変わらない。
「誰とも付き合ってませんよ」
「……まさか」
「まさかではなく」
「……本当に?」
「えぇ、本当に」
「では、ここに居る方々は……」
「俺の妹たちですね」
いつも通りの返答をした瞬間、ミーシャ様の顔が、うわぁ。みたいな顔になった。
正直小さく声に出ていた様な気もする。
気のせいだと思いたいけれど。
そんなに引かなくても良いんじゃなかろうか?
「リョウ様は……お兄様以上に、妹を……その、溺愛されているのですね」
凄い気を遣った感じの言い回しをされてしまいましたが。
俺は、何というかな。凄く酷い評価をされている様だ。
「誤解がある様に見受けられますね」
「……しかし、現実としてここに多くの妹さんがいらっしゃいますが」
「それはそうですが、ですが、妹ですからね」
「妹だから問題なのでは?」
「いや、妹を愛でる事に何も問題は無いでしょう。問題がある筈がない。問題であるはずがない」
「ハ、ハイ」
ハッキリと真理を口にしたのだが、ミーシャ様はともかくフィオナちゃんは納得が出来なかったようで、いつもの様にジトっとした目を俺に向けていた。
そして、いつもの様にトゲトゲとした言葉を俺に向ける。
「リョウさんさ。駄目だよ? よく知らない人を騙すの」
「何も騙して無いよ。俺は」
「ハイハイ。分かった分かった」
「妹が……冷たい」
俺は何だか寂しい気持ちになりながらフィオナちゃんを見やったが、フィオナちゃんの視線は変わらず……。
いや、ちょっとだけ温度が下がった様な気がするな。
何だか冷たさが増した様な気がする。
「ミーシャさん。リョウさんの妹って、ここに居る子だけじゃないんですよ」
「え」
「ほら、家がいくつかあるって言ってたでしょう? つまりはそういう事です」
「え……では、それぞれの家に?」
「はい」
ミーシャ様が、驚きと疑問をまぜこぜにした様な感情を顔に出しながら俺を見た。
「誤解があると思うんですよ」
「別に何も誤解じゃないでしょ」
「いや。絶対に誤解がある! 俺には確信があるぞー!」
「へー」
「まず、俺は何もやましい気持ちなんか持ってない!」
「そこは疑ってないよ。まぁ、だから問題なんだけど」
「妹に何も不自由をさせたことはないし!」
「そうだね。そして、その代わり……私達はリョウさん無しじゃ生きられない体になっちゃったけど」
「言い方ぁ!」
「別に間違いじゃないでしょ?」
「間違いでは無くても、正しくも無いでしょ。誤解を生む様な言い方をしていると思います! はい!」
「別にいいじゃん。それとも? 妹の行動に文句があるんですか? お兄ちゃんは」
「……うぐ。それを言われると。何もないって返すしかないんだけど」
「なら何も問題は無い。という事で」
「むぅ……」
俺はフィオナちゃんに完全敗北し、白旗を上げた。
そしてそんな俺とフィオナちゃんのやり取りを見て、ミーシャ様はクスクスと笑う。
「本当に。リョウ様達は面白い方々ですね」
「面白いのはリョウさんだけだと思いますよ」
「そんな事ありませんよ。フィオナさんも、十分に面白い方だと思います」
「……なんだろう。凄く微妙な気持ち」
「分かるよ」
「リョウさんに同意されるともっと微妙な気持ち」
「ガーン」
「ごめんって、嘘だから。嘘」
「なら、良いか」
「軽いなー」
本当にとりとめのない話をして。
ミーシャ様がずっと笑っていて。
まぁまぁこの会も成功なのかな。なんて事を思う。
何だかんだ。城というずっと住み慣れた場所を出て、何も知らない場所に来るというのは辛いだろうからな。
そして、俺たちはかなり長時間、くだらない話をして、笑って過ごしていた。
「あー。そろそろ良い時間だね。お風呂入ろうか」
「あ! そうですね。入りましょう! 皆さんで!」
「良いんですか? 私達は貴族ではありませんけど」
「勿論です。一緒に楽しくお話をして……その、お友達ではありませんか」
はにかんで笑うミーシャ様に、ドロシーさんもフィオナちゃんもふわりと笑った。
そんな彼女たちを見ながら、俺はよっこいしょ、なんて言いながら立ち上がった。
「じゃあ俺は夕食を用意するから、ゆっくりお風呂を楽しんで」
「リョウ様はご一緒されないのですか?」
「いや、夕食の準備がありますし……」
「それも、後で皆さんで行えばよいではないですか。今はお風呂に皆さんで入りましょう?」
「いや、あの……俺、男なんですよ」
「はい。存じておりますが」
うーん。である。
うーんだ。うーん。
俺は何と説明すれば良いかとドロシーさんへと顔を向けた。
が。
「私は別に構いませんけど」
「いや、そこは構って下さい」
「ミリーたちも……リョウさんが一緒でも構いませんよね?」
「うん!」
「構いません!」
「みんな。構わないと駄目だよ。気にしないと駄目だ」
「そ、そうだよ! リョウさんと一緒にお風呂なんて……!」
俺の言葉にフィオナちゃんが同意して叫ぼうとしていたが。
それに被せる様にドロシーさんが続く言葉を放つ。
「リョウさんと共に入浴したとしても、リョウさんは私達を傷つける様な事はしないでしょう。だからここでリョウさんを拒絶するというのは、リョウさんを信頼していないという証」
「う……わ、私は、別に……リョウさんを信用してるし、別に、一緒にお風呂に入っても」
「フィオナちゃん。無理しなくて良いから」
「疑った事なんかないもん!」
「いや、そういう事では無くてね。全部詭弁だから。普通は異性と一緒にお風呂に入らないから」
「でも、私は妹なんでしょ!?」
「関係ないよね!? ソレ、今、何も!」
「ぶー……! 知らない!」
俺の言葉に、フィオナちゃんは怒りを爆発させて苛立ちを示す。
が、俺は何か言って、状況が変わるのも怖い為、ひとまず怒るフィオナちゃんをそのままに夕食の元へ走るのだった。