(瞬視点)
森から見えた魔導兵器にまず偵察をしようと先行した俺であったが。
既に戦闘を行っている状態であり、俺はひとまず神刀を持った男に加勢したのだが。
「気を失ったか」
戦闘が終わってから……。
戦闘での傷が限界であった様で、男は自らの名を小峰亮と名乗った後、意識を失って、そのまま地面に仰向けとなり寝てしまったのだった。
実に呑気なものだ。
初対面であるし、戦闘も一瞬だったが、まぁ俺の事をある程度信用できる人間だと認めたという事だろうか。
それ自体に悪い気はしないが、少々危機感が足りないのではないかという様な気がしなくもない。
同じ様な立場、同じ場所に生きていたとしても、ぶつかり合う者たちはいるわけだし。
「いや、そうか。共闘したからこそ、か」
俺はふと一人、ミラたちが追いついてくるのを待ちながら思考を巡らせる。
もしかしたら、俺が僅かな共闘の間に、男の事を少し知った様に、男も俺の事を知ったのではないかと。
信頼に足る人物であると、本能的に悟ったのではないかと。
なるほど。
中々面白い男の様だ。
しかし、同時に奇妙な男だとも思う。
見知らぬ男であるが、刀を己の一部だとでもいう様に振るい、戦う姿は歴戦の戦士を思わせた。
しかし、神刀は未だ眠っている。
一応、鞘から抜いているのだから担い手として認められてはいるのだろうが……。
まだ握り始めて日が浅いのだろうか。
神刀の銘を知らぬという事は、未だ神刀の力を借りていないという事であり、己の力のみで戦っているという事になる。
だというのに、俺の援護が無くとも、おそらくは闇神教の連中が送り込んだ魔導兵器を一人で倒していた。
強い。
未だ粗削りではあるが、正直な所かなり強い戦士なのだという事がよく分かった。
しかし。
「小峰亮、か」
聞いたことのない名である。
少なくともヤマトの民では無いだろう。
無論、それは本人も言っていた事ではあるが……。
だが、それでも。
小峰亮は間違いなく刀を振るう人生を送ってきている。
その立ち振る舞いが、動きが、目の動きが。
体を構成する全てが刀を振るう為に存在するとでも言うように、完成されている。
実に奇妙な男だ。
どこで神刀を手に入れたのか。
その技術はどこで身に着けたのか。
何故闇神教の魔導兵器と戦っていたのか。
気になることがあまりにも多すぎる。
しかし、本人が寝ている以上はどうやっても調べる事は出来ないだろう。
実に残念な事であるが、その辺りは巫女姫様に確認すれば良い事でもある。
もしかしたら既に把握されている可能性もあるが……。
どちらにせよ、この場で分かることは少ないだろう。
目覚めてから聞くことになるが……それにはミラの協力が必要となる。
俺はそろそろ追いついてくるかと森の方へ視線を向けた。
「しゅ、瞬さーん!」
「こっちだ。ミラ。怪我人が居る」
「わ、わわ。じゃあ急がないとですね!」
ちょうど、森の草木をかき分けて出てきたまだ幼い少女のミラが、ぜぇぜぇと荒くなった呼吸を整えていた。
そして、そんなミラの後ろから出てきたミラよりもずっと巨大な男、オーロが怪我人の話を聞き、ミラを抱えながら走る。
「あ、ありがとうございます」
「いや。構わない。それで、瞬。怪我人はこいつか?」
「あぁ。だいぶ傷が深い。治せるか? ミラ」
「お任せです!!」
ミラは元気よく返事をすると、小峰亮のすぐ隣に座り、服を脱がせつつ状態を確認してゆく。
外から見ていても酷かったが、中を見ると相当にやられている。
しかし、古傷も多いようで、色々な戦場を渡り歩いていた戦士の様だ。
「知り合いか?」
「いや」
「しかし、神刀を持っている。ヤマトの侍だろう?」
「違う。少なくとも祭りで見た覚えがない」
「ならば、神刀を盗んだ……という事か?」
「いや。少なくともそんな事件は起きていない。俺が知る限りはな」
「……という事は、もっと遥かな昔に失われた神刀。という事か」
俺はオーロが呟いた言葉に、一つの神刀を思い出していた。
それは神が居なくなった時、失われた最初の神刀。
「……雪風」
「ユキカゼ?」
「あぁ。神が一番最初に作ったとされる刀さ。今となってはどの様な刀か知る者は居ないが……もしかしたらそれかもしれないと思ってな」
「なるほどな」
そこまで興味はないのだろう。
オーロは亮から魔導兵器の残骸の方へ意識を向けながら、呟いた。
そして俺も、亮の事はミラに任せつつ、魔導兵器の方へオーロと共に近づくのだった。
「やはり闇神教の魔導兵器か」
「あぁ。固い装甲、空を飛ぶ機能、光線を撃ちだす攻撃。全て今まで俺たちが見てきた物と同じだったよ」
「しかし、術者が居ないな。逃げたのか?」
「いや。俺が来た時点では居なかった」
「……なら止まっていたという事か?」
「人が居ない状態で動いていたよ」
「まさか」
オーロが驚愕で目を見開きながら俺を見据える。
気持ちは分かるが、事実は事実だ。
俺たちが連中の足取りを追って、世界中を回っている時にも、連中は着実に力をつけている。
技術力。戦闘力。
そして、おそらくは組織力。
「やはり、世界国家連合議会が怪しいか」
「まぁ、ミラの件もあるし。これだけ探しても何の痕跡も出てこないとなるとな」
「……ならば」
「オーロ」
「なんだ」
「あまり急くな。世界国家連合議会がミラを狙ってた事もある。不用意に近づけば要らぬ争いを呼ぶ」
「しかし!」
「ミラを近づけない為に、お前の弟分たちに依頼をしたんだろう? 少しは冷静になれ」
「分かっている」
やや苛立った様にオーロは魔導兵器の残骸の所へ向かい、破壊された部品を漁り始めた。
少しでも連中に近づく何かを探しているのだろう。
何か見つかれば良いが。
それも中々難しいかな……。
俺はとりあえずオーロの気が済むまで放っておこうと思い、ミラの所へ向かった。
そろそろ治療も終わるころかと思ったのだが。
どうやらちょうどよい頃合いであったらしい。
額に浮かんだ汗を拭うミラが微笑みながら顔を上げて口を開いた。
「終わりました!」
「そうか」
「古い傷は治せそうにないですが、今回の戦闘で傷ついた場所に関しては全て治りましたね」
「まぁそれで十分だろう」
俺は亮の無事を確認すると、遠くからこちらに近づいてくる者たちの気配を感じ、オーロとミラに声をかけた。
ここに俺たちが居ることを知られると、少々厄介な事になるからだ。
「ミラ。オーロ。そろそろ行くぞ。誰かが来る」
「え? でも……この人を置いていく訳には」
「それならば問題はない」
俺は近くの石を拾い、殺意を持って亮に投げつけた。
当たれば致命傷……とまではいかなくてもそれなりに怪我をするであろう一撃だ。
しかし、当然ながら亮は瞬時に目を覚ますと、地面から飛び起きて、腰の神刀に手をかけながら構えた。
「っ!」
「どうやら体は万全に戻った様だな」
「これは……」
「奇跡の力という奴だ。滅多に出会えるものじゃない」
「なるほど」
亮は視線を走らせて、ミラを捉えると小さく頭を下げた。
おそらくは理解したのだろう。ミラがその力の持ち主である事を。
「では俺たちはこのまま消える。お前はどうする?」
「ここに残る。約束があるからな」
「そうか。ではまたどこかで会おう」
「……あぁ、また。どこかで」
多くを語らずとも理解する亮に笑みを浮かべながら俺は簡易的な転移装置をミラに出して貰い、付近の町まで転移した。
俺たちが居たという痕跡を一切残す事なく……。
そして、俺たちは一度状況を確認するべくセオストを目指すのだった。
「小峰亮か……それほど遠くない未来に、また会うかもな」