ミーシャ様に非常に厄介な誘いをされてしまったが、俺は何とかその誘いから逃れて夕食の準備へと向かう事に成功した。
まぁ、夕食の準備といっても仕込みの段階でほぼほぼ作業は終了しているため、必要な工程は冷蔵庫から皿ごと取り出して地下へと運ぶくらいのモノであるが。
あー、いや。
スープもあるから温める必要もあると言えばあるか。
俺は鍋を火にかけながらフーと深い息を吐いた。
いや、しかし……中々に疲れたな。
「お疲れみたいですね。お兄さん」
「まぁ、色々とね」
「……私のこと、気づいてたんですか?」
「妹の事には注意を払っているんだよ。足音を消しながらコッソリ近づく妹の事とかもね。気づくんだ。お兄ちゃんだから」
「ふぅん。気持ち悪いんですね」
「うっ……!」
まるでフィオナちゃんの様な鋭い刃で俺を突き刺したパメラちゃんに俺は胸の痛みを覚えた。
もう既に致命傷である。
俺の事は気にするな。先へ行ってくれ。という様な状態だ。
しかし、妹の事を放置する兄などいないため、痛みを堪えながら俺はパメラちゃんに笑いかける。
「パメラちゃんはお風呂に行かなくても良いの?」
「はい。私は昨日の夜入りましたから」
「今日は良いの?」
「まぁ、今日は……良いかなって」
「もしかして体調悪いとか!? どこか怪我したとか!?」
「……そういうのじゃないですから」
「なら……まぁ、良いけど」
俺はやや面倒そうな顔をしているパメラちゃんに笑いかけ、話を終わらせる。
まぁ、別に責めたい訳じゃないしな。
「お兄さんは、毎日お風呂に入った方が良いって思う人ですか?」
「んー。まぁ、俺は入れるなら入るけど、人にまで強要はしないかな」
「……そうなんですね」
「人ごとに色々と事情はあるしね。そこであーだ、こーだって言うのは無粋でしょ」
「それは……はい。そうですね。まぁ、その理屈だとお姉ちゃんは無粋な人になるんですけど」
「ミリーちゃんは良いんだよ。妹想いの優しい子だ」
「どっちなんですか? コロコロと意見を変えて……」
「妹の事なら全てが正しいけど。それ以外はさっき言ったとおりだよ」
「また……」
「うん?」
パメラちゃんはどこかウンザリとした様な顔でため息を吐いた。
何だろうか。
何か苛立つ様な事を言ってしまっただろうか。
「お兄さんにとって、私たちって何なんですか?」
「妹。だね」
「……本音は?」
「可愛い妹、だね」
「そうじゃなくて!!」
「ふむ?」
はて。
パメラちゃんが何を求めているのか分からないぞー?
いやっ! これはアレか! 可愛いという誉め言葉が嬉しくない奴か!
「あぁ、これは申し訳ない事を言ったね。確かに。可愛いは違うね」
「っ! 分かってくれましたか!」
「うん。パメラちゃんは綺麗だよ」
「違う!!!」
何故だろうか。
先ほどよりも怒ってしまった。
やっぱり可愛いの方が良かったのではなかろうか?
「私たちを利用して、何かを企んでるんでしょ!?」
「別に? 何も?」
「嘘!」
「嘘と言われてもなぁ。じゃあパメラちゃんは何を企んでいると思うんだい?」
「それは……その……分からないけど」
「じゃあ何も企んでないんじゃないかな」
「そんな訳ない! だって、何かなきゃ、私を引き取った理由が無い!」
「うん?」
いよいよ謎が深まってきたな。
お姉ちゃんが大好きで、お姉ちゃんの為に何かしたいと一生懸命なパメラちゃんを引き取った理由がないとは。
いったいどういう事なんだ。
可愛いというだけで大正義ではないのか。
「んー。でも、そうか。パメラちゃんは何か理由が欲しいんだね。自分に自信が無いのかな」
「……べ、別に! そういう訳じゃないけど!」
「フィオナちゃんも言ってただろう? 俺は妹に狂ってる異常者なんだよ。だから見境なく妹を引き取って楽しんでる。それじゃ駄目かな?」
「駄目」
「駄目かぁー。手厳しいねぇ」
ムスッとした顔をしているパメラちゃんを見ながら俺はふむ、と考えていた。
そして、一つパメラちゃんが納得する様な言葉を向ける事にする。
「しょうがない。パメラちゃんには本当の事を言おうか」
「……! なに!?」
「実はね。俺はとっても好きな女の子を探しているんだよ」
「とても好きな?」
「そう。俺にとって誰よりも魅力的な。最高の女の子だ」
「それを……見つけて、どうするの?」
「そりゃ結婚するんだよ。大好きな女の子だからね」
「……!」
「でも、親しくしなかったら、どんな女の子か分からないだろう? だから、こうして妹が好きって言って集めてるんだ」
「も、もし」
「うん」
「私が、その……理想と全然違ったら、どうなるの?」
「どうもしないよ。前も言ったけど仕事は色々とあるしね。働いてもらいたいなと思ってる」
「なら!」
「うん」
「もし、もしね」
「ん」
「もし、お姉ちゃんが……選ばれたら、私も、抱いて欲しい」
「うーん。俺としてはパメラちゃんがそういう事をするときは、本当に好きになった人として欲しいんだよね」
「お兄さんの事……私は、好きなんです」
「嘘だねぇ」
「っ! ホントに!」
必死そうな顔でパメラちゃんは俺に言葉を向けるが、ここまで必死になる理由は何だろうか。
と、俺は考えながら……まぁ、答えは一つかと頷く。
「心配しなくてもさ。お姉ちゃんとはパメラちゃんとミリーちゃんが望む限り一緒に居られるし。もしお姉ちゃんがどこかにお嫁さんに行ってもさ。パメラちゃんはいつまでもここに居て良いんだよ」
「……でも、私、何も出来ません」
「本当にそうかな?」
パメラちゃんの目的をだいたい理解した俺はパメラちゃんが安心する様に言葉を重ねる。
「パメラちゃんはさ。家族って、何だと思う?」
「家族……? 同じ家に生まれたとか……」
「うん。確かにそれもそうだね。でもね。俺は血の繋がり以外にも家族は生まれると思うんだよ」
「……それは」
「同じ家に住んでいるとかさ。家族になれそうだと思わない? 」
「どうなんでしょう……私は、分からない……だって、お姉ちゃんと、ずっと一緒だったから」
「なら、これから実際に試してみない? 俺とパメラちゃんがちゃんと家族になれるかどうかさ」
「でも……怖いです」
「何が怖いのかな?」
「私、この家に居て良い理由がないです」
理由なんかなくても、いつまでも居て良いんだけど。
それをそのまま伝えても納得しないだろうし。
ここは何かしら対価を伝えた方が良さそうかな。
「まぁ、どうしても理由が欲しければさ。家賃とか納めてみる?」
「家賃、ですか?」
「そう。月単位でも年単位でも良いけどさ。パメラちゃんがこの家に居ても良いよ。っていう金額を俺に渡すんだ。そして、俺がそのお金を受け取っている限り、パメラちゃんは怖くないでしょ? だって対価を支払っているんだから」
「それは……まあ、そうですが」
「まぁ、別にお金じゃなくても良いしね。対価は」
「お金の代わりに労働、とか?」
「そう。相変わらず察しが良いね」
「……うん」
「だからさ。どんな形でもいいよ。パメラちゃんが納得できる形で。俺に対価を貰えるかな」
「……はい。でも、それが対価になるか分からない時は」
「その時はまた聞いてよ。教えるからさ。それは良いよ。これは駄目。って感じでね」
「うん」
「それで少しは安心できるかな?」
「うん……たぶん、大丈夫」
「なら良かった」
俺はパメラちゃんに微笑んで、頭を撫でた。
そして、僅かに安心感を得ているパメラちゃんから手伝いをしたいと言われ、一緒に夕食の準備をするのだった。
「……お兄さん」
「うん?」
「ずっと言ってなかったけど……お姉ちゃんと私を助けてくれて、ありがとう」
「どういたしまして」