やけに小食なドロシーさんの妹さん達にご飯を食べて貰いつつ、俺はドロシーさん達と色々な話をしていた。
出会ってからずっとドタバタしていた為、落ち着いて話をするのは初めてだな。と思いながら。
「しかし……」
「ん?」
「リョウさんに、この様な美容技術があった事には驚きました。何か、そういったご職業を?」
「いや。そういうワケじゃないんですけどね。病弱な妹が居まして。その子の手伝いをしていたら、自然と身に付きましたね」
「あら。その様なご経験が」
「えぇ。ただ、髪を整るのも、綺麗な服や装飾品を着て貰うのも俺の趣味でして。好きな事がそのまま技術になった。という様な話の方が近いかもしれませんね」
「なるほど。確かにそれは理解しやすい話ですね。私も仕事として美しく見せる術を磨きましたが、それはそれとしてやはり着飾る事は好きなモノですから」
「あぁ。それは良いですね」
美しい所作で微笑むドロシーさんに笑いかけながら俺は頷く。
そして、そういえばと思い出した事を聞いてみる事にした。
「そういえばお風呂場にあった液体石鹸や洗髪剤はかなり良い品でしたね」
「その件ですか。確かに少々高すぎる品であったかもしれませんが、より輝きが大きい方が得られる利益も大きい物ですから」
「あ! っと、違います。違います。別に責めているワケでは無くて」
「と言いますと?」
「いえ。とても良い品なので、どこで買ったのか教えていただこうかと思っていたんですよ。どうせならセオストやシーメルにも置こうかと思いまして」
「そういう事でしたか。でしたら、搬入は私にお任せください。まとめ買いをする事で安く購入する事も出来ますし。また別の方法でさらに購入金額を落とす事も出来ますから」
「そんな手段が?」
「えぇ。これはリョウさんだけにナイショでお伝えするのですが……。実はこの手の高級品は世界に溢れているのです」
「……あー、まぁ。そうですねぇ」
昔、セオストに家を建てた時、とにかく高い洗髪剤を買おうと思って店に行ったが、色々な商品が並んでいた事を思い出す。
商品が多すぎて悩んだ結果、全てを買ったくらいだ。
「しかし、商品が多いという事はそれだけライバルが多いという事です」
「まぁ、確かに」
「そうなると、店側としては自らの製品を売るために営業をしたりするワケですが、それもまた難しいんです。やはり皆さん使い慣れた物を使いますから」
「あー。それでかぁ」
「どうしたの? フィオナちゃん」
「いや、ほら。今言ってた営業って話」
「うん」
「セオストでさ。リョウさんが色々な洗髪剤とか液体石鹸とか、化粧品とかとにかく高い奴買い漁ってたからさ。営業の人が凄い回数家に来たんだよ。うちは貴族じゃないって言ってるのにさ。是非! 是非旦那様にー! とか言って」
「あー。それは何とも。ご迷惑をおかけしまして」
「良いけどさ。でも、あぁいう事をみんなやってるって事でしょ? でも、買う人って居るのかな?」
「居ない事は無いでしょう。まったく成果の上がらない事を続ける方も居ないでしょうし。しかし、やはり成果は上がらないのです」
「まぁ、やっぱり難しいですよね」
俺とフィオナちゃんが、うんうんと頷くとドロシーさんは満面の笑みでパンと両手を叩く。
「そこで。彼らに代わり、私たちが宣伝を行い、その分商品を安く仕入れるのです」
「なるほど?」
「それって効果あるの?」
「少なくとも、ただ商品を見せるだけよりは効果があると思いますね。実際に使用し。この様に美しくなりますよ。と見せるワケですから」
「厭味ったらしいなぁ」
ドロシーさんが髪を靡かせながら言った言葉に、フィオナちゃんがジト目を向けながら呟いた。
だが、ドロシーさんは何も気にせず微笑んでいる。
そして、そんなドロシーさんの言葉に意外な所から同意する言葉がやってきた。
「それって、良いかもしれませんね」
「ミーシャさん?」
「貴族の女性方って、基本的に家から出ないんですよ。外は魔物にせよ。犯罪者にせよ危険が多いですし。安全な家の中で過ごすことが多いんですね」
「まぁ、確かに。貴族の女性が買い物をするからと護衛を雇う事もあるくらいですもんね」
「はい。ですから。彼女たちは化粧品などの商品を購入する時は知り合いの女性貴族から勧められた物を買うんですね」
「そう。ミーシャ様の仰る通りです。そして、その勧める一人に私もなろうかと考えております」
「それって、上手くいくの?」
「いくでしょう。何せ私は実際に美しいですから」
「それはもう良いって。でも貴族の繋がりとか無いでしょ? 流石に」
「そうですね。今はまだありません。ですが世の中には非常に良い物があると聞きました」
「良い物?」
「えぇ。映像を全世界へと配信する事の出来る魔導具が」
「あー」
ドロシーさんの言葉に、セオストでよく見ていた配信の事を俺は思い出していた。
どの程度の人が見ているかは分からないが、冬ごもり中などは暇も多いだろうし、需要はあるかもしれないな。
「結構いい案な気がしますね」
「そうなの?」
「うん。だって、ほら。セオストでも配信は見てたじゃん? セオストの情報を教えてくれる配信とかさ。面白い事喋っている人たちの配信とか」
「……確かに」
「だからさ。あぁいう配信っていうのは何だかんだ需要があると思うんだよね。ただ、あれじゃ生活出来ないから、どうしても趣味になっちゃう。けど……ドロシーさんはそれを商売に繋げようと考えているというワケだね」
「そういうワケです」
「はー。なるほどねー。よく考えるもんだわ」
フィオナちゃんはドロシーさんがやろうとした事を正確に把握し、納得したと頷いた。
そして、ふむと腕を組みながら何かを考え、思いついたのかハッと顔を上げた。
「ならさ。別にその商品だけじゃなくて良いんじゃないの?」
「どういう意味ですの?」
「つまりさ。色々な商品を宣伝するんだよ。だって、洗髪剤にしたって色々な種類があるんでしょ? ならさ。それを全部宣伝すれば、いっぱいお金が貰えるんじゃないの!?」
「そう簡単にいく?」
「え? いかないの?」
俺は金に……欲望に目が眩んでいるフィオナちゃんに一応突っ込みを入れる。
「例えばさ。俺が美味しい料理を紹介しますって言って、フィオナちゃんの料理を紹介するとするよね?」
「うん」
「それで、フィオナちゃんはいっぱいお客さんが来て儲かった。嬉しくて俺にお金をくれる。ここまでは良いよね?」
「うん。良いよ」
「でもその次の日。俺はリリィちゃんの料理が世界で一番だー! って紹介したとするじゃん?」
「……まぁ、ちょっと色々と思う所はあるけど、うん。まぁ、そういう事もあるよね」
「そしたら、フィオナちゃんのお店に来てたお客さんが全員リリィちゃんのお店に行っちゃいました」
「なんてことするのさー!!?」
「だから、そうやって怒られちゃうよって話」
「あ」
フィオナちゃんは俺が言いたかった事を理解したらしく、なるほどと言いながら頷いた。
そして、うーんと唸りながら再び黙り込んでしまったわけだが。
そんなフィオナちゃんにドロシーさんがニコニコとしながら言葉を向ける。
「それは、とても良いアイデアかもしれませんね!」
「「え?」」
「そ、そうなの?」
「はい」
「でも、今リョウさんが言ってたけど、別の商品も宣伝されたら、うがー! って怒っちゃうんじゃないの!?」
「それに関しては、まぁ問題ないでしょう」
「問題ないの!?」
「えぇ。全ての物は様々な面があります。一つしか商品価値が無い物。というのは存在しません」
「……?」
「つまり、ライバルの商品よりも優れたところを説明すれば良いのです」
ドロシーさんは人差し指を立てながら、ふふっと笑うのだった。