何となく分かる様な分からん様なドロシーさんの話に、俺はふむ? と考えながら首を傾げていた。
そんな俺を見て、ドロシーさんはクスリと笑う。
「それほど難しいお話ではありませんよ。リョウさん。例えば、町の中で食べられる料理と、フィオナさんの料理は違う物でしょう?」
「それはまぁ。そうですね?」
「外で食べる料理は、様々な種類がありますし。味も多彩です。さらに言うのであれば、家庭では作れない料理ですので、特別な日を彩るのに最適かもしれません。そして、フィオナさんの料理は家庭で食べる様な気楽さがあり、一人暮らしの男性などは、可愛らしいフィオナさんの手料理という事で、より楽しめる要素があるのではないでしょうか。みたいな形ですね」
「おぉー!」
俺はドロシーさんの上手いたとえ話に手を叩き、素晴らしさを称える。
こういう、商売のキッカケみたいなものを思いつく人は本当に凄いなと思うよ。
俺はあんまり思いつかないからな。
「しかも、この配信の良い所は貴族以外の方にも需要があるという事です」
「そうなの?」
俺はドロシーさんの言葉に、ドロシーさんの妹たちやフィオナちゃんへと目線を向けた。
が、妹たちはドロシーさんの言葉がよく分からないのか。ちょっと困った顔で可愛らしく首を傾げており。
フィオナちゃんもあんまり分かってないのか。可愛らしい顔で首を傾げていた。
「うん?」
「まぁ、ここに居る子達はあまり必要ないかもしれませんね」
「なるほど」
「例えば……そうですね。リョウさんはあまり自分の服や見た目には拘らないタイプですよね?」
「あー。まぁ、そうですね」
「そんなリョウさんが、とても好きだなと思う方にアプローチをする際、見た目はどの様にしますか?」
「まぁ流石にある程度は整えるでしょうね」
「どの様にして?」
「んー。服屋で店員さんにオススメを聞いたり、髪型は店で整えて……後はまぁ、友人に聞いてとかですね」
「では、店員さんにオススメされた商品が複数あったらどうでしょうか。しかも。両方を購入する金銭の余裕が無ければ」
「あー。なるほど。そういう時に、実際に使用した人の感想だとか。優れた所とかを知る事が出来るってワケですか」
「そういう事です。庶民にとって、恋愛というモノはリョウさんが思っている以上に死活問題ですからね。出来る限り、可能な限り手を尽くしたいと考えるのはある意味当然の事ですよ」
「そんなモノですか」
俺はふと冒険者仲間を思い出しながら呟くが……正直な所そこまで切羽詰まっている人間は居なかった様に思う。
俺の知り合いだけかもしれないけど。
「ふふ」
「ドロシーさん?」
「リョウさんや周囲の方が恋愛を重要視していないのは、生活が安定しているからですよ」
「え……いや、冒険者はあまり安定しているとは言えない様な……」
「それでも、ジワリジワリと死が近づいてくる様な感覚は持っていないでしょう?」
「それは……確かに。そういう人は知らないですね」
「冒険者という職は、危険と隣り合わせでいつ命を落としてもおかしくない職業であるというのに、何故これほどまでに人が殺到するのか。その答えがここにあります」
「ふむ」
「私達の様な力を持たない庶民は、日々稼げる金銭に限りがあり、それが尽きれば問答無用の死が待っています。だからギリギリの生活の中で、少しでも条件の良い方と結婚したいと考えるのです」
「なるほど」
「あー。まぁ。ドロシーさんの話は私もよく分かるよ。正直、冒険者だって言ったってみんながみんな稼げるワケじゃないし。リョウさんには、ほら。色々と苦労話をしたけどさ」
「うん。あー。うん。そうだね」
「生きるか死ぬか。分からないギリギリの世界を歩いて来た感覚はある。だから……うん。もし私が一人で生きてたら、生きる為に裕福そうな人と結婚したいって考える事もあったかもしれない」
フィオナちゃんの話にドロシーさんは緩やかに頷いて、同意を示した。
俺にはよく分からない感覚ではあるが、彼女たちの話は確かにこの世界にある現実であるようだ。
「なので。私はそういう方々の武器を作りたいのです。より自分を輝かせて、より幸せな環境へ。より幸せな人生へ」
「なるほど。それはとても良い仕事ですね」
「そう思っていただけますか」
「それは勿論。誰かの為になる仕事なんて最高じゃないですか。素晴らしい事だと思いますよ」
俺は純粋に賞賛の意味を込めて手を叩き、ミーシャ様も同じ様に観劇した様子で手を叩いていた。
そして、フィオナちゃんも、うんうんと頷きながら口を開く。
「確かに。それは、凄いありがたいかもね」
「フィオナさん」
「まぁ、正直な所。いっぱい儲かるよ! なんて適当な気持ちで言った事から、こういう綺麗な事にまとめられると恥ずかしくもあるんだけど」
「それはあまり気にしなくても良いと思いますわ。アイデアに貴賤はありませんし。その思いつきが無ければ、私の考えも生まれませんでしたから」
「そうかな。えへへ」
「えぇ。誇っても良い事かと」
おぉ……と俺は心の中で感動に振るえた。
ドロシーさんとフィオナちゃんはあまり仲が良くなかったのだが、互いに良い所を認め合い、褒め合い。嗤い合っている。
これほど素晴らしい光景は無いだろう。
「という話にまとまった訳なのですが」
「うん?」
「アイデアを出したのは良いのですが。正直な所。化粧品も洗髪剤も液体石鹸も非常に高価でして」
「あぁ。買うのが大変って話ですかね? ならお金置いていきますけど、どれくらいあれば良いですか?」
「えー、いえ。その……まだ、何も成果を出していないどころか。初めても無くてですね」
「あぁ。そうか。それはそうですよね」
「えぇ。そうなのです。なので、まずは小さな所から……」
「ならまずは、配信用の魔導具を買う所からですね。とりあえず一番性能がいい奴を探しておくので。そっちは任せて下さい!」
「そうではなく!」
「っ! ど、どうしたんですか?」
「いえ! まだどうなるかも分からない事ですから、慎重に! ですね!」
「はぁ」
「お金の無駄になってしまう事もありますし。まずは様子見をするべきだと思うんです!」
「でも、どちらにせよ配信用の機材は必要になる。なら最高の品を買うべきですよね? それに、商品だって中途半端な所からやっても衝撃が少ないですし。どうせなら最高級の品を全部試した! とかの方が見る人も興味が出ると思うんですけど」
「それは! それは、そうかもしれませんが……!」
「なら、それで決まりですね。お金は持って来る……あー、いや。減らすのは駄目か。なんか依頼をやって稼いでくるので、それを使いましょう」
「あー、うー!」
「諦めた方が良いよ。こうなったリョウさんは止まらないから」
「フィオナさん……!」
「だからさ。ずっと言ってるじゃん? リョウさんは妹に『狂ってる』んだって。妹がやることは何でも応援したいの。全力でね」
「くっ……!」
「プレッシャーとか感じなくても良いと思うけどね。別に失敗しても何も言わないし。何なら慰めてくれるよ」
「そういう問題では……!」
「じゃあ、そうと決まれば明日から早速依頼を見て来るかぁ」
「あ! リョウ様!」
「どうしました? ミーシャ様」
「冒険に行くんですよね!」
「はい」
「私も付いて行っても良いですか!?」
「はぁあああああ!? だ、駄目ですよ! ミーシャさん! 冒険者の仕事は危険で……!「良いですよ」ちょっと! リョウさん!?」
俺はフィオナちゃんに怒られながらもミーシャ様の言葉に頷き、明日からの依頼に意識を向けるのだった。
しかし、ドロシーさんがこんなに凄い事を始めるとは。
何が何でも最高の状態でスタートして貰おう!
妹の頑張りが成功に繋がる事が一番だからな。
と、俺は明日からの依頼に気合を入れるのだった。