さて。
昨夜、ドロシーさん達と話をして、金が必要だという事が分かった俺は、地下のキャンプで夜を過ごし。
ドロシーさんの妹達よりも早く寝たミーシャ様と共に早朝から冒険者組合へと来ていた。
ドロシーさんやフィオナちゃんは不安そうな顔をしていたが、まぁスタンロイツ帝国近郊の仕事なら危険は無いだろう。
それに、ドロシーさんは家の事をやらねばならないし。
フィオナちゃんは一度シーメル王国の家に帰らねばならない。
それぞれやることがあるのだから、別行動をした方が効率的である。
というワケで。
「はじめまして。自分はセオストの冒険者なのですが、何か依頼を受ける事は出来ますか?」
「えぇ。問題ありませんよ。冒険者証をご確認させていただきますが、よろしいでしょうか」
「はい。お願いします」
俺は冒険者組合の受付のお姉さんに冒険者証を渡し、何となく組合の中を見る。
正直な所、セオストよりも人が少ないが、荒くれ者も少なく、どこか落ち着いた雰囲気である。
それもこれもスタンロイツ帝国が落ち着いているからか……なんて考えていたのだが。
「はい。ご確認させてぇぇえええええ!!?」
「っ! どうしました?」
突如として受付のお姉さんが大声を出した為、俺は驚いてお姉さんの方を見てしまった。
何か問題でもあったのだろうか。
「し、失礼しました。リョウ様ですね。ランクは……F? はい? F?」
「どうしました?」
「あの……いえ。その冒険者ランクなのですが、何かの間違いでしょうか」
「いえ。間違いではありませんけど」
「ですが……セオストの英雄。リョウ様ですよね?」
「えー、まぁ。一応そうですね」
「一応?」
「あー。いや。その呼び名はあまり好きでは無くてですね。ですが、はい。気にしないで下さい」
「なるほど。これは失礼いたしました。セオストの冒険者リョウ様ですね」
「申し訳ございません」
「いえ。冒険者の方はスタンロイツにはあまりいらっしゃいませんので、ご対応はなるべく丁寧に行う様心掛けております」
「なるほど……」
「それで……ですね」
「はい」
笑顔で話をしていた受付のお姉さんは何故か少し困った様な顔をしながら俺に再び問いかける。
「冒険者ランクは本当にFなのでしょうか」
「それは間違いないですね」
「……何故?」
「何故と聞かれても困ってしまうんですが、まぁ、自分は戦ってばかりで知識とかが全然足りないから、ですかね」
「……知識もなく、魔物を退治していた。という事でしょうか」
「えぇ、まぁ。そうですね。お恥ずかしながら」
「いえ。恥ずかしいというよりは……なんと言えば良いでしょうか。衝撃的と言いますか」
「表現が難しそうですね」
「そう、ですね……えぇ。本当に」
「まぁ、珍しい人間なのは何となく察していますので、大丈夫です」
「ありがとうございます」
「いえいえ。それで……依頼なんですけど。一応、個人戦闘力ランクはそれなりなので」
「あ、はい。そうですね。そちらは問題ありませんので、どの様な依頼でも問題ありません」
「お。良かったです。じゃあ、そうですね。サクッと終わって、それなりに稼げる仕事はありますか? 危険度は何でも良いんですけど」
「何でも……?」
「えぇ。何でも」
「えー。と、少々お待ちくださいね」
受付のお姉さんは、どこか引きつった笑顔を浮かべたまま奥へと歩いて行った。
それを見送りながら、俺はミーシャ様に少し時間がかかりそうですね。と話す。
「少し待つことになりそうですね」
「分かりました! しかし……こういう所はワクワクしますね」
「お。楽しんでいただけてますか?」
「はい! 勿論です! ちなみに、私は魔術が色々使えるので、きっとお役に立てますよ!」
「それは頼もしい。では後方支援はお願いします」
「お任せください!」
とても楽しそうにミーシャ様は笑う。
そんな笑顔に頷きながら、俺は依頼が来るのを待っていたのだが。
「お、お待たせいたしました」
「はい」
「実はですね。非常に申し訳ないのですが」
何やら焦った様子で受付のお姉さんが戻ってきた為、俺は何事かとカウンターに身を乗り出す。
とんでもない依頼でも持ってきたのだろうか。
「リョウ様のご要望にお応えする依頼がありまして」
「……はい」
「もし、可能ならばで、問題ありません。無論、依頼内容を聞いてからお断りいただいても、何も問題はございません」
これは相当な依頼が来たなと俺はワクワクと跳ねる心で笑みを浮かべた。
久しぶりに強敵と戦えるチャンスが来たか。
いや、しかし、そんな危険な相手とミーシャ様が居る状態で戦うのは流石に無いか……いや、でも。
「こちらが、依頼の内容です!」
「……えー。スタンロイツ帝国帝都近くの森に居座っているジャイアントボアの討伐……ですか」
「は、はい! こちらの依頼は、依頼として冒険者組合に来たのですが、流石に無理がある為、騎士団が動く事になっておりまして……しかし、騎士団は現在動けない状態にあり……」
「あー。まぁ色々と事情があるのは分かりました。受けても大丈夫ですか?」
「え。いえ、それは勿論問題ありませんが」
「分かりました。では、これ。受けますね」
俺は受付のお姉さんから依頼の紙を受け取って、必要書類に名前を書いて、手続きをして貰う。
そして、帝都近くで良かったな。と思いながらミーシャ様とその場所へと向かった。
「ジャイアントボアは、まぁ巨大なイノシシなんですけど」
「はい!」
「鼻先が弱点なので、そこを攻撃しましょう」
「分かりました!」
「当てると怯みますので、後は俺が仕留めます」
「はい!」
任務を受けたので、サクサクと現地へと向かい。
帝都の近くにある平原で眠っているジャイアントボアを発見した俺たちは、そのままジャイアントボアとの戦闘に入った。
俺たちが近づくだけでジャイアントボアはムクリと起き上がり、こちらを威嚇している。
が、躊躇いなく放たれたミーシャ様の魔術が、ジャイアントボアの鼻先に命中し、ジャイアントボアは悲鳴を上げながら動き回った。
「上手いですよ! もう一発行けますか!?」
「お任せ下さい!」
そして、俺は神刀を抜きながら地を滑るように走り、俺がジャイアントボアに接敵する直前に鼻先へ先ほどと同じ様に魔術を当ててくれた為、痛みに正常な判断が出来なくなったジャイアントボアへと俺は神刀を向け、飛び込んだ。
「これが初めての狩りか。凄いモンだ」
俺はミーシャ様が何ら緊張もなく、アッサリと魔術を当てた事に驚きながらジャイアントボアの首に向かって神刀を勢いよく振り下ろした。
この一撃で首は斬られ、ジャイアントボアはその巨体を地面に倒す事となった。
倒れる際には地面が揺れる感覚すらあったし。中々肉が詰まってて良さそうな魔物である。
「終わりですね」
俺は神刀に付いた血を払い、納刀しながらこちらへと駆けてくるミーシャ様を待った。
「倒したのですか!?」
「えぇ。ミーシャ様のお陰で楽に倒せました」
「本当に!? 本当に! 私がお役に立てたのですか!?」
「えぇ。本当に本当ですよ。ミーシャ様は中々筋が良いですね。素晴らしいです」
ミーシャ様は最初呆然としていたが、倒れたジャイアントボアと俺を交互に見て、嬉しそうにキュッと目を閉じながら軽く飛び跳ねるのだった。
何とも可愛らしい事である。
「さて。じゃあ、後はコイツを持って帰らないと……ですね」
そして、俺は軽く頭を掻きながら、どうやって獲物を帝都の中に運ぶか考えるのだった。
相変わらずというか、何というか。
計画性が無いのは困ったものである。
「とりあえずは、冒険者組合に報告に行くかぁ」
と、俺はミーシャ様と共に帝都へと再び戻るのだった。