スタンロイツ帝国での初めての依頼を無事達成した俺は、ジャイアントボアをスタンロイツ帝国へ持ち帰るべく、まずは冒険者組合へと戻る事にした。
運ぶための人手という意味でも、運び込む場所という意味でも俺だけではどうにもならない問題だからだ。
という訳で冒険者組合へと戻ってきたのだが。
「あぁ! リョウ様! 良かった。まだ帝都に残っていたのですね!」
「え? 何かありましたか?」
「いえ。それが……騎士団の方に、ジャイアントボアを冒険者組合で処理すると連絡しましたら、危険だ! という言葉をいただきまして」
「なるほど?」
「しかし、リョウ様は英雄クラスの実力がありますから問題ないと思いますと返しました所、ならばせめて支援させて欲しいというお話をいただきまして……」
「あー、そうでしたか。でも……」
「おぉ! 貴君は! 間違いない。何度か陛下と共にいる姿を拝見しておりますぞ! リョウ殿!」
俺が受付のお姉さんに、既にジャイアントボアは討伐したと伝えようとしたのだが、冒険者組合の建物の入口から大きな声が聞こえてきて、言葉を遮られてしまう。
しかも、その入ってきた人は、俺の場所まで歩いてくると、肩を叩きながらガハハと笑っており、あまり話を聞いてくれそうなタイプでは無かった。
「いや。申し訳ない! リョウ殿であれば何も問題は無いと思っておりますが、かのジャイアントボアは特殊な個体でしてな」
「特殊な、個体?」
「はい。通常のジャイアントボアよりも巨大で、さらに耐久力も並の物とは桁外れ。元々ジャイアントボア自体が危険な魔物であるというのに、その様な状態では近づく事すら危険だ。ゆえに我らで援護をと思いましてな!」
「あー。そういう事でしたら」
「おや! 報酬の事を気にされているのかな!? であれば何も問題はありませんとも! 我らは国に雇われた騎士! 報酬などは要りませんよ! なに! 我らの心配も要りません! リョウ殿のお手伝いをしたと陛下にご報告すれば手当が出るかもしれませんからな! はっはっは!」
元気だ。
非常に元気である。
しかし、元気過ぎて俺が言葉を挟む隙間が無いのが困ったものである。
いや、本当に。
どうする? コレ。
「そういう事ですので! 是非ともご協力をと、リョウ様。いかがでしょうか」
「……」
俺は受付のお姉さんの言葉にしばし考えて……一つの結論を出した。
もう面倒だし。このまま現地まで連れて行って、魔物を運んでもらおう! と。
俺が何か言っても話が通じなそうだし。
これが最善だろう。
というワケで、俺は騎士団の皆さんと共にジャイアントボアを倒した場所へと行き。
手で倒れたジャイアントボアを示しながら、頷いた。
「では、こういうワケですので、運ぶのを手伝っていただけますと幸いです」
「なっ……!? なぁー!? ま、まさかお一人でコレを討伐されたのですか!?」
「いや、一人ではなく、ミーシャさ……ん、と一緒にですが」
「なるほど……いや、それでもとんでもない偉業ですぞ!? これは! いったいどの様な魔術を使えば、この太い首を落とせたのか」
「あ。それはリョウさ……んがズバーッと剣で斬ってました」
「まさか、その腰に差した獲物で?」
「えぇ、まぁ」
俺はなんだか居心地が悪いなぁと感じながらも頷いて応える。
そして、騎士団の団長さんは俺の言葉に驚きを示しながらも、途中から納得した様に何度も頷いていた。
まぁ、納得されたのなら何よりだけれども。
「で、ですね」
「はい……なんでしょうか。リョウ殿」
「この魔物を帝都に運ぶお手伝いをしていただけると、大変ありがたいのですが」
「おぉ、その様な事ですか。であれば我らにお任せください! むしろ、ここまで来て何も仕事が無いでは困ってしまいましたからな! ちょうどよかった! 皆! ジャイアントボアを運ぶぞ! 準備をしろ!」
団長さんの指示で騎士の方々はテキパキと動き、ジャイアントボアはあっという間に帝都へ向けて移動し始めたのであった。
そして、俺は運ばれてゆくジャイアントボアの隣で団長さんと色々と言葉をかわす。
「いや。噂に違わぬ実力。驚きました。是非、手合わせを願いたいものです」
「俺はいつでも構いませんよ」
「おぉ! 受けてくださいますか! ありがたい! では、良き試合をしましょう!」
「えぇ」
うるさいくらいに熱い人であるが、強さも感じている為、俺は模擬戦闘を楽しみにしながらテクテクと歩いていたのだが。
不意に騎士の一人が団長さんに声を掛けている事に気づいた。
「団長。例の事を英雄殿にお聞きください!」
「む? あぁ、そういえば、その件があったな。リョウ殿」
「はい? どうしました?」
「最近。スタンロイツ帝国に美しい花々が増えましてな」
「はぁ、花が」
突如始まった意味不明な話に俺は頷きながら応える。
「そして、その花々は鑑賞するだけでなく、言葉を交わす事も出来るという話を陛下からお伺いしたのです」
「花と会話を!」
「はい」
人の言葉を話し、会話をする花が居るとは……!
なんという面妖な話なのか。
何か、そういう新種の魔物でも居るのだろうか。
中々にヤバイ場所だな。スタンロイツ帝国。
いや、しかし。
どういう理屈でしゃべるんだろうな。
花という事は発声器官をもたないんだろうし……どうやって喋るんだろうなぁ。
「あー。リョウ殿?」
「どうされましたか? 団長さん」
「もしかして……なのですが、花を本物の花だと思っていらっしゃる……?」
「え? 違うのですか?」
「えぇ、まぁ」
「花というのはですね。麗しき女性の事でして」
「……なるほど?」
俺は少々の恥ずかしさを感じながら、言葉を飲み込んだ。
正直な所、俺は色々と察しが悪いので、こういう話は苦手なのだ。
というか、よくみんなよくそういう色々を察する事が出来るよな。という気持ちになる。
「んんっ。失礼いたしました。我々の世界の言葉で語り過ぎましたな」
「いえ。俺の察しが悪いのも良くないので」
「……では互いに悪かったという事にしましょう」
「えぇ。そうですね」
団長さんは朗らかな笑みを浮かべると、気分を切り替える為か咳ばらいをして、少しだけ真面目な顔を俺に向けた。
「リョウ殿」
「はい」
「実は私」
「はい……!」
「女性と会話した事が……! 無いのです!」
「……なるほど!」
突然の告白に、俺はよく分からないまま頷いていた。
いや、まぁ別に何かが悪いという様な事は無いのだけれども。
だから何なんだと言ってはいけない。
「だからこそ。リョウ殿がスタンロイツに開く店を楽しみにしておりましてな」
店……?
と一瞬考えたが、ドロシーさんの作ろうとしている店だと気づき、俺はあぁ。と頷いた。
「そうですか。お客様がいらっしゃるか気になってましたが、来て下さるのは嬉しいですね」
「それがですね!!」
「っ! は、はい?」
「行きたいのは、行きたい気持ちはあるのですが! 難しいのです!」
「む、難しい、とは」
「部下たちと店の近くに偵察に行った際! 我々は見てしまったのです!! 麗しき花々が咲き乱れる花園を!!」
「な……るほど」
暑苦しい。
と迫ってくる団長さんに言いたくなったが、俺は何とかそれを抑えて、頷いた。
そして、涙ながらに語る団長さんの手を振り払いたい気持ちを何とか抑え、彼の望みに耳を傾けるのだった。
「どうか!! 我々を花園へ導いては下さいませんか!?」
「それは、無論……構いませんけども」
「おぉ!! 本当ですか!? 感謝しても感謝し足りません!!」
えぇい! 暑苦しい!
と、俺は心の中で文句を言いながらそっと団長さんから一歩後ずさるのだった。