妙に暑苦しい騎士団の団長さんとの出会いがありつつも、俺は無事スタンロイツ帝国での初依頼を達成させた。
久しぶりの魔物討伐依頼である。
しかし、普段は肉の一部……状況によっては半分とかを報酬の一部として貰ってしまう為、報酬が減ってしまうのだが。
今回は特にそういう必要が無い為、全身をそのまま納品した。
「依頼達成おめでとうございます」
「はい」
「現在。納品されたジャイアントボアの鑑定中となりますので、最終的な報酬はまだ決まっていませんが、依頼の達成金だけ先に受け取って行かれますか?」
「あぁ。いえ。まとめてでお願いします」
「承知いたしました」
そして、冒険者組合の受付で依頼の処理をしつつ、何となく次の依頼を目で探してしまったのだが……そういえばミーシャ様が一緒なんだったと思い返し、俺はミーシャ様の方に顔を向けた。
「ミーシャ様。これで依頼は達成です。後は報酬を貰って終わりですね」
「おぉー。あっという間! でしたね!」
「まぁ、そうですね。だいたい、こんな感じで依頼を受けて、達成して報告して。みたいな感じで冒険者は仕事をする感じです」
「なるほどですー! 思っていたよりも早いんですねー」
「まぁ。そうですね。その方が儲かりますしね」
「リョウ様」
「どうしました?」
「ご一緒されている方は、もしかして冒険者では無い御方なのでしょうか」
「そうですね。登録とかはしてないです」
「登録されますか?」
「いや……」
俺はミーシャ様の身分や、存在がバレると良くないかと即座に断ろうとしたが……一応、ミーシャ様の意志を確認しようと振り返る。
ミーシャ様は苦笑しながら頷いていた為、俺は彼女の代わりにやはり断りの言葉を向けた・
「いえ。登録はしません」
「そうですか。承知いたしました」
「はい」
「であれば、忠告は必要ありませんね」
「「忠告?」」
俺はミーシャ様と共に声を揃えながら受付のお姉さんの言葉に首を傾げた。
何の話だろうと。
「えぇ。基本的に。普通の冒険者の方は、半日足らずで依頼を達成する事はございません。ですから、リョウ様を基準に冒険者という職を考えるのは危険だと判断しました」
「な、なるほど……」
「そして、差し出がましい事ではありますが……! リョウ様の基準で冒険者という職のお話をされるのは、非常に。非常に! 危険だと考えます」
「あ……これは申し訳ない」
「いえ。私が口を挟む様な事ではございませんでした。こちらこそ、申し訳ございません」
受付のお姉さんはペコリと頭を下げて、謝罪をしたが、俺もそんな受付のお姉さんに頭を下げる。
まぁ、確かに。
冒険者が簡単な仕事だよ。なんて言って、何も知らない人がそうなんだと思って勢いのままに依頼を受けて、死んでしまいました。
とかになったら話にもならないからな。
俺だって無茶や無謀が良くない事は分かっている。
「いや、迂闊でしたね。本当に。申し訳ない事です」
「いえいえ! お二人に関しましては、おそらく問題ないだろうという事は分かっているんです。ですが……」
「うん? 何か我々以外に問題が?」
「えぇ……まぁ。我が国特有の問題がございまして」
「良ければ聞かせていただいても?」
俺は受付のお姉さんがキッカケと零した話について意識を向ける。
「実は……近年、冒険者になりたいと考える子供が増えておりまして」
「ほう? それは憧れ……みたいな感情から、ですかね?」
「そうですね。セオストの冒険者、ヴィルヘルム様やアレクシス様が街を護った、国を護ったという英雄譚はスタンロイツ帝国にも届いておりますし。リョウ様の冒険譚も、つい先日本で発売されましたし」
「はい!? 本!? なんですか! それは!?」
話の中で、突如とんでもない爆弾が投げ込まれ、俺は驚きのままに声を上げてしまった。
が、受付のお姉さんはクスリと笑って、机の引き出しから一冊の本を取り出し俺に見せてくれる。
「『最も新しい英雄リョウ。彼はどこからきて、どこへ行くのか』ですか」
「はい。かなり人気の本でして。私も手に入れるのは苦労しました」
「な、なるほど……」
「そ、それででして。差し出がましいお願いなのですが……出来れば、本にサインが欲しいなと考えておりまして」
「え、えぇ……まぁ、それくらいは。書いた事が無いので、想像と違ったとかだと申し訳ないんですけど」
「いえ!! それが良いんですよ!!! それが! 英雄として在る御方が、人気集め等には興味がなく、ただ無辜の民の為に剣を振るうが!! 民のお願いにぎこちないサインを書く!! それが民を喜ばせる為だからと……!! 慣れない姿で!! っと、失礼いたしました。コホン」
「い、いえ……」
カウンターを乗り越える様な勢いで、沢山の想いを乗せながら叫ぶ受付のお姉さんに圧倒されながら、俺はそれなりに頑張ったサインを書いた。
いや、これで良いのかはサッパリ分からないけれど。
とりあえず、とても満足そうであったので良かったと思う。
「話が逸れましたね。リョウ様だけでなく、ヴィルヘルム様やアレクシス様。それにエルネスト様の本も出版されておりまして。子供達は、多くある英雄譚に心を躍らせ、冒険者に憧れる様になった。というお話でして」
「なるほど。確かにそんな状況で俺が冒険者は簡単。みたいな事を言ったら、大変な事になってしまいますね」
「はい。大変申し訳ない事ですが」
「いえいえ。子供の事を考えれば当然の判断ですよ」
「ありがとうございます……!」
受付のお姉さんが再び丁寧に頭を下げるのを見ながら、俺はふむ。と考えていた。
子供達が憧れから無謀な事をしようとしている。
それは結構な大問題であるが……正直な所、冒険者組合だけでどうにかなる問題でも無い様な気がする。
というか。
そもそもの話だが、彼らは冒険者に憧れているワケではなく、冒険や英雄に憧れているだろうから、大人が止めた所で冒険は出来てしまうだろう。
「一応。気になる事があるんですけど」
「はい」
「帝都から外へ、子供達だけで出る事は可能なんでしょうか?」
「それは……通常は出来ません」
「通常は。という事は?」
「はい。通常ではない手段では可能かと思います。例えば、商人の荷物に紛れたり、城壁の隙間から抜けだしたり」
「城壁の隙間?」
「えぇ。実は東側の城壁が、先日一部破壊されまして。補修が完了するまでは立ち入り禁止となっているのですが、そこから外へ出る事が出来るのです」
「壁を破壊したのは」
「リョウ様が討伐したジャイアントボアですね」
「……それは、ちょっと気になりますね。騎士団の方が見回りをしたりとかは?」
「騎士団は現在別件で部隊を動かす事が難しく……リョウ様のお考えになっている懸念事項は組合でも騎士団でも上がっているのですが、どうにも人がいない状態ですね」
「なるほど。そういう事でしたら」
俺は一応確認する様にミーシャ様へと視線を向けた。
ミーシャ様はコクリと頷いてくれた為、俺はそのまま受付のお姉さんに言葉を返す。
「その件、依頼として俺が受けても構いませんか?」
「えぇ!? よ、よろしいのですか!? しかし、英雄の方に依頼する様なものでは……!」
「無論、報酬はその依頼相応の物で大丈夫です」
「えっ!? えぇ!?」
「状況が揃い過ぎていますから。何が起きてもおかしくはないかな。と」
「それは……確かにそうなのですが」
「ジャイアントボアが倒されたという話が広まれば、警戒していた親も油断するでしょう。そうなれば子供だけで動ける様になる。最悪の事を考えると、動ける人間が動いた方が良いでしょう。幸い、俺は今、依頼が終わったばかりで暇をしていますので」
というワケで。
俺は新しい依頼を受けて、ミーシャ様と共に破壊された城壁の見張りをする事となった。