異界冒険譚   作:とーふ@毎日なんか書いてる

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第410話『お姫様の旅路(新しい世界)20』

 突如として現れた特殊な個体のジャイアントボアは、帝都を襲撃。

 自慢の突進により城壁の一部を破壊した。

 

 しかし、幸いと言うべきか。

 ジャイアントボアは帝都に常駐していた騎士によって撃退され、帝都からやや離れた場所に非難する事になる。

 

 更に幸いな事に、ジャイアントボアは街道から外れた場所に居座っていた為、街道を通る人々には何の影響も無かった。

 そして、ジャイアントボア自体の処理をどうするか考えていた所、俺が偶然冒険者組合に立ち寄った為、そのまま討伐依頼を出した。

 

「という話だったワケですね」

「運が良かった。という話ですね」

「そうですね。でも、まぁ俺が討伐する流れはそうしないで起こったとは思いますが」

「そうなのですか?」

「えぇ。スタンロイツ帝国の皇帝陛下とは親しいので、俺が滞在しているという話を聞けば、すぐ俺に投げて来たでしょうね。まぁ、その場合は皇帝陛下も一緒に討伐をしに来た可能性が高いですが。いや、そう考えるとさっさと終わらせて正解でしたか」

「ふふ」

「……ミーシャ様?」

「あ、申し訳ございません。リョウ様は王族の方とその様に気楽な関係なのだなと思いまして」

「……それを言うのなら、ミーシャ様も同じ王族の方なんですけどね」

「それは、確かにそうですね」

 

 クスリと笑いながら、ミーシャ様は俺のすぐ隣で微笑んでいた。

 そして、俺はハァと小さくため息を吐きながら、テントの外を見る。

 

「しかし、別に俺一人でも良かったんですよ? この依頼」

「そういうワケにはいきません。私も今はリョウ様のチームメイトですから」

「なるほど。しかし、いつ終わるかも分かりませんし」

「大丈夫ですよ。私もちょうど依頼が終わって暇をしていましたから」

 

 クスリと笑うミーシャ様は本当に何も気にしていない様子で。

 俺は何だかなぁ、と思いながらも、疲れたら家に帰ってくださいねと言っておいた。

 

「ですが」

「……?」

「何故、壁を見張るのに、テントを透明化しているのでしょうか。私達が居ると知らせた方が、子供達も近づかないのでは?」

「まぁ、それはそうなんですけど。それだと終わらないと思うんですよね」

「終わらない?」

 

 俺は、テントの中に入る前に買っておいたいくつかの本をミーシャ様に見せる。

 それは、俺の冒険が誇張されて書かれた冒険譚であった。

 

「憧れが恐怖を上回っていたら、いつか冒険をしたくなってしまうでしょう?」

「……なるほど。リョウ様は一度、子供達に失敗して欲しいのですね」

「えぇ。無論、怪我をさせるつもりはありませんが。恐怖を知るべきだとは思います。そうでなければ危険な事を繰り返してしまいますから」

 

 俺はテントから見える大穴を見ながら言葉を落とした。

 それは半分自分の経験から、そしてもう半分はシーメル王国で子供達と話して得た教訓だ。

 

「リョウ様は優しいのですね」

「そうですか?」

「えぇ。だって、失敗するとは言え。子供達が冒険出来れば、とも考えているんでしょう?」

「それは……まぁ、そうですね。きっと恐怖に出会うまでは楽しいでしょうから」

「であれば、やはりリョウ様は優しいと思います」

 

 ふわりと微笑むミーシャ様に、俺は何と返したら良いか分からず曖昧に笑って頷いた。

 そして、話は終わりだと、とりあえず買ってきた本を広げる。

 

「では、後は待ちましょう。穴には魔導具を仕掛けたので、誰かが通れば俺達に知らせてくれます」

「はい」

「いつ来るか……そもそも来ないか。どちらか分かりませんが、ゆるりと待機しましょう」

「そうですね。では、私もリョウ様の英雄譚を読ませていただきます」

「……」

 

 ニコリと微笑んだミーシャ様が一冊の本を取り、読み始めるのを見ながら俺は、何とも言えない気持ちになったが。

 ひとまずは気にしない様にしようと自分が持っている本に意識を向ける。

 

『セオストの冒険者。英雄リョウ様の秘密』

 

 いかにも怪しい本だ。

 何が書かれているか分かったモンじゃない。

 

 俺は心の中で溜息を吐きながらソレを読み始めた。

 

 

 そして。

 俺たちが見張りを始めてから三日ほど経った。

 

 基本的に、昼は周囲に人の目がある為、壁の穴に近づく子供はいない。

 故に、俺達が見張っているのは主に夜なのだが……三日目にしてようやく動きがあった。

 

 ちょうど、俺がドラゴンを刀で一刀両断している部分を読んでいた俺は、テントの中に鳴り響いた音に顔を上げる。

 

「どうやら来たみたいですね」

「えぇ。その様ですね。見て下さい。小さな影がいくつか外へ出てゆきます」

「追いかけましょう。この外套は着ている人間の姿を透明にする事が出来るので、着てください」

「はい……! ふふ。なんだかワクワクしてしまいますね」

「そうですね。では、急ぎましょう!」

 

 俺はミーシャ様と共にテントの外へ出ると、既に子供達が壁の外へ出ている事を確認して、テントから出て来たミーシャ様を抱き上げる。

 

「失礼」

「きゃっ」

「壁の穴は子供達も警戒していると思うので、上から行きましょう」

「うえ!?」

 

 そして、壁に向かって走ると、くぼみや出っ張りに足を掛けて、そのまま上に駆け登り、城壁の上まで行ってから一気に下へと飛び降りた。

 壁の穴からやや離れた場所に降りた為、子供達はこちらに気づいていない様子である。

 

「……大丈夫ですか? ミーシャ様」

「え、えぇ……。ですが、すごくビックリしました」

「申し訳ございません。ちょっと子供達の中に警戒の強い子がいたので、別の手段を取りました」

「警戒の強い子、ですか?」

「えぇ。彼らの先頭に居る子を見て下さい。先ほどから周囲に手を向けながら何か話をしているでしょう? 彼は、壁の穴を抜ける際にも常に周囲に気を配っていました。警戒心が強い。あのまま出て行ったら瓦礫を踏んだ音とかで気づかれた可能性があります」

「なるほど……!」

 

 俺は自分が透明化している事を確認しつつ、慎重に子供達へと近づいていった。

 そして、何かあった際にすぐ助けられる位置で彼らを見守る。

 

 男の子が三人。女の子が二人。

 年齢は十歳くらいだろうか。

 皆、不安と期待が入り混じった様な顔をしながら、帝都の外に広がる平原を歩いている。

 

「ね、ねぇ。大丈夫、かな?」

「何言ってんだよ。今更じゃんか」

「そうそう。もう外に出ちゃったんだからさ!」

「でも、ママが怒るかも」

「大丈夫だよ! パパとママが起きる前に帰れば良いんだから!」

 

 星空の下で、彼らは笑う。

 はじめての冒険に。

 心躍る外の世界に。

 

「どちらにせよ。あまり時間はかけていられない。急ごう」

「う、うん」

「でもジャイアントボアはもう倒されたんだろ? なら、急ぐ必要なねぇんじゃねぇか?」

「そんなの僕らを安心させる為の嘘に決まってるだろ」

 

 先頭に立って、警戒していた少年はジッと平原の向こうにある小さな森を見据えながら呟く。

 その顔には確かな確信がある様だった。

 

「僕は聞いたんだ。奴らが、ジャイアントボアでまた帝都に攻撃を仕掛けようとしてるって言ってたのを」

「……で、でも、私達で勝てるのかな」

「勝てるさ! ジャイアントボアは確かに危険な魔物だけど、弱点はある。だから僕らでも十分に勝てる!」

「あぁ、リックが言うんなら間違いないな。俺はやるぜ! 街を護るんだ!」

 

 子供達は気合を入れながら手を空に突き上げた。

 その姿には一切の恐怖が無く、彼らは溢れ出る勇気に従って突き進んでゆく。

 無謀な道を。

 

 そして、俺はそんな彼らを見ながら、ミーシャ様に小さな声で語り掛けた。

 

「もし、万が一ジャイアントボアが出た場合、前の個体と同じ様に鼻先へ攻撃をお願いします」

「え? でも……ジャイアントボアは倒しましたよね?」

「はい。ですが……少し気になる事もありますので」

 

 俺は先頭に立った少年の言葉を思い返しながら、一応警戒を強くしてゆくのだった。

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