夜中に安全な街の中から壊れた壁の隙間より外へ飛び出して冒険をする子供達を追いかけていた俺は、途中謎の男と出くわした。
その男は闇を身に纏い、子供達へと悪意の手を伸ばしていた。
その為、戦闘となったのだが……仕留めきった感触のないまま男は闇の中に消え去って、俺は何とも言えない感覚のまま泣き喚く子供達を安心させてスタンロイツ帝国の帝都へと戻るのだった。
そして、深夜でも開いている冒険者組合の建物へと子供達と共に入り、驚きのあまり椅子から立ち上がった受付のお姉さんに何か暖かい飲み物をいただけますか? とお願いをした。
「お待たせしました」
「申し訳ございません。わざわざ」
「いえいえ。この程度は問題ありませんよ」
ニコニコと微笑む受付のお姉さんから盆に乗った複数のコップを受け取り、それを子供達に配ってゆく。
子供達はとても礼儀正しく、俺や受付のお姉さんにお礼を言っていた。
そして、受付のお姉さんがニコニコと微笑みながら頷くと、子供達は安心した様に飲み物を口にするのだった。
「ですが。まさか本当に抜け出す子供達が居たとは……リョウ様の慧眼には助けられますね」
「慧眼という程では無いですよ。自分の子供の時の経験から、ですね」
「あら。リョウ様も幼少の頃はやんちゃな子供でしたか」
「まぁ、そうですね。落ち着きのない子供だったと思います」
茶化す様な受付のお姉さんの言葉に苦笑しながら頷いて、俺は先ほど見たモノに関する報告をついでに行う。
「しかし、そのお陰ですかね。気になるモノを見つけました」
「気になるモノ、ですか?」
「はい。黒い外套を身にまとった男が一人。悪意を持ってスタンロイツ帝国に何かをしようとしている様です」
「っ! その男について詳しくご報告をお願いします」
「はい。身長は俺よりも頭一つ分くらい小さくて、手が届く様な距離まで近づいても顔が確認出来ない程に深い闇を身にまとっていました。そして、攻撃はほぼ効かず、まるで霞を切っているかの様でした」
「……なるほど」
「それに、気になることを言っていたんですが、奴はジャイアントボアを『我が眷属』と呼んでいました。そして、眷属を倒した強き者を探していると」
「……つまり、英雄を探す為に、ジャイアントボアに帝都を襲わせた?」
「はい。そう考えても良いと思います。誰か名前のある個人を探しているというよりは、単純に強者を求めている様な言動に見えました」
「なるほど。しかし、そうなると奇妙ですね」
「そうですね」
「え? そうなんですか? っと、あ。ごめんなさい。話に割り込んでしまい」
「いえ。大丈夫ですよ。ミーシャ様」
俺は不思議そうな顔をして首を傾げているミーシャ様に微笑んだ。
そして、不思議だと言った理由をまず受付のお姉さんが話してくれる。
「スタンロイツ帝国という国は、正直な所。そこまでの強者が居ないのです。個人の強さよりも集団としての強さを目指している国ですから」
「ナルホド」
「そして、個人の強さを極めた者を探すなら、ちょうどスタンロイツ帝国から南下した所に自由商業都市セオスト。という場所があり、その場所ならエドワルド・エルネストを始めとした有名な英雄が何人も居るんですよ。だから、単純に英雄を探したいのならセオストでコトを起こす方が都合がいい」
「確かに。そう言われると、そうですね。不思議ですね」
「アイツは! スタンロイツを壊すって言ってた!」
「壊す?」
俺たちが腕を組みながら考えていると、子供達のリーダー的な存在であった子がコップを両手で持ちながら必死な顔で俺に訴えていた。
俺はその声を聴いて、少年の目線と同じ高さまでしゃがみ、正面からその子を見据えて問いかける。
「アイツっていうのは、俺が倒した奴の事かな」
「うん……! アイツ、街の中で怪しい奴らと話をしてたんだ。それで、ジャイアントボアをけしかけて、街を壊すって、スタンロイツ帝国を滅ぼすって!」
「……帝国を、滅ぼす。か」
だいぶ話が大きくなってきたなと思いながら、俺はこちらに目線を向けていた受付のお姉さんに向いて頷いた。
どうやら俺達だけで終わらせてはいけない話だと。
皇帝陛下に話を通す必要がありそうだ。
「そうか。大事な事を教えてくれてありがとう」
そして、俺は勇気ある少年の頭を撫でて、その勇気を称える。
彼の行動は無謀であったが、それはそれとして自分の大切な家族や国を護るために勇気を振り絞った物であったから。
だから、撫でられながら大粒の涙を流し始めた彼を俺は抱きしめて、その背中を撫でながら頑張ったな。と再度声をかける。
それがキッカケとなったのか、他の子供達も大泣きをしながら再び俺に抱き着いて来た。
恐怖が再び蘇って来たのか。緊張していた心が解けたのか。
分からないが、俺に出来る事は彼らを安心させる事だ。
そして、ある程度泣いて、再び子供達が落ち着きを取り戻した頃。
冒険者組合の入り口を荒々しく開きながら、複数の女性と男性が踏み込んできた。
「き、緊急で依頼したい事が!!」
「子供達が居ないんです!! どこにも!」
「もしかしたら、街の外に行ってしまったかも……?」
彼らは焦った様子で口々に叫んでいたが、俺も近くで温かいスープを飲んでいる子供達を見て、ヘナヘナと壁に寄り掛かったり、座り込んだりしていた。
どうやら彼らの依頼は依頼する前に達成していたらしい。
「パパ! ママ!」
「「ミア!」」
そして、一人の女の子が自分の両親と思われる人々に向かって走って行った事で、他の子供達も両親の元へ走ってゆく。
怖い夜は終わりをつげ、一番安心出来る場所へと向かう事が出来た。というワケだ。
「いや。事件が早々に解決出来て良かったですね」
「……そうですね。今の時間からの緊急依頼は、かなり難しかったですから。私も残業が終わらなくなってしまいますし」
冗談の様に苦笑しながら言う受付のお姉さんに俺は頭を下げて、ご苦労様です。とその労をねぎらう。
そして落ち着いて来たのか、感動から怒りに変化していったご家族と怒られる子供達を見やるのだった。
「このバカ! 今、何時だと思ってんだ!」
「そうだよ! みんなに迷惑かけて!」
「ご、ごめんよぉ」
「依頼料だってタダじゃないんだよ! 次の誕生日は無しだからね!」
「えぇ~!? そんなぁ」
「夜出歩いたら駄目だって言ったでしょ! 悪い子になっちゃうの!?」
「ち、ちがうの。ミアちゃんがね。いかなきゃ、だめだったの。怖い人に家が壊されちゃうって」
「怖い人を見つけたら騎士さんにお願いするんだよ! ミアが頑張るのは、騎士さんにお願いする事なの!」
「そうだよ。ミアが危ない事をしたらお父さんもお母さんも悲しいんだ」
それぞれの家族模様はありつつも、やはりどこも子供が心配な親と怒られて泣いている子供という姿だった。
唯一違うのは、子供達のリーダーであった少年か。
「だから! 街の危機だったんだよ!」
「それで何でお前が行く必要がある。父さんに言えば良いだろう」
「それじゃ間に合わないかもしれないから」
「お前が行って解決するのか? そうじゃないだろう!」
「リョウが、褒めてくれた!」
「英雄が子供の行いを貶すものか! お前の行動を認めた訳じゃない! お前が情けなく泣き喚いたから慰めの言葉を向けただけだ!」
「っ!」
「お前の行動は無謀だ。お前を慈しんでいる母さんの気持ちを踏みにじるモノだ! しかし、国という大きな場所で見た時、認めるモノがあった。だから彼はお前のその一点を褒めたに過ぎない!」
「な、なら……! 良いじゃないか!」
「良いワケがあるか!!」
「……っ!」
「母さんを悲しませて、何が国を護るだ! 最も大切な物を無視して何が平和だ。お前が大切にしなきゃいけない物を思い出せ!」
「僕は……!」
酷く悔しそうな顔をしながら言葉を詰まらせている少年を見て、俺は何とも言えない気持ちになる。
色々と失敗しただろうか?
子育てをした事が無いから分からないんだが……。
そして、俺のモヤモヤとした気持ちはそのままに、彼らはこちらに軽く頭を下げて出て行った。
最後にまた来ると言葉を残して。
俺、殺されるんじゃないだろうな?