子供達の大冒険を見届けた次の日。
俺はミーシャ様と共に冒険者組合のすぐ隣にある喫茶店に来ていた。
「あら~。コレ、とても美味しいですね。特にこのアイス。初めて食べましたが、何と言いますか。甘くて口の中で解けて……不思議な感覚ですね」
「気に入っていただけて何よりですよ」
「はい! 私はとても気に入りました!」
「そのアイス。スタンロイツ帝国でしか食べられないので、是非よく味わってください」
「なな! なんと! それは大切に食べなくてはいけませんね!」
俺はほわほわとした顔で嬉しそうにアイスを食べているミーシャ様を見ながら、これから起きるであろう事に覚悟を決める。
そう。
今日は昨日起きた子供達の大冒険について、子供達の親御さんたちに話をする日なのだ。
正直、子供達に余計な事を言った様な気がしているし。
殺されなきゃ良いなと、俺は緊張して乾いた喉を紅茶で潤していた。
そして、いよいよ時間となり……時間ピッタリに数人の男性と女性が店に入って来て、そのまま俺たちを囲むように座る。
なんだなんだ?
逃げ場を奪って袋叩きにするんじゃないだろうな。
「英雄リョウ殿とそのチームメイトですね?」
「え、えぇ。そうですね」
「昨晩の件ですが」
ゴクリと喉を鳴らしながら俺は唾を飲み込んで、眉間に皺を寄せた怖い顔の男性を見やった。
騎士の格好をしている事から、仕事は騎士をしているという事が分かる。
剣は当然の様に腰に差しているし。いつでも臨戦態勢に入る事は出来るのだろう。
最悪はミーシャ様だけでも逃がさなきゃな。
「子供達を助けていただき。本当にありがとうございました!」
「「「ありがとうございます」」」
「……あ、いえいえ。そんな。全然。大した事は無いですよ」
「いえ! ジャイアントボアの討伐。そして、子供達が外へ冒険に行く可能性を事前に察知し、準備をされていたとか! 組合で聞かせていただきました。本当に英雄殿には感謝しても感謝しきれません!」
「いえ。本当に。あの。自分も仕事をしただけですから。それに、ね。どちらかと言うと、自分が余計な事を言ってしまった事でご迷惑をお掛けしたのではないかという方が心配でして」
「余計なこと?」
「あの、その……彼らの無謀な行動を勇気があるとか何とか言ってしまい」
「あぁ! その件ですか!」
ひぇ!
騎士の人がガタっと椅子を揺らしながら反応した為、俺もまた少しだけ引いてしまった。
距離が、近い。
この距離では最悪最初の一撃を受けてしまう!
「英雄殿には、大変申し訳ない事をしました!」
「……へ?」
「まさか、英雄殿の言葉を盾の様に使うとは思わず、自分の教育の至らなさを感じました」
「えと……俺の発言が迂闊だった事で怒っているのでは?」
「いえ? その様な事は一切ございませんが」
「では、この場を用意したのは?」
「子供の居ない場所で改めて事情を伺いたいと考えたからです」
「……なるほど」
俺は冷静さを取り戻して頷いた。
そして、すぐ隣からは小さな声で「だから言ったではないですか」と責める様な声が聞こえて来た。
いや、分かっているんですよ。分かっているんですけどね。
万が一って事もあるじゃないですか。
と、まぁ。その話は良いか。
ひとまずは気持ちを切り替えて親御さんたちに向き直ろう。
「失礼しました。では昨晩のお話ですね」
「えぇ。お願いします」
コホン。なんて咳ばらいをしてみたが、クスリと笑っている人もいる為、俺が誤魔化そうとしている事はバレバレの様だ。
いや、恥ずかしい。
しかし、恥ずかしがってもいられない為、俺は昨晩の話を全て伝える事にする。
そして、全てを伝えてから、親御さんたちは何とも言えない微妙な顔をする様になった。
まぁ、それはそうか。
安全だと思っていた街の中に不審者がいて、しかもその不審者は子供達のすぐ近くまで来ていたというのだから。
「この件は……陛下にも何とかお伝えして、何かしらの対応を……」
「あぁ。その件なら大丈夫ですよ」
「え?」
「これから城の方に行って、皇帝陛下にも同じ話をするつもりなので、何かしら対策は出来ると思います。陛下が動けなくても、俺の方で見回りとかも出来ますしね」
「ま、まさか……! 既にそこまで動かれているとは」
「まぁ、早く動く方が良さそうな事件ですからね。そこは任せて下さい」
「ありがとうございます!!」
声の大きな騎士のお父さんから礼を言われながら、俺は何でもないよと手を振り、改めて皇帝陛下と話をした後に状況を伝えると約束をした。
まぁ、伝えられる物だけは。という話ではあるが。
そして、事務的な話も終わり、何となく場は子供達の話に流れてゆく。
「まさか、子供達だけで外へ飛び出してしまうとは……驚きました」
「心中お察しします」
「しかし、英雄殿がちょうどスタンロイツにいらっしゃって、本当に助かりました。どの様なお礼をすれば良いか」
「いえいえ。礼なんて必要ありませんよ。仕事をしただけですからね」
ハハハと気軽に笑いながら、気にする事無いですよと告げてゆく。
「しかし。英雄殿とこうして話が出来るとは、不幸中の幸いという奴ですかな」
「別に。そんな大層な人間でも無いですから。冒険者組合に一言おいておいてくだされば、会う事くらい容易く出来ますよ」
「そうなのですか!?」
「えぇ。まぁ。何だかんだと呼ばれても、俺は普通の平民ですからね。皆さんと同じ」
「なるほど……」
「で、でしたら!」
「はい?」
「その……子供と話をして下さる事は可能でしょうか?」
「えぇ。まぁ、話くらいは全然構いませんよ」
「本当ですか!? ミアちゃんが、是非とも英雄様にお礼が言いたいと言っておりまして」
「お礼……?」
はて、と首を傾げているとすぐ隣からミーシャ様の華麗な助言が入る。
「あの子じゃないですか? 男に捕まっていた所を助けた子」
「あぁ……あの子かぁ。はい。大丈夫ですよ。今日の午後は……少々予定がありますので、明日以降であれば」
「はい! では、また組合の方にお言葉を残させていただきますね!」
「まぁ、それほど固くならずとも良いので、都合が良い日をお伝えください。こちらも良い日に会いに行きます」
「そういう事であれば! ウチの子も同席させても良いですかな?」
「ウチもお願いします!」
「俺は何人でも、どこでも構いませんし。また連絡をして下さい」
「英雄殿!」
「は、はぃ!?」
そして、落ち着いて穏やかに話が出来ていると思っていたら、不意に騎士のお父さんが大きな声を上げた事で俺の心臓は再び大きく跳ねた。
驚きに全身が包まれ、鼓動がドクドクと速くなる。
「我が息子にも会ってやっては下さいませんか」
「それは無論……構いませんが」
「生意気ではありますが、親のひいき目を抜きにしての、優秀な子です。貴方の活躍を描いた書も楽しんで、何度も何度も読み、魔物の事や冒険者の事も、自分で調べ、学び楽しそうに語っておりました。きっと会えば何よりも嬉しいと思います」
「えぇ。それは勿論構いませんとも。確かに、優秀そうなお子さんでした」
「そうでしょう!?」
「は、はぃ!」
「あの子は私達の子とは思えぬ程に優秀で、将来は国の役人になるのだろうと考えておりましたが、今は冒険者に憧れている様で、いやしかし、冒険者としても活躍するであろうなという事は……!」
子を愛する親というのは凄いものだ。
彼の話から始まり、周りの親御さんも自分の子供がいかに素晴らしいかを全部俺に説明してくれた。
いや、もうお腹いっぱいですよ。
本当に。
「……貴重なお話。ありがとうございました」
そして、俺は最後にはただ頷くだけの人形の様になっており、何とか子供自慢大会を乗り越える事が出来たのだった。