子供たちの大冒険を見守った次の日の午前。
俺はひとまず子供たちの親御さんに起こった事を伝え、これからの事を話し合った。
とりあえず、親御さんたちは子供を愛する普通の親であった為、何ら問題はなく、子供を中心として話は無事完了するのだった。
そして、俺は約束していた皇帝陛下との面会をする為に、城へ来ていたのだが。
相変わらずというか、なんというか。
大した待ち時間もないまま面会室へと案内され、すぐに皇帝陛下が顔を出す。
「待たせたか? リョウ」
「いえ。驚くほど早くいらっしゃったので、お菓子もお茶も手を付ける事が出来ませんでしたよ」
「ハハハ。それほど食べたかったのなら、遠慮せずに食せば良い。許そう」
「では、遠慮なく」
俺は何回も会う事で生まれた気安さのままお菓子を一つ口に入れ、紅茶を飲む。
そして、正面に座る皇帝陛下へと口を開いた。
「依頼の中で怪しい男に会いました」
「うむ。既に報告は受けている……特徴や目的もな」
「はい」
「だが、正直な所帝国を恨む者は多くてな。敵がどういう者なのかを掴むのは不可能に近い。だから、一つお前に聞いておきたい事があった」
「……なんでしょうか?」
「事件が解決するまで帝国に住み続ける事は可能か?」
「それは無論。元よりそのつもりです」
「いや、無理に言うつもりは……と、なんだと?」
「いえ。ですから。帝国に基本的には居るつもりです。無論、シーメル王国とかで大きな動きがあったら、そちらに移動する可能性もありますけど。何も無ければ帝国に居ようかなと」
俺の言葉に皇帝陛下は酷く驚いた様な顔をして、ふむ、と呟きながら顎を撫でた。
「どういう心変わりだ? お前はあまり帝国が好きではなかっただろう?」
「いや、別に嫌いというワケじゃないですよ。ただ、皇帝陛下との出会いがアレでしたし。ココちゃんが住みにくい場所だろうな。と思っているくらいで」
「なるほどな。しかし、今回の事件では子供たちが巻き込まれる可能性が高いから、見過ごせない。か?」
「まぁ、そんな所ですね」
「ふははは! お前は本当に。とことん英雄なのだな。リョウ」
心底面白い話を聞いたとでもいう様な顔で皇帝陛下は笑う。
そして、ひとしきり笑ってから皇帝陛下は俺を真っすぐに見て、口を開いた。
「報酬は何が欲しい?」
「まぁ、普通に相場の依頼料をいただければ。帝都内の見回りと、緊急時の戦闘ですね」
「安いな。その程度で良いのか?」
「見回り程度なら大した仕事じゃないですしね。戦闘はその規模である程度貰えるでしょうし。こんなモノで大丈夫ですよ」
「ふむ。しかし、安く英雄を使うというのも、あまり良くないな。何か他に願いは無いのか?」
「願い、ですか? 騎士団との模擬戦とかですか?」
「むしろそれはこちらから願いでる事だな」
「んー。なら……あ、そうだ。例の店があるじゃないですか。ドロシーさんが開く店」
「ふむ? あぁ、あったな」
「アレのお客として騎士団の希望者を招待する事は可能ですか? 皇帝陛下のお金で」
「それは無論構わんが……そんな事で良いのか?」
「もちろんですよ。せっかく妹が頑張っている事業なんですから、協力したいじゃないですか」
「分かった。容易い事だ。受けておこう。他は?」
「他ですか? ……難しいですね」
「欲のない奴だ。貴様の頭にあるのは妹だけか?」
「まぁ、あながち間違いでは無いですね」
「まったく。どこかの貴族令嬢でも紹介してやろうか。それで少しはまともな人間の感性を磨け」
「いや、俺は至って普通で、まともな……っと、ちょっと待ってください。貴族令嬢を紹介して下さる?」
「あぁ。確かに言ったが……まさか、乗り気なのか? 何か悪い物でも食べたか?」
「失礼な。俺は至って正常ですよ。いえ。そうではなくてですね。貴族令嬢を紹介して下さるのなら、ドロシーさんの新しい事業に協力いただきたくて、ですね」
「何かと思えば、また妹か。仕方のない奴だ。まぁ、良いだろう。今度、ドロシーとやらに説明に来させろ。それ次第で誰を紹介するか決める」
「分かりました」
という訳で、報酬の話は終わり、俺は明日から帝都内の見回りをする事となった。
そして、またあの怪しい男が現れた際には、帝国の騎士団と協力して討伐する約束をする。
「しかし、闇をまとった男……か」
「何かご存じなのでしょうか?」
「いや、記憶にはないな。少なくともこの500年ではない」
「では、まったく新しい組織……または個人。という事ですかね?」
「……そうとも言えないだろう」
「え?」
「私は500年間の事しか知らん。それより以前の事はあまり多くを知らんのだ」
「いや……500年ですよ? まさか、そんな」
「だが、お前の報告では普通の人間では無かったのだろう?」
皇帝陛下の言葉に、俺は男の事を思い出していた。
霞を斬っている様な感触。
そこに肉体の気配はなく、まるで闇がそのまま喋っている様な違和感が男にはあった。
「そもそもだ。私や、かの勇者たちが500年以上生きているのだ。我々以外にも長く生きている存在が居てもおかしくはない」
「理屈としてはそうでしょうけど……でも、そんな相手にどうやって戦えば?」
「簡単だ」
「……」
「殺せばいい」
「でも、死なないんですよね?」
「死なないワケではない。我らは長い命を生きているだけだ。不死では無いのだ。ゆえに殺せば、死ぬ」
「酷く当たり前の様な言葉ですが、まぁ、確かにそうなんですよね」
そりゃ殺せるなら人は死ぬだろうと思うが。
いや、それはそうだけどさ。みたいな気持ちになる。
でも、不老不死という存在でないのなら、何かしらその命を止める方法はあるというのは分かる話ではあった。
「しかし、そう考えると、あの男はなかなか難しそうですね」
「と、言うと?」
「男を斬った時に、斬った感触が無かったんです。ただ、俺の神刀は魔力を斬る事が出来ますから、撃退する事は出来た様ですが、何がどうなって、そうなっているのか俺にはサッパリ分からないんですね」
「なるほどな。魔力を身にまとう。もしくは、魔力で構成した肉体か」
皇帝陛下は俺の言葉に頷いて、何やら考え込んでいる様だった。
そして、少し考えてみようと言い残して、話し合いは終わりを迎えた。
とりあえずの報告も終わり、明日からの仕事も出来たという事で俺は城を出て、スタンロイツ帝国の自宅へと戻ったのだが。
何故かそこには修羅場が出来上がっていた。
「貴女じゃ話にならないから。お兄ちゃんを呼んでって言ってるの!」
「別に自宅で待っていればよろしいのではなくて? わざわざこちらに来られても迷惑なのですけれど。こちらはこちらで上手くやってますし」
怒りを表情に出しながら言葉を投げつけている桜と、それを正面から受け止めて、同じように言葉をぶつけているドロシーさん。
そして、二人の近くにはそれぞれと親しい人達が、向かい合う子たちを睨み合っている。
最悪だ。
「ちょっと。どうしたの?」
これはすぐにでも止めなくてはいけないと、俺は駆け出し、二人の間に入った。
だが……。
「お兄ちゃん!」
「リョウさん……!」
「お、おぅ。順番に。順番に話を聞くから。順番に話してくれるかな」
二人は互いにキッと強く睨み合った後、ほぼ同時に口を開いた。
「この女が!」
「この小娘が!」
「分かったから。順番ね」
と俺は再度繰り返したが、二人は睨み合うばかりで譲るという発想は無さそうである。
仕方ないかと、俺はひとまず桜の話を聞いてみる事にした。
まずは桜の話を聞いて、それからドロシーさんの話を聞こう。
うん。そうしよう。
順番を告げるのは緊張するけど、やらねばならない。
何故なら俺はお兄ちゃんだから……!
行くぞ。小峰亮!
気合いだ!