さてさて。
スタンロイツ帝国に来てから様々な事があり、定例で行う仕事を得て、ひとまず家に帰還した俺であったが。
ようやくたどり着いた家の前で行われていたのは妹たちと妹たちによる争いだった。
どうして……。
なんて、とぼけた事を言うつもりは無い。
今回の事件は起こるべくして起こった衝突。という事だ。
「まずは事情を聞こう。桜から話して貰えるかな?」
俺は外で話をするのも何だからと、家の一階にある既にほぼ完成しているお店部分へ桜たちやドロシーさんに入って貰い、話をする事とした。
話し合いの基本は話す事である。
何を当たり前の事を言っているんだと思うかもしれないが、話し合いで話が出来ない人々もいる為、これは本当に大切な事なのだ。
「お兄ちゃんが帰ってこない! フィオナちゃんがなんか、向こうの家で働くとか言ってる!」
「なるほど。それで桜はどういう事だ。って怒って来たって事かな?」
「そう!」
「ふむふむ。で、ドロシーさんは」
「突然家に来て、リョウさんを出せ。と言ってきましたので、拒否しました。以上です」
「何が拒否しただよ! アンタにそんな権利無いでしょ!」
「確かに。ですが、従う義務もありませんので」
「お兄ちゃんに助けられてる癖に」
「それは貴女も同じでしょう?」
ギギギと桜はドロシーさんを睨みつけ、ドロシーさんもまた冷たい瞳で桜を見やる。
なんともまぁ。
相性の悪いことだなと俺はため息を吐いた。
「まず、俺が帰ってこなかった理由だけど。ごめん。これはちょっと秘密の多い依頼を受けてて、しかもそれが西側諸国に行く依頼だったから、長い時間秘密の活動になっちゃったんだ。だから、心配かけて、ごめん」
「……それは、まぁ、いつもの事だから良いけどさ。子供達が不安がってるから、顔を見せてあげて」
「あぁ。分かったよ。後でちゃんと行く」
ひとまず冷静さを取り戻してくれた桜に安堵しつつ、俺は一つ目の事情を伝えた。
そして、もう一つの話をする。
「そして、フィオナちゃんの件だけど。それはフィオナちゃんがドロシーさんとしっかりと話をして、その上でどうするかって考えている話なんだ。だから桜がそれに反対するのは駄目だろう? フィオナちゃんの人生は、フィオナちゃんが決める事なんだから」
「それは……! そうかもしれないけどさ。急に家から居なくなるなんて……寂しいじゃん」
「ふむ。まぁ、そうだよなぁ」
桜の呟きに、俺は腕を組みながら考える。
以前から考えてはいた問題だ。
それが遂に表面化したという様な所だろうか。
家を複数持って、それぞれに住む人がいたら、家が違う人と会うのが難しくなる。
それは俺も同じだし。フィオナちゃんもこっちで働く様になったら同じになる。
ならば、と用意しておいた手段はあるが……それを実行しても良い物なのか、少し考える。
考えながら……ドロシーさんを見た。
「ふふ。リョウさんには良い案がある様ですね?」
「えぇ。まぁ。でも、みんなが納得するかは微妙ですね」
「では、お聞かせいただいてもよろしいですか? 一人で悩むより、多くの者で知恵を集めた方が良い考えも浮かぶでしょう?」
「それは確かに」
ドロシーさんの言葉に俺は納得し、以前考えていた案を皆に伝える事にした。
「元々計画していた事ではあるんだけど。それぞれの家を転移門で繋げて、自由に行き来出来る様にしたいって考えてるんだ」
「まぁ……」
「自由に行き来出来れば、誰がどこの家に居ても簡単に会う事が出来るし。俺が遠くへ出張とかしても、出張先の家から夜だけこっちに戻るとかも出来るしね。何かあった時に、すぐ動けるってワケ」
「それは……その、技術的に可能なのでしょうか?」
「えぇ。出来ますよ。あ。でも、法律的には全然駄目なので、ここで聞いた話は内緒にして下さいね」
なんて冗談の様に笑って伝えたのだが、ドロシーさんは酷く深刻な顔をしながら、ドロシーさんの妹たちに振り返って同じ言葉を繰り返す。
「みんな。聞こえたわね。絶対に外で話しちゃ駄目よ」
「はーい」
「これは命を懸けた誓い。だから、破った子は残念だけど、殺すしかなくなっちゃうから。ちゃんと気を付けるのよ」
「わかってまーす!」
「気を付けます!」
「ちょ、ちょっ! ちょっと!? ドロシーさん!?」
「はい? 何でしょうか」
「いや、そんなに厳しい誓いを立てなくても大丈夫ですよ! イザとなればいくらでも逃げる手段はありますし」
「無論、リョウさんならば問題なく行動出来るという事は理解しています」
「なら……」
「ですが、邪魔でしょう? 容易く外へ秘密を漏らす様な者が居ては」
「いや……邪魔とかは無いので。誰にでも失敗はありますし。間違いを許容できないと、息苦しいじゃないですか」
「なるほど。リョウさんは本当にお優しいですね。では、リョウさんはその様に」
「ドロシーさんは……?」
ドロシーさんはニッコリと微笑むばかりで何も言わなかった。
つまりは、そういう事だろう。
自分は秘密を洩らした人と話した相手を殺してでも秘密を護るという事だ。
余計な事を言ったかなぁ。と俺はしょんぼりしながらため息を吐いた。
「大丈夫ですよ! お兄さん! ドロシー姉さんはこう言ってますけど、実際にやる事は無いと思うので!」
「そう? なら良いけど。何かあったら俺にも相談してね。ミリーちゃん」
「はい!」
ミリーちゃんに慰められながら、俺はひとまずの納得を示した。
そして、気持ちを切り替えて再び話の続きをする。
「で、だ。転移門を設置すれば、互いの家を行き来できるワケだけど、みんなはそれに納得出来るかい? っていうのが俺の聞きたい事なんだ」
「……確かに難しい問題ですわね」
「正直、その人たちの事を私はまだ少しも信用してないから、家に来るのはイヤ」
「なら……家の玄関に繋がる様にするとか?」
「それでも私の部屋とか入れるじゃん。食糧庫だって。毒とか入れられたらどうするの?」
「そんな事はしないと思うけど……。毒を混ぜて嬉しいことは無いでしょ?」
「分かんないじゃん! お兄ちゃんを独占する為にやるかもよ!? だって、何でもやってきたって自分で言ってたからね! その女! だから、転移門作るなら、私達だけ通れるようにして! お兄ちゃんもだけど!」
「あら。その理屈では、アナタが私達に毒を盛る可能性もあるのではないかしら? だって気に入らないのでしょう? 私の事が」
「私がそんな事する訳無いでしょ!?」
「分かりませんわ。だって、アナタもそう言って私を疑っているのですから」
「家を貸してやってるのに! 偉そうに!」
「住んでも良いと許可を下さったのはリョウさんと記憶していますけど、違ったかしら」
桜とドロシーさんの衝突はやはりというか、一切変わらず正面からぶつかり合っていた。
気持ちが合わないんだろうなぁ。
性格も、生まれも、育ちも、何もかもそうなんだろうけど。
「ならさ!」
「ん? フィオナちゃん。いい案ある?」
「うん。あるよ」
「おぉ。それは助かる。聞かせて欲しいな」
俺の言葉にフィオナちゃんはコホンと軽く咳ばらいをして、場が静かになってから提案を口にする。
「要するに、みんな入って欲しくない場所があるんでしょ? 私も、部屋の中に勝手に入られるのは嫌だしね。そこは同じ。だからさ。家と家は転移門で繋ぐけど、階とか個別の部屋とかは、許可された人しか入れない様にすれば良いんじゃない? そういう魔導具あったでしょ?」
「確かに。あったね」
「それで、みんながみんな、個人で入って欲しくない空間とかを話し合いで決めて、魔導具を設置して、管理。これで解決でしょ!」
「おぉー!」
想像していたよりも、ずっと良い提案に俺は手を叩いて素晴らしいと賞賛した。
皆さん! 見て下さい! 俺の妹が可愛くて、天才ですよ!
みなさーん!!
と俺は心の中でいつまでも賞賛を送り続けるのだった。